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季語哀楽

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季語をテーマにした投稿まとめ。 365日が目標。
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#短編

花冷え

花冷え

今夜、蛍烏賊とりに行こうと思うけど来る?

突然のLINEに、まだ職場にいた私は浮き足立つ。前に行きたいと言ったの覚えててくれたんだと言う喜びと、明日も仕事の最中、ちょっと流石に急すぎやしないかと社会人の理性が働く。されど、いまだ見たことのない景色への好奇心に負けた私は、結局二つ返事でOKしてしまった。

満開の夜桜を余所に、私たちは深夜の海へと向かった。
いわゆる、花より何とやらである。

暖か

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花曇 #月刊撚り糸

花曇 #月刊撚り糸

曇天に満開の桜を見るにつけ、ある友人の言葉を思い出す。

「桜は正直嫌いやな。咲いてる期間は短いし、青空が背景じゃないと色が映えん」

彼女は、大手制作会社で映画やドラマ撮影に関わる仕事をしていた。私たちの地元がある北陸は、日本一曇りが多いと言われる地域である。そんな中で育ったものだから、私に言わせれば雨の降っていない天気は全て晴れだし、桜に関しても、空の色まで気に留めてはいなかった。さすが異なる

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菫

4月1日。
いよいよ今日から新学期・新年度だ。
如何せん週半ばなもので、あまり実感はないんだけれど。

外を歩けば、

つくし、
たんぽぽ、
ぺんぺんぐさ、
おおいぬのふぐり、
ひめおどりこそう、

最近知ったばかりの名前も呼びながら、馴染みの面々に挨拶をする。

あ、すみれ。

初めてのセーラー服には、
菫色のスカーフがついてきた。

家に帰ると、つい嬉しくて、鏡の前で何度も試着してしまったっけ

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片栗の花

片栗の花

好きな花は何ですか?
僕の問いに、彼女はこう答えた。

「片栗の花。」

カタクリの花?僕の頭にはイメージが湧かなかったが咄嗟に言葉が口を突いて出た。

今度プレゼントしますね。

伏目がちに珈琲を飲む彼女の目がふっと僕を見上げる。再度視線が手元に落ち、ありがとう、と呟くように彼女は言った。
長い睫毛がとても綺麗だった。

帰って片栗の花を調べると到底花屋では買えない代物であると分かり僕は酷く赤面

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土筆

土筆

頭がこんがり茶色くなって、笠が開き切っている土筆(つくし)を揺すると、黄色い胞子が飛ぶのが見える。
辺りに生えているのは昔から知っていたけれど、初めてそれを見たときは生命の神秘に驚きつつ、花粉もこんな感じなのかと多少ぞっとした。

幸いにして未だ花粉症ではない私は、いつか訪れるやも知れない審判の時を恐れている。各々に許容量のコップがあって、それがいっぱいになると発症するというのは本当なのだろうか。

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