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心理学論文を用いてハチクロの感想を述べる① さみしさと孤独感は波のよう

今更ながらハチクロを読んだ。心理学の論文を参考にしつつ、心情描写に長けたハチクロの感想を語ろうと思う。

こうしてハチクロにたどり着いた

まずはハチクロを読むに至った経緯を述べよう。
俺は大学生が主人公のストーリーが好きだ。登場人物たちが自由な時間を過ごしている様を垣間見ることができるからだろうか。
彼らは悩みつつも、時間を共有した仲間とともに、少しづつ未来へと歩んでいく。
いくつか好きな作品があるが、特に気に入っている小説は「砂漠」「青が散る」だ。

また、デザイン関連の話も、「左ききのエレン」を読んで好きになった。
デザイナ―は美大出身者が多くを占める。
「左ききのエレン」にも美大時代の主人公たちが描かれている。

そのような話をしたら、美大が舞台のマンガ「はちみつとクローバー(ハチクロ)」を薦められた。

ハチクロの概要

6畳+台所3畳フロなしというアパートで貧乏ながら結構楽しい生活を送る美大生、森田、真山、竹本の3人。そんな彼らが、花本はぐみと出会い……!? 大ヒットシリーズ第1巻!!

ハチクロでは、美大生を中心とする人物の関係の4年間が描かれている。
主要登場人物は美大生5人と美大教師1人の6人である。その6人に加え、彼らと関わりのある周囲の人物を含めた人間関係(主に片思い)を描写している。
特に、人物の内面や心理を、繊細かつ詩的に表現している点が秀逸である。

ハチクロが完結したのは2006年だった。今から14年前だから、俺が小学6年生だったときだ。
リアルタイムに読んでいても、小学生の俺に作品を受けとるアンテナは全く備わってなかった。登場人物に対して共感するどころか、感情を理解することすらできなかっただろう。

大学を卒業して数年経った今、登場人物の感情や行動が痛いほど心に突き刺さる。人物の心情を丹念に描いているハチクロを、大学で心理学を専攻した筆者が、心理学用語や論文を交えつつ感想を語ろうと思う

※以下、ネタバレを含みます。この記事をここまで読んで、ネタバレをされたくないと思った方は、いったんハチクロを読んで頂いて、その後にこの記事の残りを読んで頂けたら嬉しいです。

波のように打ち寄せるさみしさと孤独感

同級生の真島に片想いをする美大の研究生「あゆみ」は、独身の花本先生とこんなやり取りをする。

あゆみ
「一生ずっとこのままひとりぼっちだったらどうしよう?
先生もさ…
さみしくなったりしますか?」

花本先生
「ん?さみしいよ
でもただそれだけの話だよ
こう波みたいにガーッときて
かと思ったらすーっとひいて
それがずっと繰り返し続くだけさ」

出所:ハチクロとクローバー 7巻

心理学の研究者、Peplau & Perlman(1979)によると、孤独感は、当人の願望よりも小さい、もしくは十分な満足感が得られない、人間関係である場合に生じる。自分が得たいと思っているほど、広いまたは深い人間関係が得られないときに抱く感情である。当人の願望は主観によって異なり、気分などによっても変動すると考えられる。
また、友人との死別や転居など、環境の変化によって、実際の人間関係も変わっていく。願望と人間関係ともに変化するため、それらによって規定される孤独感も当然変動するだろう。

孤独感が揺れ動く様は、まさに寄せては返す波のようだ。
まるで、新型コロナの感染者数が増えては減り、また増えては減ってを繰り返しているかのようである。


あゆみ
「ず…ず……ずっと……?」

花本先生
「時々 大波が来て
心臓がねじ切れ
そーになって
のたうったり
叫びだしたくなりそーな
夜とか
周期的にやってきたりするけどね」

出所:ハチクロとクローバー 7巻

花本先生はさみしさを知っている。
大学時代の友人、原田さんを失って何年も経っている。
花本先生は、原田さんと、原田さんの奥さんであるリカさんの三人で過ごしていた。
でも、実際は花本先生もリカさんも原田さんを頼りにしていた。

原田さんの死後、花本先生はリカさんと暮らすようになるが、原田さんのようにリカさんを支えることはできないと気づき、二人は離れる。

友人を亡くしたさみしさ
友人を手助けできないさみしさ
恋人のいないさみしさ

花本先生は、いくつものさみしさを知っているのだろう。
そして、花本先生が得たい人間関係とは何だろうか。
読み進めた先に答えは待っているかもしれない。

【引用した論文】
Peplau, L.A. & Perlman, D. 1979 Blueprint for a social psychological theory of loneliness. In M. Cook & G. Wilson (Eds.) Love and attraction. Oxford, England: Pergamon Press.



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