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54歳、人生初のドイツ短期留学体験記3(telcB2試験対策~合格まで)

2023年夏、ドイツ南部ミュンヘンの語学学校に短期留学した時の経験談です。出発前のドタバタから始まり、初めての学生寮生活は予想外のことばかりでした。幸い親切なルームメイトやクラスメイト達に恵まれて楽しく過ごしていましたが、1か月の留学もあっという間に終盤、あとは試験を残すのみとなりました。


telc B2試験とは

毎日の講義と大量の宿題にも慣れて来た8月2週目ごろ、クラスメイトの間で「試験対策をどうするか?」ということが話題に上るようになりました。

ここでいう「試験」とは、講座終了後にクラスメイトのほぼ全員が受験することになっていたドイツ語の資格試験(telc B2)です。

telcとは、「ヨーロッパ外国語能力証明書The European Language Certificatesの略称で、ドイツ語以外にも英語、スペイン語、フランス語、イタリア語など、10言語に対応している国際標準試験です。

試験のレベルは、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)に準拠しています。telcはドイツ国内で多くの語学学校で修了試験として実施されており、この試験に合格すると、一定の語学力を証明することができます。

易⇒難の順に、A1⇒A2⇒B1⇒B2⇒C1⇒C2となっており、B2は中上級にあたります。B2合格者は、一定の条件を満たせば、ドイツ語圏で大学に入学したり、就職したりすることが可能になります。

試験は、Lesen(読む)・Hören(聞く)・Schreiben(書く)・Sprechen(話す)の4技能で構成されており、4技能で60%以上の点数を獲得することで合格になります。

私の場合、Lesen(読む)と Schreiben(書く)は、毎日の講義と大量の宿題のおかげで鍛えられていたので、どうにかなりそうでしたが、問題は Hören(聞く)とSprechen(話す)です。

片目をつぶっていてもB2は余裕で合格しそうなウクライナM君(クラスでダントツの成績優秀者)を除き、クラスメイト達もそれぞれに苦手分野をどう対策すべきか、かなり活発に情報交換しているようでした。


試験対策

私の場合、日本で試験対策用に問題集を購入し、ミュンヘンに持参してはいたのですが、いかんせん毎日の大量の宿題を終えるのが精いっぱいで、なかなか試験対策にまで手が回りませんでした。

そこで同じ学生寮のメンバー(メキシコのAちゃん、イタリアのCちゃん、ルクセンブルクのK君)+私の4人で、講義後に寮の中庭に集まって、Hören(聞く)と Sprechen(話す)の練習をすることにしました。

話がちょっとそれますが、私は強烈な雨女です。旅行の写真はたいてい傘をさして写っていますし、大事な日(入試、就職の面接、大切な人を訪問する等)はだいたい雨や雪が降ります。
そして4人で約束した当日は(やっぱり)午後から雨が降ってきました。

中庭ではゆっくり話ができないので、私の部屋にキッチンの椅子を持ち込んで集まることにしました。2人ずつのペアに分かれて、役割を入れ替えながら模擬課題についてロールプレイングをしていきます。ロールプレイングなら、自分の意見を話したり、相手の話を聞いて質問したり、「聞く」「話す」双方向からのトレーニングができると思ったからです。

ロールプレイングが終わったら、お互いにフィードバックをしていきます。このフィードバックは友達だからと言って甘くせず忌憚なく意見する、ということで事前に話し合っておきました。

私以外の3人は、みんなかなり堂々と話をすることができていました。細かいミスはあるけれど、致命的ではなく、なにより自分の意見に自信をもっていて、それを表現することに工夫もしていたし、間違っても気にせず前向きで積極的な姿勢が印象的でした。

彼らによると、私はとにかく自信なさげに話しているのが気になったそうです。声も小さいし、質問のタイミングも遅く、よく聞いたらそれなりにまともなことを言っているのに伝わらない、ミスやつっかえるたびに緊張してあとが続かない、とのことでした。

仲良しのメキシコのAちゃんは「下を向かずに、大きい声で!!」と簡潔かつ的確なフィードバックをしてくれました。

言語はコミュニケーションツールです。試験とはいえ、相手の話を理解すること、相手に伝えることが最も大事であることには変わりありませんでした。私は試験に合格することに意識が向きすぎて、ミスをしないように、という考えにばかり囚われていました。間違えれば言い直せばよいし、わからないときはもう一度聞けばよいというごくシンプルな心がまえがすっぽり抜け落ちていたのでした。

練習の後、日本から持ってきた抹茶をたてて、ようかんと一緒に出してみました。Aちゃんは抹茶もようかんも気に入ってくれましたが、CちゃんとK君はどちらも好みではなかったようです。

みんな本格的な抹茶は初めてだったようで、ヨーロッパで売っている抹茶はもっと甘いとか、抹茶をたてるときの茶筅が面白いとか、そんな話をしながら雨が止むのを待ち、雨が小止みになってからめいめいの部屋に戻っていきました。

後日、語学学校が用意してくれた試験対策講座にも出席したのですが、オンラインで大人数だったためか、参加者同士であまり活発な意見交換ができず、時間不足で表面的なフィードバックに終わった印象でした。なので、この雨の日の3人のフィードバックが本番の試験の時には本当に役に立ちました。

寮の中庭にある大きなベンチ。
雨でなかったら、ここで練習するはずでした。


試験当日

8月最終週の週末が試験日でした。

試験地は当初市内の大学でとのことでしたが、直前になって場所が変更され、その通知も来なかったので事務局に確認に行きました。すると、試験は通いなれたいつもの語学学校の教室で開催されるというではないですか。ホッとした一方、内心では(はよ言うてよ(;´・ω・)と思いました。

このことに限らず、ドイツでは割と何でも直前に変更されることが珍しくなかったので、最初に提示された情報をうのみにせず、最後までいちいち確認するクセがつきました。

試験当日、朝早く学校に着きましたが、まだ入り口は開いていませんでした。ガラス戸から中をのぞくと、とある男子学生が一人。ドアをたたいて中から開けてもらいます。

聞けば彼もこれから同じ試験で、遠方から半日かけて今朝早くミュンヘンに着いたばかりとのことでした。アフリカのどこかの国(よく聞き取れなかった)から来たという彼は、なんとなく知的な雰囲気をまとっており、非常にわかりやすい美しい発音でドイツ語を話します。

「ここに来て試験を受けるまでにものすごい努力をしてきたんだろうな・・」などと考えながら、一時その人の話すドイツ語に聞きほれてしまったせいか、緊張がほぐれたような気がしました。

そうこうしているとAちゃんやなじみのクラスメイト達が次々と到着し、試験官からの説明が始まりました。試験はほぼ一日がかりで行われます。

午前の部で、Lesen(読む)・Hören(聞く)・Schreiben(書く)の3技能をみる筆記試験、
午後の部で、Sprechen(話す)技能をみる試験が実施されます。
午後の部はランダムに組まれた受験生同士のペアで所定の課題について試験官の前でドイツ語で話をします。ペアの相手は当日発表されました。

Aちゃんのパートナーはさっきまで私とおしゃべりしてくれていた知的アフリカ君。パートナーが流暢な人だと会話も弾みやすいので、ちょっとうらやましいなと思いつつ、まずは筆記試験に臨みます。

午前の部は約2時間半、休憩なしのノンストップなので、集中力を切らさないようにしなければなりません。

午前試験終了。手ごたえは微妙。

Lesen(読む)はなんとかギリギリ時間内に解答しました。大量の宿題をこなすことで、読むスピードが上がっていたことが幸いしたようですが、何しろ語彙不足。語彙がわからな過ぎて解答がテキトーになってしまった箇所がありました。

Hören(聞く)予想通り、私にとっては超難関な課題ばかり。ミュンヘン滞在1カ月で耳は少し慣れたものの、とにかく話すスピードが速く、しかも訛りまであるので、半分も聞き取れたかどうかも不明。
正直、これはあかん。(;´・ω・) 気にしていられないのでさっさと切り替えて次へ。

Schreiben(書く)
定型文のパターンを覚えていたので、それをアレンジしながら書いていきました。良い成績はムリかもしれないが、一通りは解答できました。ただし、時間附則で見直す時間がなかったので、文法ミスや語彙不足でどのくらい減点されるか不明。

午前の試験が終わったら、午後の試験に向けて、昼休みのあいだに少しでも準備を進めます。
私のペア相手は中国から来たSちゃんでした。知っている人だったので、緊張しなくて済むのは有り難いです。昼休み中に予想問題などを見ながら一緒に模擬試験の練習をしました。

Sprechen(話す)第一の課題はプレゼンテーション。当日与えられた課題について意見を述べるというもの。これは事前準備+3人からのフィードバックに気を付けてなんとかクリア。
第二の課題は、お互いのプレゼンテーションについての質疑応答。Sちゃんと昼休みに練習しておいてよかった。こちらもなんとかクリア。
第三の課題は、ある課題をペア相手と協力して解決するというもの。こちらもSちゃんとの事前練習のおかげで想定内の課題だったのでクリア。

終わってみたら、当初最難関と思われたSprechen(話す)が一番手応えありで、他はダメダメな印象でした。まあとりあえず現時点でできるだけのことはやったので、これで私の短期留学もほぼ終了です。


委任状と5ユーロ

試験が終わり、講座も最終日を迎えました。
最後の日は少し早めに講義が終わり、そのあとは持ち寄ったお菓子をつまみながらクラスメイトたちと歓談する会が設けられていました。普段あまり話ができなかったメンバーとも話ができる最後のチャンスでした。

ところで、telc B2試験の合否結果は約1か月後に紙で発行され、学校の事務局まで取りに行かねばならないとのことでした。ところが、合否結果が出るころには私は既に帰国しているので、受け取りには来れません。学校の事務局に相談すると、「委任状を書いて、合否発表のころ誰かに取りに来てもらってください」とのことでした。
そんな殺生な。(;´・ω・)

試験の合否結果がオンラインではなく紙発行であること、受け取りにはこれまた紙の委任状が要るということが何となくドイツらしいなと思ったものの、かなりめんどくさいことになりました。

しかも、クラスメイトの半分以上はこのことを知りませんでした

私は寮のルームメイトのRちゃんに合否結果の受け取りと、日本への郵送を頼んでOKをもらいましたが、同じように合否発表時に帰国してしまっているクラスメイトも少なくないので、最終日に声をかけてみようかなと思っていました。
親切なRちゃんに負担をかけるのも申し訳ないと思いつつ、みんな困るだろうなあという思いもあって聞いてみました。
もしかしたら、私以外のクラスメイトの分も受け取りと郵送を頼むかもしれない。そのときは引き受けてもらえるかな?

Rちゃんは快諾。1枚も数枚も学校に受け取りに行く手間は変わらないから、とのこと。
優しくて頼もしいこの人がいなかったら、合否結果の受理は諦めるしかなかったので、いてくれたことにつくづく感謝しました。

お菓子をつまみながら、クラスメイトにも声をかけてみると、やはり希望者が4人もいました。各人から委任状とひとり5ユーロを集めてRちゃんに渡しました。ドイツから国外への書類郵送費用は2ユーロ以内だったと思いますが、少し多めに一律5ユーロにしました。私を含めて5人分25ユーロ、郵送費用を払っても十分おつりがくるはずです。おつりを手間賃としてRちゃんにそのまま受け取ってもらうことにしました。

帰国の前日

8月末に講座が終わった後、私は荷物の一部をミュンヘンの宿に預けて、約1カ月間のドイツ国内旅行に出かけました。

9月下旬、ドイツ国内旅行を終えてミュンヘンに戻った私は、帰国前日にRちゃんやほかのクラスメイト達と朝からオクトーバーフェストに行き、午後はRちゃんとお茶を飲みながらのんびり過ごしました。9月末になっても合否通知はまだ発行されていませんでした。

オクトーバーフェストの日に見たハート型の飛行機雲

川岸で足をブラブラさせたり、近くを散歩したりしながら、Rちゃんといろいろな話をしました。子供時代の話、将来の話、外国で暮らすということについて、などなど。30歳以上も年下なのに、彼女は人生何周目なのかと思うほど知恵と経験が豊富な人でした。

この短い滞在中、私は彼女に本当にいろんなことでお世話になったなあと思い返しながら川をながめていると、不思議と試験の結果が気にならなくなっていました。試験合格は当初の目標だったのですが、終わってみれば、みんなといろんなことをして過ごした日々と、その経験自体が、私にとっての何よりの財産になったなと実感できたからでした。

(この投稿のトップ写真はRちゃんと最後に散策したイザール川岸からの景色です。)


合格通知

合否通知は10月になってから郵便で届きました。Rちゃんは封筒に厚紙を入れて、折れないようにして送ってくれていました。
どこまでもありがとうRちゃん。( ;∀;)

ギリギリだけどまさかの合格。

telc B2の合格証書

51歳から始めたドイツ語、55歳までにB2に到達するという目標はひとまず達成しました。合格は半分諦めていたので、ギリギリでも合格できたことは本当に嬉しかったです。

B2合格後は、少しペースを落としてドイツ語の勉強を続けています。もう問題集をガツガツと解いたり、同じ資料を何度も音読したりはしていないのですが、毎朝のNHKのラジオ講座も4年目になってもまだ聞いていますし、ドイツ語のニュースを定期的に読んで、毎日何かしらのドイツ語に触れながら過ごしています。

ドイツ語を学んでいなかったら会えなかった人たち、行くことがなかった場所、考えもしなかった経験、そのすべてが貴重な思い出になったことが今から考えてもとても幸せで、この経験ができるようにサポートしてくれたすべての人たちに感謝しています。

いつか再びドイツを訪問することがあれば、また何か新しい世界が見えてくるような気がしています。

全3回にわたって留学体験記を書いてきましたが、この記録がどなたかの何かの参考になれば嬉しいです。

お読みくださってありがとうございました。


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