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銀行でお金が生まれる仕組み「対生成貨幣経済理論」

はじめにこの記事は、お金(貨幣)の基本的な仕組みと、お金が現代の経済でどのように使われているかを理解してもらう目的で作成しました。
新しい視点である「対生成貨幣経済理論」は、お金が銀行で対生成・対消滅しているという考え方を提供します。
経済活動を正しく分析するのに役立てていただければと思います。
この考えに至ったのは、物理学による”対生成”と銀行での”貸出”の概念が似ている事に気がついた事がキッカケです。

銀行でお金は対生成・対消滅している。

この理論を使うことで、経済政策がどのように機能しているかを理解しやすくなります。この記事では、以下の点に焦点を当てます

  1. お金に関する基本知識

  2. お金はどこでどのように生まれ、どのように消えるか

  3. 経済政策はどのような効果をもたらすか

この記事を読み終わる頃には、皆さんが対生成貨幣経済理論を実際の例と結びつけて考えられるようになり、この理論が経済の分析や政策の評価に役立つことを期待しています。

貨幣対生成・対消滅モデルによる経済活動

お金(貨幣)について

最初に「お金」について説明します。
「お金」というものは、私たちが物を買ったりサービスを利用したりする際に使用されるもので、いくつかの重要な機能を持っています。主に、「交換」「価値の保存」「価値の尺度」の3つの機能があります。

お金の機能について

お金の総量はどうやったら増えるのか?減るのか?

それでは、どうやってお金は生まれ、増えるのでしょうか?
私たちは、仕事などで価値を提供してお金を稼ぎます。株式投資や外貨取引、ギャンブルなどでもお金を増やすことができます。しかし、これらは個人のお金の話です。全体を見たとき、どのようにして世の中のお金の総量が増えるのでしょうか?

市場がお金をつくっているという勘違い -市場貨幣生成錯覚-

世の中のお金を増やすことは簡単に思えるかもしれません。モノやサービスを提供したり、外国でお金を稼げば簡単にお金が増えそうです。しかし、本当にそうでしょうか?

まず、考えてみましょう。この場合の「モノやサービス」と「お金」は交換されているだけです。つまり、誰かのお金が自分に入ってきただけで、取引先のお金は減っています。つまり世の中全体のお金の総量は増えていません。

外国でお金を稼ぐ場合も同じです。たとえば、アメリカでドルを稼いでも、日本の円は増えません。ドルを円に両替したらどうでしょうか?この場合も、ドルと円が交換されるだけで、どちらの総量も変わりません。

また、円安や円高になった場合も考えてみましょう。これは円の交換比率が変わっただけで、総量には変化がありません。

次に、株などの資産価値が上がった場合を考えます。資産価値が上がっても、それは「もし今後売った場合の価格」が上がっただけです。実際にお金が増えたわけではありません。もし本当に売却したとしても、購入者からその金額のお金を受け取ったことにより、売却者のお金が増え、購入者のお金が減っただけです。
世の中全体のお金の総量は変わりません。

資産売買の結果

要するに、個人のお金が増えることはあっても、世の中全体のお金の総量は市場取引では変わらないのです。個人の感覚を延長しても全体像を把握できない。
これを私は「市場貨幣生成錯覚」と呼んでいます。

市場貨幣生成錯覚のイメージ図

お金が生まれている場所 −銀行−

市場でお金は増えないとすれば、どこでお金は生まれているのでしょうか? 答えは銀行です。銀行でお金は”無”から生まれているのです。
「銀行は預かったお金を、他の人に貸し出しているだけだ」という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、これは正しくありません。
現在の世界中の銀行システムのモデルとなったイングランド銀行は2014年の機関誌で「商業銀行は、新しい融資を行うことで、銀行預金の形式の貨幣を創造する」と言っています。
つまり、銀行はお金を借りたい人にお金を貸し出すとき、そのお金を預金として新しく作り出しています。つまり、銀行は無からお金を生み出しているのです。


Can banks individually create money out of nothing?(銀行は個別に無からお金を作り出すことができるか)

2014年に「Can banks individually create money out of nothing?(銀行は個別に無からお金を作り出すことができるか)」という論文が発表されました。この研究では、”歴史上初めて”銀行が実際にどのようにお金を貸出しているかについての3つの仮説を検証しました。仮説は以下のとおりです。

・又貸し説
銀行は他の預金者のお金を又貸ししており、新たなお金は生んでない。
・信用乗数説
銀行は単独ではお金を又貸ししているに過ぎないが、銀行システム全体の相互作用を通じてお金を生み出している
・無からの創造説
銀行は他の預金者のお金に一切手をつけず、単独で「無」からお金を生み出している

この3つの仮説を検証し、銀行の取引履歴を詳細に検証した結果、銀行が無からお金を作り出していることを確認しました。つまり、銀行は新しくお金を生み出す場所なのです。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1057521914001070

Can banks individually create money out of nothing?論文

この論文では、研究者が銀行から20万ユーロを借りた時の銀行の会計を調べました。
一般的な考え方では、銀行はお金を貸す時に他の人の預金からお金を借りているとされています。
しかし、実際の銀行の会計処理では、研究者の口座に20万ユーロが追加された時、銀行は他のどの口座からもお金を引き出していませんでした。
その代わり、研究者の預金として20万ユーロが増えたと、同時に研究者の負債としても20万ユーロが増えました。

つまり、銀行は既存のお金を貸しているのではなく、新しいお金と負債を「無から作り出して」いるということが証明されたのです。

銀行は誰かの預金を貸出しているのではなく、新しいお金と負債を同時に生成しているのです。このようにして、銀行は世の中のお金の総量を増やしています。

銀行の貸出によってお金の総量が増える

そして銀行に借りたお金を返済することによって、お金と負債が同時に世の中から消滅し、お金の総量も減少します。

銀行への返済によってお金の総量が減る

銀行によるお金を生成する仕組みと対生成の類似

この銀行による貸出、返済におけるお金の増減は科学における対生成と非常に良く似ています。
対生成とは1932年にカール・デービット・アンダーソンが発見した科学上の重大な発見です。
彼は対生成の発見前、宇宙線の研究中に奇妙な素粒子
を発見しました。この素粒子は物質を構成する電子と同じ質量を持つのですが、電子が負の電荷を持つのに対して、正の電荷を持つのです。
この電子と反対の性質をもつ素粒子は陽電子と名付けられました。
そして電子という物質と反対の性質を持つということで、反物質とも呼ばれることになりました。

半円に軌道を描いている陽電子


その後、彼は実験室で強い光エネルギー(γ線)を使って、電子(物質)と陽電子(反物質)がペアで生成(対生成)されること、そして電子と陽電子がペアで消滅(対生成)して光エネルギー(γ線)に変わることを発見しました。彼が発見した陽電子(反物質)は強い光エネルギーである宇宙線(γ線)が空気中の物質と衝突し、対生成した結果現れた陽電子だったのです。
彼はこの業績により、彼は1936年にノーベル物理学賞を受賞しました。

対生成

さて、銀行がお金を貸すときも、同じような現象が起こります。銀行は、お金を貸すときに「お金」と「負債」をペアで、何もないところから同時に作り出します。そして、借りたお金を返すときに、そのペアが消滅します。これは、物理学における「対生成」と「対消滅」ととてもよく似ています。この考え方を基にして理論を展開するのが「対生成貨幣経済理論」です。

物理学における対生成・対消滅と銀行における貸出・返済の類似


政府が国債を発行してお金を借りる仕組みと支払う仕組み

次は政府がお金を借りる仕組みについて考えてみます。
政府は①自身の負債である国債を銀行に発行し、銀行から日銀当座預金の支払いを受け、政府預金を増加させます。その後、②政府支出する際は支出先の預金に振り込みます。その送金処理の結果として支出先銀行の日銀当座預金も増加します。

国債発行と政府支出の仕組み

ここで注目すべきは、このプロセスが政府、日銀、そして民間銀行の間でどのようにお金を作り出しているかという点です。民間銀行全体として考えると①国債発行の際に民間銀行から政府に支払った日銀当座預金は、②政府支出の際に戻ってきて相殺されます。
この流れをより理解するために、日銀、民間銀行が一体となった「統合銀行システム」として捉えると、全体の仕組みがより明確に見えてきます。

統合銀行システムとして考えるお金の生成と消滅

日銀、民間銀行が一体となった「統合銀行システム」として捉えると日銀、民間銀行でやり取りされていた日銀当座預金が消え、①国債発行の際、統合銀行システムの負債である政府預金が同時に発行されると見ることができます。

統合銀行システムとして見た国債発行と政府支出の仕組み

また、①民間から預金を徴税し、そのお金で②国債を償還した場合は、世の中から政府の負債である国債とお金が同時に消滅することになります。

統合銀行システムとして見た徴税と国債償還の仕組み

また、民間がお金を借りる際は、民間の負債である借入金の発行と同時にお金が発行されます。

統合銀行システムとして見た民間への預金発行の仕組み

そして、民間がお金を返済する際は、民間の借入金の消滅と同時にお金が消滅します。

統合銀行システムとして見た民間の預金返済の仕組み

貨幣対生成・対消滅モデルと経済活動

ここまでお金は市場では生まれず、銀行で無から負債と共に対生成されるという事実を説明して来ました。
この事実を直感的にわかりやすく説明するモデルとして考案したのが「貨幣対生成・対消滅モデル」で対生成貨幣対生成理論の中核を担うモデルです。

貨幣対生成・対消滅モデル

このモデルを使用すると、世の中のお金の流れを概ね理解できるようになります。
今回はこのモデルを活用して世の中の主な4つの経済活動について解説します。
※このモデルでは統合銀行自身によるモノ・サービス購入・売却、従業員等への給与支払い、徴税、補助金受領、個人国債購入の影響は省略しております。

①政府の国債発行による財政支出

政府が国債という負債を増やし、その対価として銀行が政府に①貸出(貨幣対生成)をすると、政府の負債とお金が同時に増えます。そして増えたお金を②民間に財政支出すると、結果として民間のお金が増加します。最終的には政府の負債と民間のお金が増加します。
※これにより、世の中で言われている政府の負債(クニのシャッキン)の増加は将来世代へのツケの先送りという文言が間違いであることがわかります。将来世代の日本人は民間人であり、政府の負債が増えると資産が増える立場になります。

国の財政支出

②政府の徴税による国債償還

①民間からお金を徴税し、そのお金で②国債を償還した場合は、世の中から政府の負債である国債と民間のお金が消滅することになります。
※同様にこちらでも政府の負債(クニのシャッキン)の増加は将来世代へのツケの先送りという文言が間違いであることがわかります。政府の負債を減らす事は将来世代の日本人(民間人)のお金を減らす事になります。

国の徴税

③銀行による民間への貸出

銀行による民間へのお金の貸出によって、民間の負債とお金が同時に増加します。
金融政策で日銀が政策金利を下げるのは、この民間が銀行を通じてお金を生成する力を強める事を目的としています。逆に日銀が政策金利を上げるのは、民間が銀行を通じてお金を生成する力を弱める事を目的にしています。
※日本の高度成長期、またはバブル期で景気が良かったのは、民間が銀行貸出によって大量のお金を生成していた事が主因となります。

銀行によるお金の貸出

④民間による銀行への返済

銀行へのお金の返済によって、民間の負債と資産が減少します。
※「バブル崩壊期」に恐慌(お金の不足やデフレ)が発生する理由が民間の負債とお金が同時に急減する事により説明できます。日本のバブル崩壊、失われた30年や、アメリカでのサブプライムローン崩壊、リーマンショック等もこちらで説明できます。

民間のお金の返済

経済学者は現実経済の仕組みに興味がない

ここまでの話を聞いて、これが本当であるなら、なぜ経済学者が言っている事や経済学の教科書に違う事が書いてあるのか?と不思議に思う人もいるかと思います。
その答えはノーベル経済学賞受賞者のロナルド・コースの有名な演説に隠されています。

経済学は長い間、現実の世界からどんどん離れて抽象的になってきました。多くの経済学者は、実際の経済の動きを研究するのではなく、それについて理論を立てています。
イギリスの経済学者イーリー・デヴォンズはかつて会議でこう言いました。「もし経済学者が馬を研究したいと思ったら、彼らは実際に馬を観察するのではなく、自分の研究室に座って『もし自分が馬だったらどうするだろう?』と考えるだろう。」そしてすぐに、自分たちが自分たちは利益を最大化することを発見するでしょう。

国際新制度派経済学会年次大会開会
演説 ワシントン DC、米国
1999 年 9 月 17 日

ロナルド・コース
https://www.coase.org/coasespeech.htm

これは有名な馬の例えですが、このように経済学者は現実の経済の動きを研究するより、因果関係を無視しても整えられた空虚な経済理論を作ることに夢中になっています。
これは「私が銀行だったらどうするだろう」「私が国だったら国債をどうするだろう」と考え、実際の銀行取引や国債の現実を無視し、現実とかけ離れた、彼らの頭の中でだけで整合が取れた理論を構築してしまっているのです。(事実、銀行がどのようにお金を貸出しているかを実際に銀行に行って調べた経済学者は2014年まで存在しなかったのです!)

日本の経済政策 -バラマキと改革について-

これまで市場でお金は生成されず、銀行で生成される事実を説明してきました。
最後に日本のお金を取り巻く状況について説明いたします。

政策パッケージとしての「バラマキ」

日本はバブル崩壊以降、民間への銀行貸出が増えなくなっています。銀行貸出の担保となる資産価格の低下や数々の政策の過ちによって民間によるお金を生成する能力が失われてしまいました。
この状態では政府が財政支出をするしか民間の資産を増やす方法は無いのですが、マスコミを中心とした経済メディアでは
財政支出の増加+徴税の減少
によって民間のお金を増やす政策パッケージを「バラマキ」と呼んで非難します。これにより、民間のお金は増えず、まともな投資をできなくなった日本は衰退への道を進んでいます。

政策パッケージとしての「バラマキ」

政策パッケージとしての「改革」

マスコミを中心とした経済メディアでは逆に
財政支出の減少+徴税の増加
の政策パッケージを「改革」と呼び称賛しています。
こちらもバブル発生等により民間のお金が増えすぎて価格上昇などの弊害が出ている場合であれば効果的ですが、民間のお金が増えない現在のような状況では、より状況を悪化させるだけになります。

政策パッケージとしての「改革」

このようにお金がどのように生成され、消滅していくかを整理する事により、世の中でのお金のあり方をより深く知ることに繋がります。

最後に  -重要な事は、民間のお金や負債の量が適量か否か、偏っていないかであり、政府の負債の量は問題ではない

よく経済ニュースでは赤枠の「政府の負債」をクニのシャッキンと呼び、危機を煽っています。しかし、お金は市場ではなく、銀行システムからのみ生まれます。
なので、本当に重要なのは青枠の「民間のお金」が十分にあるか?不足してないか?過剰になっていないか?や、「民間の負債」が急増していないか?(バブルの兆候の可能性)急減していないか(バブル崩壊の可能性)等の状況判断です。
民間の経済状況を安定させる為、政府は財政支出や徴税等を行えば良く、逆に言えば民間経済(青枠)が安定していれば政府の負債はどれだけあっても問題はないのです。(こちらは説明不足かと思いますのでどこかで別途解説します。)

今回の記事をご覧いただき、ありがとうございました。
初めての長文記事で分かりづらい点はあったかおもいます。
質問などがありましたら、遠慮なくおっしゃってください。
この記事をみてで、まさに経済は銀行による「対生成貨幣経済」なのだと思っていただけると嬉しいです。
現実の経済の理解の一助になれば幸いです。
今後も、経済について発信していく予定ですのでX、及びnoteのフォローをいただけると幸いです。

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