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袖振り合うも多生の縁

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#短編小説

いちごの家族

いちごの家族

 つぶれるいちごをぼくは見た。
 ふと、なまあたたかくてしめっぽかった、あの夜がよみがえる。
 でもいま、いちごを踏みつぶしたのは、父ちゃんの足ではなく、車いすの車輪なのだ。
 八百屋の店さきで、みかんでもりんごでもなく、いちごにぼくがいざなわれ、ひと山二百円のザルから赤い粒をつまみあげた時のことだった。
「お客さん」
 店のあんちゃんが愛想笑いで呼びかける。
「さわったら買ってってよ」とでも言っ

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思いやり急便(中編)

思いやり急便(中編)

バイクを止め、辺りを見渡す。一面の田んぼに、のどかな風景が広がっていた。大きく深呼吸すると、僕の中にある毒のようなものが、一気に洗い流されていくようだった。そのくらい空気は澄んでいた。

畑の中に、何やら茶色の麦わら帽子が小さく揺れていた。よく見ると、座り込んで畑いじりをする70代くらいの女性がいた。
「あの!」
僕の声に気がつくと、その女性はゆっくり立ち上がった。
「杉村留子さんですか?」
少し

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思いやり急便(前編)

思いやり急便(前編)

「お待たせしました」
待ち合わせは、よくあるファミリーレストランだ。突然、ヘルメットを片手に現れた僕に、お店の客は驚きを隠せない様子で、視線を向けた。
「島村様はいらっしゃいますか」
窓際の席に座る男が、慌てて席を立つ。一緒に食事をしていただろう女性が、何事かと不思議そうな顔をした。
「あぁ、ちょっとこっちに」
女性に断りを入れると、男は、慌てた様子で僕の腕を引っ張った。女性から少し離れた瞬間、男

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202X。日本。~縮みゆく独裁国家。逃げ場の無い壁 どこにも無い壁③~

202X。日本。~縮みゆく独裁国家。逃げ場の無い壁 どこにも無い壁③~

日沈み、地下出(いず)る国の反体制機関紙『スキゾちゃんぽん』第三号
※本機関紙を手に入れたラッキーなあなたへ。末尾にあるQRコードを読み込めば、次号以降の配布予定箇所がわかります。しかし! 弾圧回避のため大概場所が変わります。・「ある女性の裕福だが孤独過ぎる暮らし」③

 遠くで白みだす空。そろそろ両親が帰ってきてもおかしくない。玄関先であくびをしながら靴を履く有海。A美さんはふと気になったことを

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