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仕事を続けながらリスクなく「スモールグッドビジネス」を作る方法

みなさん、はじめまして!
(の方にたくさん読んでもらってる前提で自己紹介は以下のリンクより)

このnoteでは僕が立ちあげた一般社団法人Fukusenという団体で運営している「Fukusen」という仕組みについて、めちゃめちゃ詳しくご紹介したいと思います。

キャリコネニュースさんに取材してもらった記事が一番僕の本音を引き出してもらえたので、そちらを転載させてもらってます。
聞き手は株式会社グローバルウェイ取締役の根本勇矢さんで、構成はキャリコネニュース編集部さんです。

元記事はこちら

「副業解禁時代」のサラリーマンが手を出してはいけないこと

フリーランスは意外と「スキル」で戦えない?


――最近「副業解禁」をする会社が増えていますが、具体的に何をしようかと考えると迷います。いままで身につけた専門スキルを活かして、フリーランスとして仕事を取るといっても、責任や負担は小さくないし、会社員との両立は容易ではない。

細野:そもそも「スキルワーカーは安定しているか?」と言われると、実はそんなこともないですよね。スキルって時間が経つと陳腐化しちゃうし、競争原理に思いっきりさらされる。

――営業力や細かな気配りなど中核スキル以外のいろんな力が必要で、ライターもエンジニアも独立すると「全然専門スキルで戦ってないんだけど?」となりがちです。

細野:一個のスキルを極めて、同じスキルを持っている人と競い合い、単価を叩かれながら食えるようになるのは相当大変なことです。それよりも、一個の「小さな事業」を作る方が楽なのでは、と思ってるんです。

年収400万円で手取り300万円くらいのフリーランスは多いですが、そこを目指すより「事業」を作る方が、実は理にかなっているのではないかと。大手企業が参入してこないニッチな領域で、自分の好きとか知ってる分野を活かしたスモール・ビジネスって、すごく安定していると思うんですよね。競争にもさらされないし。

――そういう「事業」が、サラリーマンの本業の横で回っているのは理想ですけど。

細野:僕は、サラリーマンである間に「事業」を仕込んでおくべきだと思っているんです。いきなり「辞めました」とか「先に会社作りました」とかじゃなくて、サラリーマンでメインの収入源があるからこそ、チャレンジができる。

クライアントに時間を売るスキルワーカーは、副業としてやるのは意外と難しい。でも事業作りは、自分のペースで仕込める。会社員が時間に縛られず、本業があるから焦らずに準備するスタイルが、もっとメジャーになるべきだと思うんです。

大事なのは「自分にとって十分な小ささ」


――考えてみれば、脱サラもフリーランスも副業も起業もリスクだらけです。細野さんが提唱する概念は何と呼べばいいのでしょうか。

細野:近いのは「週末起業」かな。でもそれだと週末にしかやらない感じを醸し出しちゃっているところが違うけど。最近の流行りだと「ひとり起業」とか? でも僕、起業っていう言葉がすごく嫌いなんですよね。会社という箱を作っても意味がない。

「サイドビジネス」も日本語に訳すと副業に戻っちゃうので、あんまりピンと来ない。起業のような「立ち上げようとする行為」を言うのか、ビジネスが回っている「立ち上がった状態」を言った方がいいのか。

――ロバート・キヨサキが『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』(筑摩書房)で提唱した「ビジネス・オーナー」に通じる気もします。

細野:そう、「オーナー」なんですよね、最終的な状態としたら。自分がオーナーになっていて、自分があくせく働かなくても、スモール・ビジネスが回っている状態を作ろう、みたいな。ゴールでいうと、そっちを言うといいんだな。

僕、「スモール・グッド」っていう言葉が好きで、「自分にとって十分な小ささ」が大事だと思っているんです。競争にさらされない小ささ。だから「スモール・グッド・ビジネスのオーナー」というのが、概念的に一番近いですね。

個人が自分の人生を主体として考えるキャリアの選択肢が、日本にはまだありません。結局は雇われ人としてどう生きるかを考えるしかなく、体よく使われる兵士になるためのノウハウが出回っているだけ。

一方で、起業というとすぐIPO(株式公開)だとかユニコーン(高評価額の未上場企業)だとか、ひと儲けするとか売り逃げるとかになるけど、そういうことじゃない。十分ないい小ささで、自分が幸せに生きるために必要な、ちゃんと価値を提供しながら持続するビジネスで、それが自分のやりたいことだったらいいなと。

自分が好きなことじゃないと、続かないし幸せじゃない


――ミドルのセカンドキャリアについても、いろんな本が出ています。そういったものと細野さんの考えとの違いってなんですか。

細野:これまでのキャリア本は、やっぱりスキルワーカー的な色が抜けてないと思うんですよね。俺がすべて回す「株式会社 俺」みたいな。

市場が見えていて、儲ける仕組みづくりをコツコツやれば、自分が好きなことじゃなくても回っていくかもしれないけど、やりたくないのに小金儲けできるのはグッドじゃない。ただのスモール・ビジネス。

自分がやっていて好きだとか、「自分だから」みたいな色がないと、幸せじゃないし続かない。とはいえ、俺がすべて回すのもツライ。俺が回すのではなくて、仕組み化するのがスモール・グッド・ビジネスのオーナー、って感じはしますね。「俺じゃなきゃダメ」ではないんだけど、「俺がやりたい」っていうくらいの。

――それが可能な領域って、いまだとインターネットビジネスになりますか。

細野:そうとは限らないんですよ。もちろん、これから起業するのにネットを使わないことはありえない。でも、ツールとしては使うけど、ネットビジネスに限るわけではない。

下手したら利益率1%のビジネスとか市場にはあるわけで、そうすると300万円の手取りのために3億円の売り上げ立てないとみたいなことになる(笑)。戦う立地と、自分のやりたいことをどの領域でどうビジネス化するかさえ決められたら、可能性があると僕は思っています。

「スモール・グッド」なアイデアはこんなに転がっている

購入前のマンション住民に聞ける「SMUCAMO(スムカモ)」


――前回は「副業解禁時代」のサラリーマンが手を出すべきではない仕事と、「スモール・グッド・ビジネスのオーナーになる」という対案についてお聞きしましたが、もう少し具体的な例をあげていただけますか。

細野:いま僕は「Fukusen(フクセン)」というプロジェクトを立ち上げて、会員を募ってビジネスプランを練っています。集めた会費もプラン検証のために投資するので実質ボランティアなんですけど(笑)、そこに出ている案件からいくつかご紹介しましょう。

たとえば「SUMUCAMO(スムカモ)」というアイデアがあるんですが。中古マンションを買おうとする人って、家族がいると、子供の教育環境や学校はどうかとか買い物はどうかとか、住んでいる人にしか分からないことを最後に確認したいじゃないですか。

でも、マンションの住人にピンポーンって行って「実際住んでいてどうですか?」とか聞けない。どの部屋に家族連れが住んでいるかもわからないし。不動産屋さんに「住民にヒアリングを設定してくれますか?」と頼もうにも、変なこと言われたら嫌だから受けてくれないでしょう。

でも購入時にそこでミスったら、数千万円ミスるわけじゃないですか。その瞬間ってそれなりの金額出してヒアリングしたいというニーズがあるのでは、ということで「あなたが今から買おうとしているマンション限定で、住んでいる人とのヒアリングをセッティングしますよ」っていうサービスを作ろうとしている人がいます。

マンションに住んでいる方々の家族構成などをデータベース化しておいて、1時間いくらみたいな感じで、匿名で顔出さずに根掘り葉掘りヒアリングできる。そうすると購入前の不安が全部消せるし、「実はここ治安が悪くてね」みたいな話も聞ける。

大企業がやらないビジネスの「すき間」が存在する


――あの、すみません、これ記事にしちゃって大丈夫ですか。どこかの企業とかに、アイデアをパクられたりするおそれはないんでしょうか。

細野:大丈夫。企業がやるには規模が足りなかったり、既存事業に悪影響を与えるとかいう理由で諦めさせられてるアイデアって、この世に何万とあると思っていて、それを個人の「スモール・グッド・ビジネス」として実現させるものだからです。

購入前に絶対に知っておかなきゃいけない情報だから、1時間のヒアリングで数万円出す人もいるはず。謝礼で半分支払ったとしても1~2万円のフィーが入ります。それが年間300人いたら300万円。個人なら十分幸せな「スモール・ビジネス」ではないですか。

――販促のブレーキになる領域だから、不動産会社は絶対にやらないビジネスですね。既存のサービスがハード面のニーズをほぼ揃えてきたから、その先のラストワンマイル、もうひと深掘りのこだわりを満たす需要が出てくる。

細野:ちなみに、このアイデアをやろうとしている人は、自分がマンション買うときにそういう負の経験があって、自分としてやる意味があってやっている。こういうすき間は、実はいっぱいあるんですよ。

――大企業の新規事業プロジェクトだと「3年で黒字化マスト」とか、前提となるコストが大企業の人件費で、大企業のビルの固定費はかかるし、大企業のマーケティングを使う前提になってしまう。

細野:でも一人でやれたり、誰かにちょっと手伝ってもらうくらいでやれるんだったら、全然黒字化できるし、スモール・グッド・ビジネスのオーナーは夢ではないと思います。下手にスキル極めて食えるようになるより、僕は楽だと思っています。

「さほど儲からない」ことが最大の参入障壁


――むしろサラリーマンとして、会社の中で途中まで検証してからやってもいいですね。

細野:そうそう。会社の中でダメだって言われたら「ラッキー!却下しましたよね?」と。それ、僕のアイデアですよって言って、会社辞めずに仕事しながら立ち上げて、仕事しながら幸せになればって、そんな感じ。

もうひとつ「歩き飯」というアイデアを紹介しましょう。いまコロナ禍で、みんな外に出なくなって太っちゃっていますよね。飲食店のデリバリーサービスで配達だけされてバクバク食べて、しかも割高じゃないですか。で、太ったから歩かなきゃ、みたいな愚かなことをしている。

一方、店側はデリバリーに売上の30%以上取られるし、本当は店に来てほしいんだけど開店休業状態。だったら「コロナ太りで歩かなきゃいけない人が、お店まで歩いて行って食べたらキャッシュバックされる」っていうサービスはどうかと考えたんです。

店からしたら、今まではターゲットじゃなかった中距離圏の人たちが10分以上歩いてきてくれるから、新しい商圏の集客につながります。しかも手数料を取られないし、配達準備もしなくていい。お客としても、ちょっと歩いて健康になって、100円とかキャッシュバックされるので遠くても歩いていく。

――これも、そんなに儲からないところに企業は時間かけてやらない、ということが最大の参入障壁ですね(笑)。でも本人としては、太ったから嫌だとか、何かしらの課題感を持っているから、ちょっとずつ積み上げて検証して、いつかビジネスになるかもしれない。

細野:そう。それで誰かが喜んでくれて、自分の利益になって、こんな幸せなことないじゃないですか。これならネットは使うけれども、ネットビジネスではない。

細野:事例があると「ああ、それは確かに行けそうだし、大手がやってこなさそうだね」って思うでしょう。いま僕がやってる「Fukusen(フクセン)」というプロジェクトは、そういう面白くてスモールだけどグッドなものをインキュベートしていきたいと思って運営しています。この運営のしくみも面白いと思うので、具体的に説明しましょう。

ビジネスパーソンが失敗しながら事業を学べる「Fukusen(フクセン)」のしくみ

月1万円の会費は「軍資金」としてプール


――前回は、細野さんが運営する「Fukusen」(フクセン)というコミュニティで生まれたスモール・グッド・ビジネスのアイデア例を紹介してもらいました。Fukusenはそもそも、どういうコンセプトで運営されているのでしょうか。

細野:Fukusenは、本業以外にスモール・グッド・ビジネスをやりたい人が集まったコミュニティです。メンバーは40人ほどで、最初に1時間30分×6回くらいの基本的なレクチャーをさせてもらっています。「ビジネスモデルってこうやって考えるんだよ」とか「マネタイズってこうやるんだよ」というような。

それを終えたら、メンバーに「こんなビジネスはどうか」というアイデアを持ち込んでもらいます。それを僕が、どうすれば年間売上1000万円くらいの、ちょうどいいサイズの、マネされない、儲かりすぎないビジネスになるかを一緒に考えて、行けそうとなったら実験する、ということを毎週やっています。

――スモール・ビジネスのビジネススクール 兼 リアルタイムのケーススタディですね。

細野:会費は毎月1万円ですが、これは僕の懐には入らず「軍資金」という形で貯金箱に入れています。「これは1000万円規模のビジネスになるかも」と思ったものには、「実験」という名目で軍資金から実験投資を行います。

アイデアを出す人は、聞き役の私を相手に壁打ちをするんですが、その様子を他の39人が見ている。なので、こういうサイズのビジネスってこうやって考えるのかとか、こういう実験して大失敗してるのか、といったことを他人のビジネスからも学べます。

自分ひとりでやるよりも、40人全員でやると40倍速く学べる。ちなみに、いま出ている5~6個の実験は、下手したら全滅すると思っています(笑)。でもいいんです。なぜ失敗したのかを学べたら、次のやつはもっとうまくいくから。

個人では出せない金額の「投資」が可能になる


――「実験」とは具体的にどんなことをするんですか。

細野:前回お話しした「SUMUCAMO(スムカモ)」の実験では、都内のあるマンションの名前でリスティング広告を出し、購入を検討している人に「お住まいの方にヒアリングできますよ」というランディングページ(LP)へ誘導し、申し込みが来るか待っています。

で、申し込みがあった瞬間に、そのマンションに「たった30分5000円のいいバイトがありますよ」とチラシをポスティングします。お客がいる状態の方が、ヒアリング対象を集めやすいですから。実験に使うお金は、みんなの軍資金から出しています。

個人は毎月1万円払いながら学んでいる。でもそのお金は払いっぱなしにはならず、自分がいいアイデアを思いついたときに、個人では出せない金額の広告費やLP作成費を軍資金から出せますよ、という仕組みです。

――個人で起業して、リスティングとLPで50万円の見積もりが来たら悩みます。ビジネスでのリターンは、最初のアイデアを出した方が得られるのですか。

細野:そうです。その人がオーナーとして、そこから出る利益は未来永劫どうぞ、という形になります。

――すると、細野さんはどこで利益を得てるんですか?

細野:僕はいまタダ働きをしている状態ですけど(笑)。「売上が年間1000万円を超えるビジネスになったら、売り上げの10%を3年間ください」という契約にしてあります。そこで初めて回収することになりますが、下手したら一個も立ち上がらずに、ただの趣味で終わる可能性もあります。

でも、とにかくこれが面白くて。僕自身も、みんなのチャレンジを見るのが面白いし、実験の結果を見るのも僕にとって勉強になるし、楽しんで参加してくれている人たちとの交流も楽しいし。ここから一件でも成功例が出ると「出た~!」っとなるじゃないですか。夢がありますよね。

脱サラでも起業でもフリーランスでもない選択肢


――これと比べると、フリーランスを本業にする危うさが分かりますね。

細野:結局スキルって、過去に会社の中でもらっていた仕事の中で培われたスキルでしかないから、会社から仕事がもらえなくなると、だんだん粒感の小さい仕事ばっかりになって、自分のスキルは活かせているけど、やりたくない仕事をやらなきゃいけなくなる。

「脱サラでも起業でもフリーランスでも副業でもない選択肢」って、みなさんあまり考えたことがない。でも具体的な事例を話してみると「なるほど。そのサイズでいいなら、もっと他にもあるかも」とみんなで考え出すんですよね。

あと、フリーランスや独立となったときに、どうしてもインターネットビジネスというか、最後にはブログ書いてアフィリエイトしたり、セドリ(古本などの転売)をしたりとか、そういうことになってしまう。でも、そうじゃない領域でスモール・ビジネスという選択肢があることを知ってもらいたい。

――細野さんにとっても、Fukusen自体がスモール・グッド・ビジネスですね。いつお金が入ってくるか分からないから、本業にはできないですし(笑)。

細野:無理です。食ってはいけない。でもスモール・グッド・ビジネスにすることで、時間を味方につけることができる。収益化するまでの時間をじっくり待てるわけですが、こんなの企業じゃ絶対無理なんですよ。

この間もメンバーに話したんですけど、「1000万円規模のビジネスが出るまでには5年くらいかかる。その間に5~6個は実験のために軍資金を使うくらいの覚悟でいてくれ」と。そのくらいやらないと、うまくいくのは無理なんだと。

なぜなら、みなさん事業を立ち上げた経験なんてゼロなんです。これだけ経験積んできた僕でも、10回に1回うまくいくかどうかです。みなさんもっと失敗していいんですよ。

他人の失敗を見ているうちに「自分のアイデア」が生まれる

「事業立ち上げ人」として成長する時間を取って


――前回は、サラリーマンがビジネスを学びながら実験できる「Fukusen(フクセン)」のしくみについてお聞きしました。しかし、まだ成功例が出ているわけでもないし、どちらかというと失敗が続きそうですよね。

細野:ええ。僕はFukusenを「しくじり先生ファーム」って呼んでいるんです(笑)。ここで失敗しても、会社の評価は下がらないし、人の失敗を見て学べる。時間をかけていいから、「事業立ち上げ人」としての自分を成長させる時間を取ってくれと。むしろ、いきなり一発で当てない方がいい。

しかも、払っている1万円は、アイデアを思いつけば回収できるチャンスがある。「時間を味方につけて戦うこと」が企業に対する最高の対抗策です。スケールするのに時間がかかることは、企業はやらない。でも個人は、サブであればやれるんです。

――会費も5年間で5~60万円くらいだとすると、英会話スクールやプライベートジムと同じくらいか、それより安い出費です。

細野:ひとつの実験に50万円くらい使っていいんだから、どう考えたって得でしょ。本当はもっと人が殺到してもいいと思うんだけど(笑)、まだ「概念」が正しく伝わっているとはいえないんでしょうね。

――リアルな人のやりとりを通じて、アイデアが練り上げられたり却下されたりを見ているのは、座学的なインプットと違って、スポーツ観戦のような感覚でも楽しめそうです。

細野:実際、見るだけで面白がって毎回参加してくれる人も多いです。でも、見ているうちに「あれ、だったらこういうのもいけるかも?」って思いつくタイミングが来るのではないかと期待しています。

「やりたい」という思いがあれば助言できる


――とはいえ、ビジネスアイデアを自分で持って来られる人ばかりではないですよね。

細野:そうですね。最近は新しいやり方をやっていて、漠然と「旅行系でなんかやりたい」というのだけでもいいから、それを言ってくれたら僕がたたき台を考えるサービスをやっています。「カメさん枠」って呼んでいるんですけれども。

「やりたい」っていうその人思いがあれば、1000万円くらいのちょうどいい、競合がやってこないアイデアはこうだっていうのを僕が一緒に考えて、それを気に入ったら自分でやっていいよ、というやり方です。

――「カメさん枠」で形になりそうなものはありましたか。

細野:元歯科技工士の会員の男の子がいます。歯科技工士は、歯のかぶせ物や入れ歯、歯列矯正装置などの「歯科技工物」を作るのが仕事ですが、実は型のとり方や歯の削り跡で、どの歯科医の腕がいいか、すごくよく分かるらしいんですね。

「ビジネスになりませんか?」というネタの持ち込みも


――なるほど。それは初めて聞きました。

細野:それで最初は、「実はこういう情報があるんですけど、ビジネスになりませんか?」と持ち込んで来たんですが、最初に彼が出してきた案が微妙で(笑)、質問してみるとビジネスとしてとても回りそうにない。

それで、手離れのいいやり方をいろいろアドバイスして、歯科技工士が匿名で「お勧めする町ごとの歯医者ランキング」とか、情報商材的な形にするとか、いまいろんなアイデアを練っているところです。

もしかしたらこのアイデアも、実現しないかもしれないし、なんとか立ち上げてみたけど失敗に終わるかもしれない。でも、そうやって自分で考えて実行しているうちに、事業の立ち上げにどんなことが必要なのか、じっくり学べると思うんです。

――どうせやるなら大きいことを、と考えると見落としてしまう視点です。

細野:大企業がやっている大きな岩の隙間ってめちゃめちゃあって、小石ならまだ入る、砂利ならまだ入る、水ならまだ入るみたいな。隙間がいっぱいあるのに、みんなビッグビジネスばっかり狙って、だからそれ全部GAFAにやられますよ。

資本主義だから大きな岩の入れ替えは起きるけれども、そこに乗らずとも、スモール・グッド・ビジネスを自分のサイズでやって幸せに生きる人生って、選択肢にそろそろ出てきていいのでは。そんな問いかけをしたい。

ビジネス作りをエンタメ化した「Fukusen」を生んだ発想法

挫折と消去法で決まった現在の選択肢


――そもそもの話になるのですが、細野さんが「スモール・グッド・ビジネス」がいいと着想したのは、どういった課題感からなのでしょうか。原点のようなものがあれば教えてもらえませんか。

細野:実は、個人的な経験からの消去法なんですよね。まず、リクナビNEXT編集長からリクルートキャリアの執行役員を経て、リクルートホールディングスに出向し、子会社の社外取締役になった。

ところが、大企業で偉くなった結果、仕事がクソつまんなくて,、辛くて(苦笑)。鬱になりかけて逃げ出しました。それが1つ目です。この時点で、大企業で昇進して、年収を上げて幸せになるという道が閉ざされました。

次に、リクルート在籍中からプライベートでサービス開発に携わっていた音楽コラボアプリ「nana」を運営する会社にCOO(最高執行責任者)として移籍しました。でも、そこもDMMの子会社になっていて、親会社による業績モニタリングとか成長プレッシャーを受けて、伸びておいしい果実になれという宿命から逃れられない。

ビジネスには適正サイズがあると考えている僕には、一番幸せなサイズがあると思っていたけれど、それも許されなくて、2つ目の選択肢が消えたと。

それで、独立してフリーランスになりましたが、そこに来たのが「立ち上がりかけのベンチャーで、面白いことをやってるけどマジでお金がなくて」みたいなところからの相談だったんです。

フリーでも「面白くない仕事」ばかりしたくない


――よくある相談でしょうね。

細野:僕は大企業向けに新規事業のコンサルするときは、時間単位で売っているんですけど、その金を取ったら、もう潰れちゃうようなベンチャーってあるじゃないですか。昨日今日と飯食ってません、みたいな。

そういう彼らの方が、僕のアドバイスを必要としているんですよ。世の中の役に立つと思うし、僕がいいと思うスモール・グッド・ビジネスになりそうなものもある――ただし本人たちは「スモール」と思っていないところが厄介なんですが(笑)。

本人はイケると思っているから起業しているんですけどね。たいがいそこまではイケてないですよ。そんなに簡単にはうまくいかない。でも、起業という選択肢しかないから、会社を辞めて起業しちゃっている。なので「いきなり起業は無謀だな」というのが3つ目です。

――辞める前、細野さんに壁打ちの相手をしてもらって、うまくいきそうなアイデアが出てきてから辞めてもよかった。

細野:それでフリーランスになって、自分のスキルをコンサル的に売って食べていたんですけれども、つまんないんですよね。面白い仕事だけできないじゃないですか、食うためには。スキルをダシに、そんなに面白いと思っていない仕事もやらなきゃいけない生活に入って、フリーランスもダメだなと。これが4つ目。

かといって、副業だと、いろいろ申請してコソコソやらなきゃいけないし、本業がおろそかになっているとか言われるのではと不安にもなる。それでいながら、納品物なしのコンサル的なものは時間を売るので、時間が取られる。納品物のある仕事は、単価を叩かれる。だから副業もなし。これが消去法の5つ目です。

30億円とかの資産持っても使いきれない


――過去の「やりたくない」を消していったら、いまのスタイルになったと。でも、「壁打ち」の話はそのまま現在に通じていますよね。

細野:そう。僕はやりたくない大企業の伴走はしたくないですけれど、思いついたレベルで起業しちゃって「まだわかんねえじゃん?」みたいなやつの壁打ちするのは楽しくて。かといって無料で相談に乗るのは、モチベーション的にもヘルシーじゃない。

「よろしければ株を」とか言うけど、どうせIPOしないし、意味もない株を持っていてもしょうがない。でもこの人たちは、俺が伴走しないと、スモール・グッド・ビジネスが立ち上がらずに死んじゃうなと。

なんとかならないかなと思ったときに、レベニュー・シェア(収益分配)みたいな形であればいいんじゃないのと思ったんです。うまくいくまでは僕はナレッジ提供するし、ヘルプするけれども、株とかではない関係を結ぼうと。

しかも、「無限成長」とかやめなよと。いつの間にか、解決したいことよりも株価上げることが目的になっているベンチャーあるじゃないですか。30億円とかの含み資産を持っても使いきれないよ、どうせ。生活狂っちゃうし。それって幸せじゃないよなと。

――資金調達はすごいことと思われてるけど、受けた後が大変ですからね。

細野:「スモール・グッドでいいのになあ」みたいな夢は、資金を受けた時点でもう無理ですよ。逃げ道はない。だったら、新しい選択肢を作らざるを得ない。そもそも、面白いサービスがこの世にいっぱい出てほしい。個人として幸せになってほしい。それを支援したいってなったときに、今回のFukusenの形を発明せざるを得なかったということです。

ビジネスを生み出すプロセスも楽しい


――出資とかイグジットとかを目的にするのではなく、いいビジネスを生み出すことを目的にするということでしょうか。

細野:ただそれだけでなく、そういうビジネスを生み出すプロセス自体も楽しいっていうのは結構大事かなと思っていて。その活動自体が楽しい、となったらいいのになと。

ただのレベニュー・シェアって、お金だけの関係じゃないですか。作品の完成図よりも、最終的な成果物に課金する「アウトプット・エコノミー」じゃなくて、成果物を作るプロセスでお金を取る「プロセス・エコノミー」の話を、けんすうさん(古川健介氏)がnoteにまとめてましたけど、僕もそういう考えが好きなので。

「結果こういうビジネスができました」よりも、どういうプロセスでこれを考え、どういう失敗があってこれができたかの方が、コンテンツとして価値がある。そういうプロセスにみんなで当事者として関われたり、意見できたりする楽しい場所を作れば、人は寄ってくると思った。

そこから一件でも成功例が出たら「おい、これイケるぞ!」ってなって、さらにみんながその仕組みを面白がってくれる。そういうのがやりたいです。それって人生楽しいよねと。

――結局はコミュニティ、コミュニケーションの中にエンターテイメントを見ていくというのが一番楽しい、となりますよね。

細野:カッチリできあがったコンテンツを見るのは、もうみんな飽きていて、自分が関わる可能性があるライブに一緒になって参加するということ。そこでの失敗は許されていて、会社の評価下がらないし、何のリスクもない。で、月1万円は無駄な投資じゃなくて、リターンの可能性もある。

いま実験している人たちは、まだ加入6か月とかなのに、10万円ずつくらいの予算で実験しています。「もう元取ったね、おめでとう。(でも、たぶん失敗するけど)」とか言いながらやっています(笑)。

最後までお読みいただきありがとうございました。

Fukusenファームはこちら


どうしてFukusenという仕組みを思いついたのかについてはこちらで詳しくインタビューに答えてます。


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