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ShortStory【私の家に”孤独さん”がやってくる。だから今日もコーヒーカップをふたつ用意したんだ】

※この物語はフィクションです。

”孤独さん”

・・・

「誰の機嫌も損ねませんように。」

そう祈りながら会社のドアを開くのが私の習慣。
朝8時。始業時間は9時からだ。
私は、誰よりも早く到着する。

そして皆が嫌がる仕事は率先して行う。
やらないと責められるのに、やっても褒められもしない。
そんな仕事。
まるで私みたいだもん。
そんな仕事のなすりあいを見たくないから、トイレ掃除、ドリップ珈琲マシーンの清掃、廊下の掃除。

本当は当番制だったはずだけど時間がたっぷりあるものだから
全て私がやってしまう。

私は小さな会社で事務職をしている。
勤めて3年目になる。
私は特技なんてものは無い。
唯一自慢できる事といえば、珈琲を美味しく淹れられるくらいだけど
それも独りで愉しんできた秘密の趣味である。
秘密にしたいわけじゃなくて、一緒に楽しむ人がいないだけなんだけど

うちの会社は年に数回入れ替わりがある。
私は身の丈を弁えているから、代わりなんて沢山いる事は重々知っているのだ。

しかも、私は先月ADHDの診断を受けた。


ケアレスミスが多く、人の2倍も3倍も気を配らないと通常の業務にあたれなかったのだ。
学生時代も人付き合いがうまくいかず、私が変なことをいうものだから
最初は面白がって人が集まるのだが、私というものが解った頃合いで距離を置かれるのである。

だからこそ、私の価値を探した結果、一生懸命仕事をするしかなくなったのだ。特に職場に理解を求めようとは思わなかった。

日常会話すらしていないのに相談できるはずないじゃん。


・・・


この会社・・・小さい癖に人間関係だけは複雑に絡まっている。
”空気”というものを微細に読み取りながら仕事をする。

誰かが不愉快になろうものなら、私はとても息苦しい思いをするのだ。
私のせいじゃないかなって
最早、気を使うことに対しての給与のような気もしてくる。

上司も同僚も断れなさそうな私に仕事を頼んでくる。
私はその”期待”を裏切ることがとても怖い。

「これ納期、明日の朝なんだけど大丈夫?」
おそらくこの仕事は私じゃなくても誰でも出来るやつだ・・・

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