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「地獄の黙示録」レビュー

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公式サイト、他

地獄の黙示録 - Wikipedia

公開

1979年

備考

本作には劇場公開版、特別完全版、ファイナルカットの3パターンがある。
本レビューはファイナルカットに対するもの。

監督

フランシス・フォード・コッポラ

キャスト

ウォルター・E・カーツ大佐 マーロン・ブランド
ビル・キルゴア中佐 ロバート・デュヴァル
ベンジャミン・L・ウィラード大尉 マーティン・シーン
ジェイ・“シェフ”・ヒックス フレデリック・フォレスト
ランス・B・ジョンソン サム・ボトムズ
タイロン・“クリーン”・ミラー ラリー・フィッシュバーン
ルーカス大佐 ハリソン・フォード

レビュー

ジョゼフ・コンラッド「闇の奥」を原作に舞台をベトナムに移してリメイクした作品。

ベトナム戦争後期、既に退役したウィラード大尉は、カンボジアの奥地で独立王国を築いているとされるカーツ大佐暗殺の名を受け、再びベトナムの地を踏む。
カーツ大佐は本当にジャングルの奥地にいるのか?
彼の築く独立王国とは?
ウィラード大尉は無事任務を果たせるのか?
という非常にシンプルなストーリー。

3時間もある「ファイナルカット」を視聴するにあたって『最後まで我慢できるかな?』と不安だったが、結果1回の休憩だけで楽しく観られた。
少なくともストーリーに複雑さは皆無。
ただしカーツ王国に到着してからの評価は人それぞれだろう。
戦争ものとしての醍醐味は、前半の第一騎兵師団における戦闘シーン。
爆音で台詞が聞き取れないほど激しい戦闘が繰り広げられる中、趣味のサーフィンにこだわるキルゴア中佐に狂気を感じる。
有名なヘリコプターが海岸に浮かぶシーンもここ。
ベトナム戦争は別名「ヘリコプター戦争」と呼ばれたほど、ヘリが活躍した。

その後は延々ジャングルクルーズが続く。
突然遊園地のような施設が現れたり、プレイメイツの慰問があったり、ジャングルで虎に襲われたりと、ウィラード隊はさんざんな体験をする。
個人的に好きなのはフランス人たちの集落を訪れるシーン。
これは通常版ではカットされていたらしい。
ジャングルの中に突然フランス人が現れ、ウィラードは立派な邸宅での晩餐に招待される。
ちなみにフランスは第二次世界対戦までベトナムを植民地としており、一度日本軍に追い出されたものの戦勝国としてまた戻ってき、その直後若きホーチミン率いる独立派とインドシナ戦争に突入、ディエン・ビエン・フーの戦いで仏軍が大敗し、撤退。
これが後のベトナム戦争につながったとか…
フランス人の当主みたいな人がこのことについて悔しがっているのが面白かった。
このシーンは長いのに意味がないとか批判が多いけど、個人的には好き。
そもそも本作はこのジャングルクルーズに入ってからはリアルな戦争映画というよりファンタジー作品に近い見方をした方が楽しめる。
フランス人のエピソードもリアリズムとしてではなく、帝国主義の亡霊、白人の夢といったメタファーとして理解すればそれなりにすっきりと飲み込めるはず。

さて問題はカーツ帝国に到着してから。
レビューでは『マーロンブランド太りすぎ』『台詞が意味わからん』といった批判が多い。
カーツがどうやってここにたどり着き、いかにして原住民の王になったのかという描写は一切なし。
人々がなぜ彼をあがめているのかもよくわからない。
監督もあまりにも長期間の撮影でよく分からなくなっていたらしい。
個人的な理解の範疇でいうと、ウィラード大尉がジャングルの奥地に分け入っていくことが、アメリカが二度と戻れない未知の深い何かに取り込まれていくことを象徴していると感じる。
こじつけだが、それは時間を遡っているようにも思える。
キルゴア中佐のいる戦場が”今”だとしたら、プレイメイツの慰問はやや過去の明るく楽しいアメリカ、フランス人の館はかつての帝国主義時代、そしてカーツ帝国は中世あるいは古代。
人間から文明を剥ぎ取っていった先にあるものは何か?
そこに明確な答えは用意されていないが、ウィラードは最後にカーツを倒し、何かを見た。
それはたぶん、ベトナム戦争とは比べものにならないほど暗くて恐ろしい何かだろう。
劇場公開版は最後にカーツ帝国が空爆されるらしいが、ファイナルカットはもっと余韻のある(人によってはつまんない)終わり方。
個人的にはファイナルカットのラストは好きだが、いずれ劇場版も見てみよう。

余談だが、本作の”迷い込む”というイメージや、謎の多い設定、湿度の高い感じが「ホテル・カリフォルニア」の雰囲気ととても近いなーと思った。
フランス人の娘と、「ホテル・カリフォルニア」のティファニーツイステッドなお姉さんがなんか同じ人に思えたり、「You can check out any time you like, but you can never leave」という歌詞と、最後静かにカーツ帝国を去っていくウィラード大尉が重なったりと興味深い。
「ホテル・カリフォルニア」が1977年リリース、本作が79年公開、影響を受けていてもおかしくはないだろう。

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