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短編小説。

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2022年9月の記事一覧

ヒカリノマチ

ヒカリノマチ

「さぁ、帰ろうか」
「ん!ちょっと寄り道して帰ろうよ」
コンビニで買い物を終えて、君といつもの帰り道を歩く。
特別近道でもなく、特別舗装されて綺麗でもないこの道でも、君と歩く道ならそれでいいと思えた。
橋から見える川の流れは今日も穏やかで、日差しを反射してキラキラと輝いている。
まるで君といる毎日のようだなんて思って、柄にもないなと笑った。

レジ袋をふらふらさせながら、2人で手を繋いで歩く。

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君がいた世界に。

君がいた世界に。

今日、僕の最愛の人が亡くなった。
信じられなかった。
受け入れられなかった。
涙も枯れ果てて、頭がぼんやりしている。
君の弾けるような笑顔を見つめながら僕は呟いた。
「似合わねぇよ…」
聞いたことないぐらい掠れた声だった。
鼻の奥がツンとする。
どんな服も似合う君だったけれど、遺影に映る姿だけは全くだった。

「もう!なに泣いてんのー?」
これは全て夢で、起きたらまた隣に寝ている君がそう言って笑っ

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きみとぼくの白昼夢。(下)

きみとぼくの白昼夢。(下)

前編はこちらから。

“赤い糸”が切れてしまっても日常は続いていく。

君を失って1年が経とうとしていた。

君がいないことに絶望感を抱いていた僕だが、人間というのは残酷な生き物だ。

もう既に君の知らない僕に少しずつ変わっていっていた。

***

見たい映画ができた。
最近話題の興行収入が億を突破した作品だ。
特に誰のファンとかではないが

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きみとぼくの白昼夢。(上)

きみとぼくの白昼夢。(上)

2人を繋ぐ“赤い糸”が切れる音が聞こえた。

2人の時間が、君が他の誰かと出会う時間になっていった。

2人の日々は色褪せていった。

悪い夢を見ているようだった。
早く覚めてくれ。そう願うばかりだった。
でも夢じゃなかった。

僕は君を失った。

***

いつも通りの時間に目を覚ます。
君のもので溢れかえる部屋を見渡す。
君は

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ヘイコウセカイ。

ヘイコウセカイ。

君は先に寝てしまった。
すごく幸せそうな寝顔だ。
「ねぇ、どんな夢見てるの?」
返ってくるはずのない問いかけを君に投げかけた。
「ごめんね」
聞こえるはずのない謝罪。

「好きな人がさ、できちゃったんだ」

***

いつも通り「またね」と手を振って、君が部屋を出て行ったあと、僕は洗面所に向かった。
並んでいる青と黄色の歯ブラシに目を向ける

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