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取材で面白い話を引きだす質問の仕方

ぼくが初めて取材をしたのは、大学生のとき。いろんな社長に取材するインターンを始めたんです。

そのとき先輩から「要約するといいよ」とアドバイスをもらいました。要約すると、話し手が「あ、わかってくれてるんだな」と安心できて、どんどん話してくれるようになるからとのことでした。

それ以来、いままで取材中は要約することを意識してきました。それのおかげかは分からないですが、たしかにみなさんいろんな話をしてくださるし、面白い話もたくさん聞けました。

だけどいま働いている会社の先輩たちと比べると、ぼくの「取材中で聞ける面白い話の割合」が少ないなと思ったんです。

「ぼくと先輩たちとで、何が違うんだろう?」と観察した結果、最近そのヒントが見つかったかもしれないのでまとめてみました。

経験者の方からすると「当たり前でしょ」と思うものかもしれません。だけどぼくと同じように「もっと面白い話を引き出せるようになりたいな」と思っているライターや編集者さんの参考になる部分があるとうれしいです。

3つの矢印

と、その前にそもそも「面白い」という言葉の定義が難しいです。

人によってイメージするものが全然違います。このnoteではひとまず「取材で聞けた話のうち、実際に原稿で使える話が多いほど面白い取材ができている」ということにします。逆にいうと、ボツが多い取材は「面白い話が聞けていない」ということです。

最初に結論を言ってしまうと、面白い話を聞くために最近ぼくは「3つの矢印」を意識しています。

①抽象的な話を、具体的にする矢印
②具体的な話を、抽象的にする矢印
③具体的な話を、別の具体的な話でたとえる矢印

の3つです。

これだけだとあんまりよく分からないと思うので、図も使いながらひとつずつ説明していきます。

①具体化

矢印を書くにあたって、僕はまず「抽象度」と「テーマ」の2軸の図を意識しています。こんな感じです。

上にいくほど抽象的な話で、下にいくほど具体的な話です。横軸の「テーマ」は、たとえばビジネス系の取材なら「組織」や「事業」「マネジメント」「キャリア」などを指します。

取材をしながら「いまの話はこのあたりだなあ」というのをボンヤリと頭の片隅に置いています。

1つめの「抽象的な話を具体的にする矢印」は「このの話はちょっと抽象的すぎるなあ」とか「ここ10分ぐらいずっと抽象的な話になっているなあ」と感じたときに「それってたとえばどういう具体例がありますか?」と聞くことです。先ほどの図ではこんなイメージ。

たとえばぼくは、社長さんに取材させていただくことが多いです。

そこで「ビジョン」や「経営戦略」のテーマで伺っていると、どうしても抽象的な話になりがちなんですよね。もちろん抽象的な話自体が悪いのではなく、それはそれで必要です。だけど抽象的な話だけだと、なかなか読者に伝わりません。

だからたとえば「社会貢献とビジネスを両立させる」というビジョンの会社さんがいれば「そのビジョンを体現するシーンって、たとえばどういうものがありますか?」と聞く。

そうすると「新規事業のアイデアについて会議しているときに、まず『それって社会貢献になりますかね』っていう言葉が出てくるんですよね。多くの会社では「それって儲かりますかね」じゃないですか。だけど僕たちは、まず本当に社会を良くするアイデアなのかどうかを検討する。それをクリアしたうえで、じゃあどうやって収益化しようかという順番で話しあうんです」という具体例を伺えたりするんです。

そうすると、読者は「あ、社会貢献とビジネスの両立するってそうことか」とイメージしやすくなります。

②抽象化

2つめは「具体的な話を抽象的にする矢印」です。図はこんなイメージ。

具体的な話は、抽象的な話より読者が想像しやすいので、原稿に使うことも多いです。だけど具体的な話だけだと、それはそれで読者に伝わりにくくなってしまう。

「この話自体を理解はできたけど、じゃあ自分の仕事や生活にどうやって生かせばいいんだろ?」と思ったり、読んでいる途中で「なんでこの話読んでるんだっけ?」となったりしてしまうことがあります。

そういう疑問が続くと、読者は離脱します。

話し手がめっちゃ有名な芸能人とか、自分の家族や友だちだったら別に具体的な話だけでもコンテンツとして成立します。「話し手そのもの」に興味があるからです。抽象的なメッセージや教訓、学びにまで昇華しなくても「面白い人だなあ」「面白い話だったなあ」で完結させることができる。

だけどぼくのメイン領域でもあるビジネス系のコンテンツは特に「具体的な話をもとにした学び」が要求されます。だから取材では「このエピソードめっちゃ面白いなあ!」と思った瞬間、爆笑している自分からふと我にかえって「そのエピソードから得られた教訓ってなんですか?」と聞いて、抽象的な話もセットで引き出します。

③比喩

正直、①と②の「抽象と具体の往復」みたいな話は、すでにいろんなところで語り尽くされている話だと思います。

先輩たちを観察していて、ぼく的にいちばん発見だったのは③の「具体的な話を、別の具体的な話でたとえる」です。図ではこんなイメージ。

一言でいうと「比喩」ですね。

たとえば最近、ある社長さんから「ウェビナーコンサルタントにお金を払ってウェビナーを企画してもらったんだけど、イマイチ集客から受注につながらなかった」という話を聞きました。

ぼくが「そのコンサルタントさんにどういう実績があって発注したんですか?」と聞いたところ「ウェビナーの集客の仕方というテーマでめっちゃ人数を集めたんだって」と返ってきたんです。

そこでぼくが「情報商材屋さんが『100万円売る方法』って情報商材を売るみたいなことですね」と言いました。そしたらその社長さんが「おお、まさにそういうこと!」といい感じの反応をしてくださりました。

どちらにも「中身は本質的ではないが、外からだと価値があるように見えてしまう」という共通点があるなと思ったんです。

比喩をするには、まず相手の具体例を抽象化して、別のテーマを探す。そしてその抽象化した要素を、別テーマの具体例で見つけるみたいなことをイメージでやっています。

比喩のいいところ

比喩のいいところは、①の「具体化」や②の「抽象化」だと伝わりきらなかった話も、比喩なら伝わる人が増えるかもしれないということです。

そもそも論になりますが、わざわざ取材して原稿にして世の中に発信するということは、「これまでになかった新しい考え方やノウハウ」であることが多いです。どれだけ分かりやすい一言でまとめたり具体的な話をしたりしても、伝わりにくいことがある。

だけど特徴を捉えたまま、みんなが馴染みのあるテーマで具体例を出せると「ああ、そういうことね!」と伝わりやすくなります。比喩がなければ分かりにくくてカットしてしまっていたかもしれない話し手の考えを、いい比喩を見つけることで伝えられるかもしれないのです。

ちなみに、こちらのぶつけた比喩がズレてしまっていたり、話し手から「それはちょっと違うかな…」と言われても問題ありません。むしろそこで理解のズレを明らかにすることができれば、原稿にするときに話し手の伝えたいことを正確に伝えやすくなります。

もし理解がズレていたとしても、基本的に話し手の方は「その例で言うなら…こういうことかな?」と説明し直してくれることが多いです。だから比喩は聞き手にとっての「理解度の中間チェック」の役割にもなってくれます。

「比喩」は「要約」より信用してもらえる

比喩のいいところが、もうひとつあります。

それは話し手が「おお、まさにそれ!」と思えるような比喩を出すことができれば、話し手から「この人はちゃんと話をわかってくれているな」と信用してもらえること。

「比喩」は「要約」よりも高度です。

だから的を得た比喩ができると、要約したときよりも話し手から信用してもらえるかもしれません。というのも、要約は「抽象度」「テーマ」も変えなくてもいいんです。図だとなイメージ。位置がまったく変わりません。


「要約」というと、人によっては「抽象度を上げること」と思うかもしれません。

だけど(これはあくまでもぼくなりの定義ですが)、要約とは、その話を「事象」として一言でまとめる感覚に近いです。いっぽうで今回のnoteにおける「抽象化」は「学び」として一言でまとめるイメージ。

たとえば「私は社会人1年目のとき、入りたかった部署とぜんぜん部署に配属されちゃったんです。そこは地方出張もよくある部署でした。私は東京の新規事業の部署で働きたかったのに、1年目は静岡の工場をコンサルすることになって、毎日工場のおじさんたちにエクセルの使い方を教えていました。「なんでこんなこともわからないんだよ!」って毎日ストレスが溜まっていて、かなり大変でしたね」って話を聞いたとします。

これを要約すると「かなり大変な1年目だった」です。

これをそのまま原稿にしてしまうと、読者にとっては「大変だったんですね」という感想しか残りません。だから②の「抽象化」をして「メッセージ」や「学び」を引き出す必要があります。

そうして「大手は配属ガチャがあるから、ベンチャーに行こう」なのか「ちゃんと希望通りの部署に配属してもらえるよう、人事と仲良くなろう」なのか、その人なりのメッセージや学びを引き出すことができれば、より面白い文章になる可能性が高まります。

「要約」の使いどころ

これまでのぼくは、取材でずーっと「要約」をしていました。

要約でも、話し手からすると一応「わかってくれているんだな」という安心は得られます。だからみなさん、いろんな話をしてくれました。

だけどいざ文字起こしを読み返して原稿にまとめようとしたときに、「この具体例、取材中は面白いなって盛り上がったけど、学びにつなげられないから原稿でどうやって使えばいいんだ…」「この抽象的な話、それまでの前後の文脈があれば具体例がなくてもわかるけど、ここだけ抜き出すとよくわからんな…」とボツにしてしまうことがよくあったんです。

だから「要約はよくないのかな…」と思うこともありました。

だけど今回、「3つの矢印」という形でぼくがこれまであまりしてこなかった質問の仕方をまとめてみて「要約にもいいところがあるんだな」と気づくことができました。

というのも、こちらが要約して話し手の方が「そうそう」と勢いづいてくださって、そこからちょっと恥ずかしい具体例を話してくれたりすることがよくあるんです。ちょっと抽象的すぎて、それまであんまり人には言ってこなかったけど「この人になら言ってもいいかな」と、かなり抽象的な哲学を打ち明けてくれることもあります。

「要約」は「抽象度」も「テーマ」も一定だからこそ、話し手に勢いが生まれてくるんです。

「まだちょっと空気がかたいかな」「話し手の方が緊張されてるかな」というときに要約を挟むからこそ、聞ける話というのも多々あります。だから「要約」そのものが悪いのではなく、僕の取材時の引き出しが「要約だけ」なのが悪かったのです。

まだまだ道なかば

先輩たちの取材の技術にぼくなりに気づけたものの、実践するとなるとなかなか難しいです。

やっぱりその場での瞬発力が求められるものなので、何十回、何百回も場数を踏んで体に仕込みませていかないといけません。だけど何回かに一回ぐらい「あ、ここはちょっと抽象化の質問をしてみよう」「これを比喩するならどういう感じかな?」と意識して実践できる場面が出てきました。

これを続けていくと、より面白い話を聞ける割合が増えそうだなという手応えはかなりあります。

①具体化:「たとえばどういうことですか?」
②抽象化:「そこから得た学びは何ですか?」
③比喩 :「それって◯◯みたいなことですか?」

の3つの質問の仕方、なにか少しでも参考になる部分があるとうれしいです。

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