企画メシに落ちた話
2017/4/17, Mon 18:57
僕の元に1通のメールが届いた。
「企画でメシを食っていく2017」の落選メールだった。
「企画でメシを食っていく」
「企画でメシを食っていく」とはコピーライターの阿部広太郎さんが主催されている、企画する人を世の中に増やすための講座だ。
みなとみらいのBUKATSUDOというコミュニティスペースで月2回の約半年間、各界で活躍されているトップランナーの方々をお呼びしての講義と課題の提出を行う、という講義内容だ。
過去の講師には
・コルクの佐渡島さん
・クリープハイプの尾崎世界観さん
・ピースの又吉直樹さん
・Rhizomatiksの真鍋大度さん
など著名な方々が登壇されている。
この講座に応募して僕は落ちた。
当時、企画の仕事に興味があったけど、企画とは全然関係ない仕事をしていた僕は(今もあまり関係ないけど)企画について勉強できる講座はないかと探していた。
そんな中たまたま目にした「企画でメシを食っていく」(※以下「企画メシ」)に即座に応募した。そして落ちた。
約30名の定員に対して、200名超えの応募があったということは倍率は約6倍。狭き門だ。落ちるのも仕方ない。
だけど悔しい。悲しい。一歩踏み出したいと思って応募したのに、その一歩すら踏み出せなかった。
・熱意が足りなかったのか?
・アピールするポイントが弱かったのか?
・普段から企画の仕事をしている人が選ばれたんだろうか?
そんなことばかり思って、
悔しくて悔しくて、仕事中だというのにトイレに引きこもって凹んだ。
(後から知ったけど企画と関係ない仕事の人もたくさん通われていたから最後の部分については全く的外れだった)
メールの最後にはこうも書いてあった。
「企画をしたい!」そう思ってくださったことに、
なにか、ほんの少しでも、お応えできないかと。
「企画メシ」の発起人である私(阿部広太郎)は、
考えておりました。4月23日(日)16時00分~17時30分。
横浜みなとみらいのBUKATSUDOにて
「いま、企画をするということ」
というテーマで、私が考えていることをお伝えします。
次につながる時間になるよう、全力を尽くします。
本編の講座には参加できないけど、この日にBUKATSUDOに行けば、講義をしてくれるということだ。
正直複雑な気持ちだった。心遣いをしてくれるのは嬉しいけど、結局は本編には参加できない。それでも阿部さんにもお会いしてみたいし、講義も聞いてみたい。
嬉しさと悔しさと劣等感がないまぜになった想いで参加の旨をメールした。
**「いま、企画をするということ」
**
そして4/23当日になった。僕は東横線に乗ってみなとみらい駅で降りBUKATSUDOへと降り立った。「企画メシ」に当選していれば通うはずだった場所へ。
講義は楽しかった。だいたい25人くらいの人が参加していて、阿部さんの話を聞いた。
阿部さんの話は面白かった。
広告代理店に入社後、人事部に配属された阿部さんはインターン生を担当したセミナーやワークショップなどの裏方の仕事をされている中で「自分も企画する側になりたい」と思って、コピーライターとしての転局試験を受けることを決意。先輩コピーライターの方に課題を出して貰い続け必死で勉強し、見事試験に合格した。その後も「世の中に一体感を作る」をテーマに活動されており、「企画メシ」もその一環という話だった。※「企画メシ」は阿部さんの個人的な活動。
講義終了後には懇親会もあり、お酒を飲みつつ阿部さんや参加者同士の交流が持てた楽しい時間だった。
そう、とても楽しい時間だった。
そして、帰路についた。
参加者のうち何名かと同じ電車に乗って帰っている時に、その中の一人が誰ともなく呟いた
「僕たちも何か企画したいよね...」と
そう。僕も含めてきっとみんな同じ気持ちだったのではないだろうか。
阿部さんは素敵な人だったし、お話にも刺激をもらえた。
でも、僕は、いやその日講義に参加した全員は「企画メシ」に参加することができない。
楽しい時間だったけど、終わった後「このままでいいのかな?」という気持ちが渦巻いていた。
「何かがしたかった」「企画がしたかった」
胸の奥にはずっと悔しさが残っていた。
「僕たちも何かしたいよね...」と呟いた後に「したい」「したいよね」「やろう」という話になり、みんなで連絡先を交換した。
そして、当日参加できなかった選考に漏れたメンバーにも連絡を取り、30人くらいのグループを作って、有志を集めて何か企画をしようということになった。
最終的に仕事の都合や、他の活動に注力するということで全員で動くことはなかったのだけど、僕を含めて8人のメンバーで活動することになった。
集まりには名前があった方が良いだろうということになり
「モクロミ」という名前をつけた。
これは勿論、企画すること、企むことは目論むとも言えるよね、ということでつけた名前だ。
僕たちが決めたことは1つ
・企画メシが終了するまでの半年間の間に企画を1つ形にすること
それ以外は何も決めていなかったので本当にゼロからのスタートだった。
「自分たちで企画をしたい」という想いが最も大きかったけど、「企画メシ」の終了まで、という期限にしたのは「企画メシ」に通う人、ひいては阿部さんを見返したい、落としたことを後悔させたい、みたいな気持ちがあったのは事実だ。※結果的には「企画メシ」の終了までには企画を実行できなかったけど。
そこからは1週間や2週間ごとに渋谷のカフェに集まって、企画会議をした。本当に何も決まっていなかったので、それぞれがアイデアを持ち寄って、出来そうなこと、やりたいことを少しづつブラッシュアップしていった。
元々知り合いだったわけでも、友人同士であったわけでもないので、揉めることも上手くいかないこともたくさんあった。(今はみんな友人だと思っているけど。)
「昔の遊びをアップデートしよう」というアイデアが出て、試しにみんなで代々木公園で「だるまさんが転んだ」をしたことなんかもあった。(これは結局ボツになった)
数ヶ月に及ぶ話し合いと試行錯誤の結果、「体験型のイベントにしよう」ということになり、
「マンガのコマにその場で声優さんにアフレコしてもらう」という「マンガライブ」という企画を実施することになった。
モデレーターとなる人がいた方が良いのでは、という話にもなり、阿部さんに依頼出来ないかとアイデアが出た。(見返したい、という気持ちもあったけど、結局みんな阿部さんと一緒に何かしたかったんだと思う。)
そして、阿部さんに連絡を取り快諾をいただき、企画内容を話すと
「マンガは生きものに進化する」というコピーも書いて送ってくださった。(このコピーを見たときメンバー全員で感動したし、プロのコピーライターの力に震えた。)
アテレコするマンガには矢島光さんの「彼女のいる彼氏」という作品を使わせていただけることになった。
そして、イベントの内容も固まり、開催に向けて動き出した。
とは言っても集客にはめちゃくちゃ苦労したし、順調に進んだことなどほとんどなかった。
イベント開催前日には仕事終わりに会場近くに集まって終電ギリギリまでミーティングをした。
話せば話すほど、不安点や問題点が出てきて、本当にこんな状態で開催できるのかとめちゃくちゃ不安だった。
そして、イベント当日となり、あっという間に2時間のイベントが終わった。
結果としては大成功だったと思う。
参加してくださった方からは「面白かった」「新しい体験だった」などと言ってもらえたし、SNSにも感想をたくさん書いてもらった。
声優さんがコマ(正確にはコマを使用したアニメーション)にアテレコする度に会場全体が笑いに包まれたり、ちょっとほろっとした雰囲気になったりして、まるで映画を劇場で見ているかのような体験を、マンガに声を吹き込みことで作り出せたと思う。
阿部さんと作者の矢島先生をお呼びしてのトークも作品の裏話が聞けたりすることで、作品に対する理解も深まってとても良かった。
僕自身もとても楽しかった。他のメンバーも楽しそうにしていた。
そして何より、参加してくれた方々の表情を見ていると心の底から楽しんでくれているのが分かって嬉しかった。やって良かったと思った。
イベントの撤収を済ませ、阿部さんや矢島さんも伴って打ち上げをして、その日は解散となった。
イベントが終わった翌日(というか深夜)、イベントの余韻とアルコールによる高揚感がある中で僕は阿部さんにメッセージを送った。
そして阿部さんからこんな返信をいただいた
涙が出た。涙で前が見えなくなった。
深夜に布団にくるまりながらボロボロ泣いてしまった。
阿部さんの言葉には僕と、一緒に走っていた仲間の想いを全て書いてくださっていた。
最初は「見返したい」「悔しい」という気持ちではじめた。ただそれだけだった。
でも、走り出していくうちにだんだん楽しくなってきて、でも上手くいかなくて、また楽しくなって、興奮してなんとか最後までやってこれた。
何度も「出来ない」って思ったし、メンバーの誰かが離脱したりして、自然消滅するんじゃないかと、心のどこかで不安に思っていた。(最終的には最初からのメンバー8人が全員残って企画を実行した。)
それでも、やっぱり楽しくてイベントを実現したいって思ったし、形にしたかった。だから、気づいたら最初の「見返したい」みたいな少しネガティブな感情はどこかに消えていて、どうでもよくなっていた。
(当時の「企画メシ」に通っていた友人から後から聞くと、阿部さんはマンガライブのことを「企画メシ」のコミュニティで、めちゃくちゃ宣伝してくれていたらしい。涙...)
だから、イベント中にお客さんの顔を見たときも「やって良かった」って思ったけど、阿部さんの言葉を見たときも、それ以上に「やってきて良かった」「はじめて良かった」って心の底から思った。
「企画」をすること
「企画メシ」に通えば、「企画」のことを勉強できたかもしれない。
でも「企画メシ」に通わないと「企画」が出来ないわけじゃない。
「企画」に関する仕事をしている人(例えば、コピーライターとか、プランナーの人)だけしか「企画」をしちゃいけないわけじゃない。(むしろどんなことだって「企画」にできるはずだ。)
そのことに気づけた。
この「マンガライブ」をしてから僕は一人でも企画をするようになったし(SNSアカウントを作ったり、小さいイベントしたりするくらいだが)
何かを「やりたい!」と思って発信すれば、共感して一緒に動いてくれる人が見つかることがあるのも学んだ。
それはきっと、最初人事部に配属されて悔しい気持ちを味わった阿部さんが、コピーライターになろうと動きはじめた時も同じだったのではないだろうか。
「待っていても、はじまらない」は阿部さんの言葉であり、本の名前だ。
でも、それは言葉だけじゃなくて阿部さんの想いであり、生き方そのものなんだと思う。
僕もまだ仕事もプライベートも含めて色んなことが上手く出来ないし、悩むことばかりだ。
でも、みなとみらいから帰るあの日、「自分も企画がしたい」と思って一歩踏み出したことは僕の財産だし、「待っていても、はじまらない」という言葉はいつも胸にしまってある。
そして、仕事じゃなくても「企画」はできるし、どんなことも「企画」になりうるということも学んだ。
だから、例え目の前の道で上手くいかなくても、別の道があるかもしれない。そこで一歩踏み出すことが自分にとっての転機になるかもしれない。
最初は辛くて投げ出したくなっても、走り切った先に、誰かにかけて貰える言葉で、全てが報われたと感じるかもしれない。
僕が阿部さんの言葉で報われたと感じたように。
言葉とは応援であり、魔法だと思う。
言葉の力を、僕は信じている。
そんな阿部さんの「言葉」をテーマにした新刊が3/4に発売になるらしい。
もし気になる人がいればぜひ読んでほしい。