利由冴和花
noteのお題やコンテスト応募用等で書いた作品集。色んな物語がつまっています。
自由詩。
移住者を増やす町おこしプロジェクト第1号の僕は、任期満了で町を去ることを決めた。小さな町で、繰り広げられる心あたたかなヒューマンストーリー。
同じ教室で過ごす18人の高校生たち。 それぞれの日常を1話完結で描く。短編恋愛小説集。
1話完結の短編集。サクッと読みたい方におすすめ。続けて読んでも楽しめます。
落ち込んだ未来を想像した。思い通りの日常なんて手に入らない。 私はいつも、思い通りではない日常を引き寄せる。 「へぇ、二人がねぇ」 周りはみんな驚いたふりをして、私の顔色をうかがっている。三咲と隼人の関係に気が付いたのは、多分、私だけじゃない。隼人の隣には、もう、私の居場所はなかった。 私は、作り笑いをする。私の想いを知るのは、ここの全員だろう。場の雰囲気を読むのは得意なのに、私の顔は引きつったままだった。 「ごめんね…佳央理」 三咲が言った。みんなの視線が私に集
「いつになったら降りてくるんだ」 階段の下から、義兄の声がした。僕は、ろくに返事もせずに奥に進んだ。 ※ 大叔父がなくなってから1か月が過ぎたころ、僕のところに一本の電話が入った。 「母屋を取り壊そうと思っている」 義兄は大叔父とは不仲で、いつも喧嘩が絶えなかった。大叔父が入院した時、老朽化が進んだ祖父の家を取り壊そうとしても、母屋の屋根裏だけは立ち入るなと言われていた。祖父の家を継ぐはずの父は早く亡くなり、養子になった義兄の父も事故でなくなった。まだ幼かった僕と
曲がったことが嫌いで、まっすぐな彼女はいつも一人だった。教室の片隅に、一人ぼっちの彼女は、僕らとは違う世界線にいるように見えた。 声をかけることができない僕は臆病者で、クラスの空気と共に流れていく方を選んだ。 ふと、彼女と目が合う瞬間、僕はどこか苦しくなって、笑い方を忘れてしまう。彼女のまっすぐな瞳は、そんな僕を見透かしているかのようで、思わず目を逸らした。彼女はそんな僕を見下して、また一人、窓の外を見つめていた。 しばらくして、彼女は教室から消えた。隣町に転校し
白い吐息は、美しい。凍える手をポケットにしまい、立ち寄ったカフェには、まだお客はいなかった。 コーヒーを口にする。ブラックコーヒーが飲めるようになったのはいつからか。いつの間にか、嫌いな物も苦手な物も受け入れる。そんな自分になっていた。 手に取った雑誌には、「嫌いな相手は、自分と同じ本性だから」という記事が載っていた。ふと、目に留まる。 私は、我慢しているのに、あの彼女は自由気ままにふるまっている。薄々気が付いていた。私は、彼女のようになりたいのだ。欲しいもの
ここはどこかと見渡せば 光と花びらが僕を包み込む 終わりとはじまりの景色は美しく この世のことは忘れよと神がいった 記憶の破片がこぼれ落ちていく音がした 見えない力に引きずりこまれ 僕は粉々になった もう僕は僕じゃない 終わりの扉が閉まる音がした 粒子に刻まれたのは愛の証か それだけが空を彩っていく 波打つ風はまた何かを飲み込んだ
離れたのは君のせい。 放したのは僕のせい。 僕と君は似た者同士。 笑ったり泣いたり、ほら、もうすぐバスが来る。 「じゃあね」と手を振る君は、晴れ晴れとした顔をして乗り込んだ。 さよならってこんなに辛いものなのか。 僕と君は似た者同士。 バスの窓から遠くを見つめる君の瞳は、きっと涙で濡れている。
追いかけることをしなかった僕は、二人の終わりを予感していた。青信号になった瞬間、目も合わせずに歩きだした君は、もう次に向かって進んでいる。通りすぎていく人達は、ここに一つの別れがあったことなんて知らない。君はもう、戻らない。去るものが振り返らないのは当然の事だ。 そして、今日は、僕が足早に去っていく方になった。前の彼女と比べたわけでもない。寂しさを埋めるために一緒にいたわけでもない。 -ううん、違う。僕は嘘つきだ。 傷が癒えてきたころに、ふと、心が叫んだ。あぁ、僕
花が散る わずかな香りも消えさって 秋風が通りすぎた どっちでもいい 多分、どっちでも 限りある時間と気付いているのに 何に怯えているのだろう また今日も過ぎていく どっちでもいい 多分、どっちでも
ふーっと息を吹きかける。タンポポの綿毛は、空を舞い、ゆっくりと風に乗って飛び立った。これからどんな世界が待ち受けているのだろう。ゆれるタンポポの綿毛は、キラキラと希望に満ちているかのようにも見えた。 「飛鳥、何してるの、行くよ!」 生まれてから17年、ずっと住んでいたこの家と、今日でさよならする。車に荷物を詰め込んだ母は、急かすように何度も私の名前を呼んだ。 「うん、待って。もう少し」 赤い屋根も、少し剥げた壁も、小さな庭も、思い出が沢山ある。家全体を見つめ、私
地面に叩きつけられたその光は、パチパチと音を立てて消えていった。まるで二人の終わりを知らせるかのように、線香花火はあっという間に消えていった。 「これで終わり」 俊太はどんな顔をしているだろうか。いつまでも立ち上がろうとしない彼の顔は、月明かりでよく見えなかった。ちょうどいい。顔を見てしまったら、きっと泣いてしまうかもしれない。 線香花火の火に惹き付けられるように、あの日、私たちは知り合った。会社の先輩に連れられたバーベキューで、取引先の一人として参加していた俊太を
もうすぐあの季節が来る。波が僕の足を濡らしていく。 ーほらほら、迎えに来たよ。 僕は波に吸い込まれるように一歩を踏み出そうとして、立ち止まる。その声は幻聴だと我に返ると、頬を濡らす涙は潮風と同じ味がした。 ー帰らぬ人よ、僕をどうして一人にするの 帰らぬ人よ、僕はどこへ進めばいいの 「綺麗な絵ですね」 振り返ると、ゼミで一緒の江利川風香がいた。 「まさか、こんな賞をもらえるなんて思っていなかったよ」 毎年、学園祭と一緒に開かれる絵画展で僕は賞をとった。
泥だらけになりながら、部屋の奥まで進むと、ぬかるんだ足元に、僕は、思わず尻餅をつきそうになった。 「圭吾!大丈夫か」 その声に腰を低く落としたまま、体勢を整える。智のおかげで、なんとか尻餅を回避できた。 「気を付けろよ」 「あぁ、悪い」 先週、この町に記録的な大雨が降った。川が氾濫しそうだという知らせを聞いた僕は、なんとか命からがら逃げ出した。今は高台にある智の家に身を寄せている。 人が入れるくらいまで水が引いたのは、大雨から丸2日も経ってからだ。アパートを
「何をそんなに焦っているのか」 僕は、事務所を飛び出した透子を呼び止めた。 「そんなことないよ」 透子の言葉を鵜吞みにし、僕は、そのまま彼女を見送った。 「透子が死んだ?」 次の日、僕は透子のマネージャーの電話で目を覚ました。 「嘘だろ?」 マネージャーは、言葉を選ぶように沈黙し、ゆっくりと続けた。 「社長と別れた後、そのまま、飛び降りたみたいです」 あの時、僕は、なんと声をかければよかったのか。いや、内心めんどうだと、僕はそう思っていたのではないか。 才能なん
物作りに興味を持ったのは、小学生の頃だ。15歳も離れた姉が、妊娠をきっかけにハンドメイドを始めた。仕事人間だった姉は、産休中も慌ただしく生活することを選んだ。 「あんたも、もういい年齢なんだから」 姉は、今も母より口うるさい。仕事の愚痴を言えば、食べていくためだと、当たり前のことを言った。今月仕事を辞めた私は、電話口の姉の言葉にうんざりしていた。 「そう言えば、最近は作ってるの?」 話題を変えれば、説教を聞かなくていい。この何気ない一言が、姉を黙らせてしまった。
「春は、出会いの季節だと思う?」 「え?」 「それとも、別れの季節だと思う?」 春子さんは、僕をからかうように言った。職場の窓からは、風とともに桜がゆらゆらと散っていくのが見えた。 「私は、出会いの季節だって思ってる」 春子さんの瞳は、何かを決心したようだった。次の日、春子さんは、職場から姿を消した。 * 「からかわれてただけよ」 春子さんがいなくなって2週間が経った。必死に探し回る僕に、職場の人は皆、呆れたようにそう言った。7つも年下の僕は、春子さんからみたら、き
私を形成するものは、自己犠牲と傲慢な本性。青い時期は、あっという間に過ぎるものよと、笑う義母の笑顔が鼻につく。踏みつけてやろうと、毎晩、私は足踏みをした。 「綺麗なお母さんでよかったね」 そんなことを小さいころからよく言われていた。それは、どういう意味なのだろう。あなたとは違う遺伝子だからと、私は自分を否定されているような気がした。 「優しくありなさい」 父はいつも、決まってそう言った。もちろん、父の言うことが、世間でいう正であることくらい、知っている。私は、言