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デザイン思考編:事業創造/スタートアップ はじめの一歩に役立つ参考図書ガイド

「世の中に価値を提供する新規事業を始めたい」
「社会を変えるスタートアップを立ち上げたい」

そんな想いを持つ人は、どうすれば人々の本当のニーズを探り出し、熱望される事業アイデアを発想していけるのでしょうか?

この記事は、組織の内外で新規事業を始めようと考えている人、実践し始めている人(アントレプレナー/イントレプレナー)向けに書いています。想定読者は2019年1月当時の自分。新規事業開発・オープンイノベーション推進を行うことになったものの、右も左も分からなかった自分がペルソナです。

関連記事はこちら。

今回は、問題解決アプローチの手法およびマインドセットとしてここ数年で非常に注目されている「デザイン思考」に焦点をあて、参考書籍を紹介していきます。

各書籍を個人的な印象でチャートにまとめてみました。

デザイン思考編_チャート


■はじめに:「デザイン」の指し示すもの

いやいや、デザインって言われてもデザイナーの仕事でしょ?と思う方も多いかと思いますが、まずは辞書にある「デザイン」の定義に触れてみましょう。

1 建築・工業製品・服飾・商業美術などの分野で、実用面などを考慮して造形作品を意匠すること。
「都市をデザインする」「制服をデザインする」「インテリアデザイン」
2 図案や模様を考案すること。また、そのもの。
「家具にデザインを施す」「商標をデザインする」
3 目的をもって具体的に立案・設計すること。
「快適な生活をデザインする」
(出典:小学館 デジタル大辞泉)

デザイン思考が対象とするものは、上記の3「立案・設計」が最も当てはまります。デザイナーに限らず、ビジネスパーソン全体に関わる包括的な概念なのです。私たちが何気なく使っている1,2(「意匠」としてのデザイン)は、どちらかというと狭義の概念と言えます。

機能としてのデザイン、設計方法としてのデザイン、思考方法としてのデザイン、という捉え方もあり、こちらのBlogに非常によくまとまっています。

上記の前提を踏まえたうえで、書籍の紹介にまいりましょう。


■『デザイン思考が世界を変える』~デザイン思考が広がった原点~

デザインファームIDEOのCEOティム・ブラウン氏が2009年(日本版は2014年)に著した『CHANGE BY DESIGN/デザイン思考が世界を変える』の2019年アップデート版。

本書ではそもそもデザイン思考とは何か、という問いに対して多様な例をもとに枠組みを提示してくれています。本書の訳者でもある千葉敏生氏のあとがきが明快なので、そこでの言葉を借りてみましょう。

デザイン思考とは、一言で言えば、製品開発や問題解決にデザイナーの思考を取り入れる人間中心のアプローチといえるでしょう。人間を観察し、人間の話を聞き、人間に共感してニーズや問題を突き止め、アイデア創造、プロトタイピング、テストを行い、人間からフィードバックを得ながら、コンセプトを反復的に改良していく――つまり、デザイン思考の中心にはいつも「人間」がいるのです。

現代社会は、従来の「技術」に偏ったアプローチ(この技術を使って○○しよう)や、「科学的管理法」に偏ったアプローチ(プロセスを進める唯一の最善策を進めよう)だけでは成り立たない時代になってきています。だからこそ、本当に「人」の視点に立って、人のためになること、最適な体験を創造しよう…そんなことなのだと捉えています。

本書で僕が特にキーポイントだと感じたのは第10章「いま、未来をデザインする」。ここに著者のメッセージというか、具体的に踏み出すためのマインドセットとアクションが語られています。見出しだけ抜粋します。

■デザイン思考とあなたの組織
スタートからかかわる
人間中心のアプローチを尊重する
早めに何度も失敗する
プロの手を借りる
インスピレーションを共有する
大小のプロジェクトを織り交ぜる
イノベーションのペースに合わせて予算を組む
才能の発掘にあらゆる手を尽くす
サイクルに合わせてデザインする

■デザイン思考とあなた自身
「何を」ではなく「なぜ?」を問う
目を見開く
視覚化する
他者のアイデアをもとにする
選択肢を求める
ポートフォリオのバランスをとる
人生をデザインする

いわゆるハウツー本ではなく、デザイン思考の元になる原理や手法を理解するのに役立つ「枠組み」を提供してくれる本。やや難解なところも正直あり、一読で理解するのは難しいのですが、そのぶん何度読み返しても新しい発見があります。


■『世界のトップデザインスクールが教える デザイン思考の授業』~日本人のための、理論と実践の手引き~

デザイン思考・ビジョン思考を活かした創造的問題解決の、日本における第一人者でもある佐宗邦威氏。2015年に著した『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』の、2020年での増補改訂版です。

『デザイン思考が世界を変える』がデザイン思考の教典であるならば、本書は理論を学びつつ具体的なアクションに落とし込むための実践集といえるでしょう。

授業」というタイトルの通り、合計8つのパートから構成されており、非常にバランスの取れた内容になっています。

LESSSON0:概論
デザイン思考が今、世界中で必要になっている背景
LESSSON1:思考法
新たな切り口を発想し、シンプルに統合するデザイナーの思考法
LESSSON2:マインドセット
議論するのではなく手を動かして考える
LESSSON3:プロセス
ユーザーへの共感から始め、新たな解決策を発想、プロトタイプするまでの創造的問題解決の具体ステップ
LESSSON4:ツールと環境
頭を創造モードにスイッチするための切り替え方
LESSSON5:キャリア
デザインというビジネス・キャリアの地図と作り方
LESSSON6:経営戦略
デザイン思考を経営戦略として活用するための事例や考え方
LESSON7:幸福
不確実な時代を生き抜く上でのライフスキルとしてのデザイン
対談:(×山口周氏)
ビジネスがクリエイティブになるために、デザインすべき領域は?

本書が分かりやすいのは、Why(なぜいまデザイン思考なの?)→What(デザイン思考の構成要素)→How(デザイン思考を活かすツールや手法)となっている点。読み進めるうちにスッと入ってきます。
(でも、本当に体に覚え込ませるには少しずつでも実践しないとダメです)

佐宗さんは本書の旧版である2015年の『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』以降、2019年に『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』を立て続けに著します。

デザイン思考と相補関係となる「ビジョン思考」について、『直感と倫理…』ではその概念が、『ひとりの妄想で…』では組織に実装するための方法論が書かれており、一読の価値ありです。


■『問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション』~人々は「問い」に飢えている~

デザイン思考を使った創造的な問題解決のプロセスを踏むとき、実質的にアウトプットの質を決めるのが「どんな問いを立てるか」という点です。

本書は厳密にいえばデザイン思考自体の解説書ではありません。ですが、固定化した「認識」「関係」を揺さぶり、新たな視点を発見するための「問い」を立てるというのは、デザイン思考における「課題定義」のプロセスにおいて特に効果を発揮します。

序論 なぜ今、問いのデザインなのか
PartI 問いのデザインの全体像
1章 問いのデザインとは何か
PartII 課題のデザイン:問題の本質を捉え、解くべき課題を定める
2章 問題を捉え直す考え方
3章 課題を定義する手順
PartIII プロセスのデザイン:問いを投げかけ、創造的対話を促進する
4章 ワークショップのデザイン
5章 ファシリテーションの技法
PartIV 問いのデザインの事例
6章 企業、地域、学校の課題を解決する

2020年に出版された本書はあっという間に3万部を超える大ヒットとなっており、それだけ人々が正解のない時代で、適切な「問い」に飢えているのでしょう。

僕も本書から、ワークショップのファシリテートや煮詰まった会議での突破口の開き方に関して、非常に大きな示唆を与えてもらいました。ひとりブレストでも、チームでの対話でも、より大きな組織での課題探索でも、大いに応用できる余地があります。

著者の安斎勇樹さんによる、問いの「因数分解」の解説や、執筆の裏話も以下のnoteにあって興味深いです。


■『デザインシンキング・プレイブック デジタル化時代のビジネス課題を今すぐ解決する』~すぐ実行できる具体ツール集~

デザイン思考の時代背景や有用なのはわかったけれど、実際に何をどうやるの?という人向けの「HOW」の本がこちら。2019年に日本語訳版が発行されました。

紹介されているツール(あるいは手法)群は、ペルソナ、ジョブ理論、バリュープロポジション、共感マップ、スクラム、リーンキャンバス、5W1H質問、HMW、SCAMPER、レトロスペクティブボード、など。ほかにもたくさんあります。

また、デザイン思考以外のアプローチとしても、データ分析、システム思考、リーンスタートアップなどを状況に応じて組み合わせるような形で応用的に提示されています。
「新しい事業を生み出す」「組織を変革する」といった実際の問題解決にあたり、各ステップ単位でワークショップを行う際などに、実践の手引きとして大いに活躍してくれるでしょう。

留意すべき点として、デザイン思考の「Why」を理解した状態の人が取り扱わないと、ただのツールの羅列で自己満足に終わってしまうことが挙げられます。僕もWhyがわからない時期にこの本を読んだことがありましたが、頭が?マークだらけでした。本書はあくまで応用書としての扱いがよいと感じます。


■実践するひとりとしての個人的な補足

デザイン思考は課題を持った「人」にフォーカスするアプローチであるがゆえに、単体で進めるとどうしても起案者の「原体験・想い・理想・ビジョン」が置き去りになりがちだと感じています。

だからこそ、課題仮説を発想する手前の段階では、起案者である個人やチームとしての「原体験」「想い」を言語化・イメージ化するプロセスを踏み、随時そこに立ち返るステップを設ける必要があります。

アイデアや解決策案には「原体験」と「想い(なぜあなたが、なぜいま、といったWhy)」が乗っかっているか。そこがなによりも大切です。

佐宗さんが論理思考から出発し、デザイン思考を経由してビジョン思考を扱うようになったのは、この「想い」の力こそ社会を変える原動力であると感じたからではないでしょうか。
下の図でいう「Vision Design」の箇所です。

20210202_事業創造のステップ


いかがでしたでしょうか?
他にもたくさんの書籍はありますが、今回はここまで。

僕も社内外で悩み苦しみながら実践と学習の推進中ですが、参考になれば嬉しいです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!


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