週末タイ留学 ②
一年以上タイ料理を食べ続けているが、いまだに飽きてない。それどころか最近はスーパーへ買い物に行ってもパクチーやとうがらしを購入する始末。飽きるどころか食欲が増進されているのは気のせいではないだろう。タイ料理にふんだんに使われるハーブの爽やかな香りや香辛料の刺激、調味料の無限の組み合わせが、わたしを誘惑している。あの暑くて湿度の高い地域で食欲を増す工夫がされているのは、必然とも言えるだろう。
こればタイに限らずだけど、アジアの国々に文化として根付く食への執念って大好きだ。
ラープのことを書こうと思う。
ひき肉をハーブとあえて味付けしたおかずサラダ。タイ東北地方の家庭料理だが、バンコクでも屋台などで食べられる。鶏のひき肉を使ったラープガイ(ลาบไก่)が定番で、豚ひき肉を使ったラープムー(ลาบหมู)や、豚のミミガーを使ったラープフームー(ลาบหูหมู)も美味しい。
ナンプラーとマナオ(ライム)のさっぱりした味付け。夏場なんかはマナオを多めに入れるとさらにさっぱりして食欲が増す。そこにミントやスライスしたレッドオニオン、小葱を加えてあえる。
そして忘れてはならないのがカオクアを入れること。カオクアとは、もち米をレモングラス等と一緒に炒って細粒にしたもの。カオクアによって、さっぱりした味に香ばしい香りとプチプチとした食感が加わり、おかずとしての側面が引き立つ。ごはんにかけても美味しいし、おつまみとしても最高。
ハーブやカオクアを入れることで臭みが消えて食べやすい味になる。ある日、誰かが差し入れてくれた刺身を使って作ってくれたラープがびっくりするほど美味しかった。ナンプラー(魚醤)とネギ類を魚と一緒にあえて、美味しくないはずがない。
ところでこのラープガイ、作る人によって微妙に味が違う。タイの中でも気温の高いイサーン出身のシェフが作るとめちゃくちゃに辛くなる。辛いというか痛い。わたしなどはほんの少しのラープをごはんにかけて食べている。タイ人は普通にもりもり食べているので、こんなにたくさん食べて体は大丈夫なのか?と聞けば、「おなか痛いなる」だそうだ。他にも肉が多めだったり、ライムが多かったり、好みというか、家庭の味が反映されるんだと思う。
そんな中で特に個性が強いのが、チェンマイ出身のシェフが作るラープだ。なにやら味も香りもいつもとぜんぜん違う。爽やかで食欲をそそる香りと、唐辛子とはまた違ったピリッとした刺激。
これはなんだ??みんなに話を聞いたところチェンマイのラープはラープクア(ลาบคั่ว)といい、味付けや作り方が違うらしい。辛さは控えめで、肉は茹でるのではなく炒めて、何よりも香り付けにマックエン(มะแขว่นซอง)というタイの花椒を使っている。しびれる辛さは強くなく、ほのかな柑橘のようなさわやかな香りが特徴、らしい。
件のシェフにこれはとても美味しいと伝えたら、とても喜んで頻繁に作ってくれる。マックエンはお店のレシピにはない食材だ。自分で調達しているらしい。やはり慣れ親しんだ味が恋しくなるのだろうか。マックエンの香りで故郷を思い出したりするのだろうか。
彼らのほとんどは別に日本が好きとかいうわけでもなく、出稼ぎのために来日して家族に仕送りをしている。だからそういうエモーショナルなことはなかなか聞けない。ただ、もし遠い未来でわたしがこの香りを嗅いだ時には、ここで働いていた日々のことを思い出すはずだ。