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さらば、名も無き群青たち

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まとめました。2020年、夏  くへを。
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#冬

さらば、名も無き群青たち(5)

 どちらともなく吐いた白い息が、冬の冷たい風に乗って、背後の朱雀門まで飛んでいくかのように思えた。普段、紅色に塗れたそれは、その骨組みに色を残しつつも、屋根に積もる雪、角張った姿形を白に置き換える事で、周囲の環境に適応していた。順応していた。入り口から真っ直ぐ門の横を抜けた我々は、そんな慣れぬ光景からか、幾度もなく隠れた段差に引っ掛かっては、身体を雪の中に埋めないよう体勢を保たなければならなかった

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さらば、名も無き群青たち(4)

 空になったジョッキを、十秒以上放置させてはいけない。つまり、酒を飲み終えたのであれば即座に次を注文する。これこそ、我がアウトドアサークルにおける唯一のルールであった。どこの誰が決めた物かは分からないが、そんな下らない掟が酔っ払いたちにとっての強い後ろ盾となるのは、言うまでもない。

 普段よりあまり酒を嗜まない僕は、敢えて数センチの量を残しておく事により、彼等『冬場の騒音達』からの迫害を逃れる他

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