見出し画像

精神科医、患者に殴られる

精神科医に限らず医療従事者の多くは、一度や二度、患者に殴られたことがあると思います。

暴力は決してあってはならないものですが、背景にある原因や理由は実に様々...。

今回は、私が医師になって初めて患者さんに殴られたエピソードをご紹介します。

【精神科医、引き受ける】

精神科医が研修医だった頃は、いわゆる「初期研修制度」が導入される前であった。

このため病院によっては研修医でも一人で当直を任された。

今考えれば、恐ろしいことであるが、当時はそれが当たり前だった。


ある日のこと、精神科医は某精神科病院から、休日の日当直を頼まれた。

”日当直”と言っても、慢性期の精神科病院の場合、大きなトラブルはほとんど起こらない。

入院している患者さんの大半が”社会的入院”と言って、その病院で暮らしているような状態なのだ。

このため精神科病院の日当直はいわゆる”寝当直”と言われ、割とおいしいバイトだった。

連休中の日曜日だったが、特に予定もなかったので、精神科医は日当直を引き受けることにした。

【精神科医、寂しくなる】

土曜日の夕方、精神科医はバイト先の病院に向かった。

実を言うと、精神科医は週1回昼間に、この病院でアルバイトをしていた。

ゆえに「いつも通りのバイト」という感覚で車を病院駐車場に停める。

晩秋の夕方は存外早く暗くなる。「秋の日はつるべ落とし」とはよく言ったものだ。

あたりは既に薄暗く、日中真っ白だった病院の外壁は、夕闇で青白く染まっていた。

建物の窓には鉄格子が取り付けられ、煌々と黄色い明かりが灯されていた。

いつもと違う病院の雰囲気に、精神科医は少したじろいだ。


着替え、歯ブラシ、カップラーメン、おやつを詰め込んだボストンバッグを片手に医局のある2階へ上がる。

ここから先は

2,266字
医師歴20数年の現役医師の経験をご紹介します。

とある精神科医が経験した症例集。 笑あり、悲しみありの、ちょっと不思議な物語。 尚、プライバシー配慮のため、論旨を変えない程度に脚色してお…

記事作成のために、書籍や論文を購入しております。 これからもより良い記事を執筆するために、サポート頂ければ幸いです☺️