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#10 Netflixにおける戦略を議論する場の設計

この記事は、Netflixで最高製品責任者(CPO)を務めていたGibson Biddle 氏によるプロダクト戦略に関するエッセイ、10. How to Run A Quarterly Product Strategy Meetingの翻訳記事です。(翻訳許可取得済み)

今回のエッセイについて

これまで登場してきたプロダクト戦略をつくるためのフレームワーク (DHMモデル、プロキシメトリクス、GLEeモデル、GEMモデル) を、組織的に実行していくための内容となっています。

マネジメントに関わる立場の方や、プロダクトオーナー、スタートアップの経営層の方などにおすすめのエッセイです。

これまでのおさらい

NetflixのCPOを務めたギブソン氏の、自らの体験を元にしたプロダクト戦略に関わるフレームワークを紹介してきました。

フレームワークの一覧はこのエッセイにまとめられています。

また、プロダクト戦略をつくった上で、組織的にどのように実行していくのか、職種ごとの目線の違いをどう埋めていくのか、という話にも言及しました。

今回のエッセイも、「戦略そのものについて」から、「いかに戦略を実行していくか、実行から学びを得ていくか」にフォーカスした内容となっています。

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戦略を高速で実行するためのNetflixカルチャー

Netflixの文化に欠かせないのは、チームの「高度な連携 (highly aligned)」「疎結合 (loosely coupled)」です。

高度な連携 (highly aligned) とは、各グループが製品戦略全体を理解し、会社の成功にどのように貢献しているかを理解していることを意味します。

一方で、疎結合とは、各チームが自律的に意思決定をしている状態を指します。各チームが時折お互いに確認し合いながらも、意思決定のたびに複数のチームに相談するような「密結合」の罠を避けることを意味します。

Netflixのもう一つの原則は、「コントロールではなくコンテキストを重要視する (context, not control)」です。戦略を通じて事業の文脈 (コンテキスト)をチームに共有し、各チームが誰かに頼らずとも自らで意思決定を行えるようにすることを意図しています。

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参考:Netflixでは、良いチームワークのためには、ハイパフォーマンスなメンバーの存在と、良い文脈の共有が大事だと考えています。(出典:Culture)

戦略を扱う場を設計する

事業の文脈共有とハイレベルな調整を行うために、私は各領域のリーダーを集め、四半期ごとに製品戦略ミーティングを開催していました。このミーティングの目標は以下の通りです。

1. 製品戦略、指標、戦術を通じた事業のコンテキストの提供
2. 製品組織全体の整合性の確保
3. 各プロジェクトの成果と学びの共有
4. 将来に向けての理論や仮説を明確にする
5. 各戦略ごとのリソースの投資量を決める

また、Netflixのカルチャーを体現するための、ミーティングのルールもありました。

・CEOレベルのコミュニケーションを行う (初心者を馬鹿にしない)
・議論を活発にする
・スライドは積極的に使うが、クオリティにこだわる必要はない。スライドは会話の起爆剤にはなるが、資料を磨いて決断が遅れ、会社が死ぬことは避ける。重要なことは、戦略、仮説、および結果から、議論や議論を刺激すること
・出席を制限する。部屋に15人以上の参加者がいると、会議は効果的ではなくなる
・意思決定の場にあえてしないこと。プロダクトリーダーがA/Bテストの結果に成功した場合は、会議の前に新しい体験やプロジェクトを立ち上げるように促す。このミーティングのゴールは、速いペースでの意思決定を可能にすること。

四半期のミーティングとカルチャー

四半期ごとの製品戦略会議をNetflixで実施した結果、間接的な成果が3つありました。

1. 企業文化浸透のための仕組みになった
ミーティングに参加することで、リーダーはNetflixの文化を体現するスキル、行動、価値観を学んでいきました。

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参考:Netflixの昇進の条件は、①大きな仕事をすること
②特定の役割でスーパースターと呼べる活躍をすること
③カルチャーの素晴らしい体現者であること (出典:Culture)

2. 結果を重視する組織を生み出した
各チームがプロキシメトリクスを向上させる (事業的な結果を出す) ことができれば、より多くのリソース (お金やメンバー) を得ることができた。逆もまた真なりでした。

3. 各フェーズ、各領域にあったリーダーの見極め
四半期のミーティングにて、各チームの学習量や結果を共有する場があるため、どの製品リーダーが現在のフェーズに効果的であったかを見極められました。時間の経過とともに、どのリーダーのスキルが会社の成長に合わせて必要となっていくのかが分かってきました。

四半期ごとのミーティングは、会社の全体的な文化に影響を与えていたのです。

現在の四半期の戦略会議の仕組み

私は時々、企業の四半期製品戦略会議の準備と実行のお手伝いをしています。製品責任者が会議を所有し、出席者を決定し、スケジュールを管理します。

会議の前日には、製品責任者がGoogle SlidesやDocsを使って以下の資料を共有します。

1. (GLEeモデルに基づく)製品ビジョン、製品戦略 (戦略/指標/施策) 、(GEMモデルに基づいた) 全社的な優先度、4四半期のロードマップを含む製品戦略全体の再整理

2. 次の四半期の重要プロジェクト (重要なプロジェクトは、部署横断的な調整をする必要があるため)

3. 製品全体に関連するインサイト (大抵はカスタマーリサーチ、デザイン、データ、それぞれのチームのリーダーが共有する)

各領域のプロダクトリーダーは、順番に、これらの資料を事前に共有します。前日に資料を共有することで、幅広い対象層の参加が可能になります。

全員が資料を読み、共有された資料の中で質問をしたりコメントをしたりすることが求められていました。私から当時のチームに対して発信していたメッセージは、「存分に楽しみたければしっかりと準備せよ」ということです。

アジェンダの作成

最初の四半期ごとの製品戦略会議の大まかなアウトラインは以下の通りです。

1. 製品チームのトップによる戦略の説明 (30分 ~ 60分)
戦略についての要約を、製品チームのトップから共有。主要なチームメンバーは、関連するインサイトがあれば共有をします。

2. 各領域ごとの戦略共有と議論 (30分~60分/各領域)
戦略ごとに、各製品リーダーがプレゼンテーション。前日に共有したすべての資料を伝達するのではなく、各リーダーが資料をかいつまんで説明します。各プロダクトリーダーが議論する内容は、共有された資料からの質問やコメントに基づいています。目標は、プレゼンテーションとディスカッションを半々のバランスで行うことです。

3. まとめ (60分)
セッションの最後にまとめを行います。この時間は、一般的な議論をしたり、未解決の問題について議論したり、どの情報を部屋の外で広く共有すべきかを決める機会となります。

かなり長丁場になることもあるため、昼休みを含めて、有意義な休憩時間を設けています。もちろん、チームが予定より遅れてしまった場合は、時折休憩時間を省略することもあります。

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ある四半期の戦略会議を終えたギブソン氏

そして、ミーティング後には以下のような動きをしています。

1. 参加者へのNPSアンケート
参加者に今回の四半期戦略会議に関するNPSアンケートに答えてもらい、何がうまくいったのか、何がもっと良くなるのかを把握します。各会議を前の会議よりも良いものにするためです。

2. 参加メンバーでの食事
参加者全員で食事をするのが良いです。白熱した議論の後には、関係を再構築する時間が必要です。

3. 議論しきれなかった論点の整理
リアルタイムですべての問題を整理するのは難しいこともあります。少人数のチームで議論する必要があるトピックは、リストにまとめておき、後に議論をするように動きます。

4. 決定事項のまとめと共有
その日の出来事、特に成果や学習、方向性の変更、その他会社の他の部分に影響を与えるような決定事項をまとめておくことは、とても良い行いです。このリストは、次回の会社、取締役会、役員会で共有することができます。また、次の四半期ごとの製品戦略会議でこのリストを参照して進捗状況を確認するのも良いでしょう。

細かいことですが、私は気が散るのを最小限に抑えるためにオフサイトで会議をすることが有用であると感じています。また、ある領域のプロダクトリーダーが、自分の領域で意味のある結果やトピックがない場合は発表しなくても良いことにしています。

一般的に、私は割り当てられた時間をオーバーしてしまったチームに備えて、これらの (議論が長引きそうな) 領域を一日の終わりに向けてスケジュールしています。

結論:良い会議がもたらすもの

良い会議は映画のようなものです。脚本があり、良いサプライズと悪いサプライズ、ドラマがあり、そしてほっと息をつく瞬間があります。

Netflixでは、四半期ごとの製品戦略会議はカルチャーをより浸透させるメカニズムとなりました。

知的好奇心、勇気、率直さという会社の価値観を強化し、事業のコンテキスト (文脈) を共有し、さらに強くする手段を提供しました。また、それぞれの分野に精通した個人によるスピーディーな意思決定も可能にしたのです。

しかし、Netflixの文化とその仕組みを自分の会社にそのまま使うようなことはしないでください。カルチャーは組織ごとに違い、そのために機能する仕組みもそれぞれ違うからです。

次のエッセイでは、私が次のスタートアップであるCheggでどのように製品戦略ツールとフレームワークを適用したかを紹介します。

次のエッセイ:11. プロダクト戦略のケーススタディ:Chegg

このシリーズの索引

0. いかにプロダクト戦略を定義するか
1. DHMモデル
2. DHMモデルから製品戦略へ
3. 戦略からメトリクス、戦術へ
4. 事業仮説を正しく測るプロキシメトリクス
5. 戦略を実現する施策の出し方
6. Netflixにおけるパーソナライズ戦略
7. 戦略からロードマップへ
8. 製品ビジョンを探索する強力なチームづくり
9. 組織のフォーカスを決めるGEMモデル
10. 戦略を議論する場の設計について
11. プロダクト戦略のケーススタディ:Chegg
12. プロダクト戦略作成の手引き


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