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踊りと精神医学: 伝説の奇病"ダンシングマニア"

みなさま、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

皆様はダンス(踊り)は好きですか?

小生はリズム感ゼロなので、盆踊りすら怪しい状態です…(ドラクエの「あやしいおどり」状態ですよ...)。

最近の中学校の体育では「ダンス」が必須科目になっているようですが、もし私の時代に必須化されていたら愧死(きし: 恥ずかしさのあまり死ぬ)に至るのでは…、とすら思います。

「ダンスごときで死ぬだなんて、大袈裟な…」と思う方が多いでしょうが、実は中世では踊り狂い、果ては死に至る病がかつて存在しました。

そして今回は、この踊り死ぬ病「ダンシングマニア」を精神医学の観点から紹介いたします。


【ダンシングマニアとは】

The Dance of Death during the Black Death

ダンシングマニア(dancing mania)とは、ギリシャ語のChoros(dance:踊り)とmania(madness: 狂気)から作られた”choreomania(振付狂気)”が由来であり、別名”踊りペスト"とも呼ばれている。

また、イタリアの”タランティズム(tarantism: タランチュラに咬まれて生じる病)”も同義。

罹患すると脈絡なく踊り出し、錯乱状態となり、最後は疲れは果てて息を引き取るまで踊り続ける者もいた

そしてダンシングマニアは、集団的に発生することが特徴である(伝染病のように周囲に伝播する)。


【ダンシングマニアのはじまり】

最古"のダンシングマニアは、7世紀から8世紀にかけて現在のルクセンブルグの東にあるエヒテルナッハ(Echternach)で起こりました。

イングランド出身の伝道師「聖ウィリブロルド(St. Willibrord)」がエヒテルナッハの街を訪れ、そこでとある病(やまい)を治すという「奇跡」を起こしますが、その病こそダンシングマニアなのです。

真偽は不明ですが、以下がこの奇跡に関する伝承です。

「エヒテルナッハに住んでいたヴェイト(Veit)という若者が妻と巡礼の旅に出ます。彼らが旅で不在の間、あろうことか彼の親戚は勝手にヴェイトの財産を奪ってしまいます。10年後、巡礼の途中で妻を亡くしたヴェイトは、打ちひしがれながらエヒテルナッハに戻ってきます。しかし、財産を返したくない親戚たちは巡礼中に妻を殺したという濡れ衣をヴェイトに着せます絞首台に登らされたヴェイトが「最後にせめて一曲弾かせてくれ」と旅から持ち帰った不思議なヴァイオリンを取り出して広場に集まった観衆に向けて演奏します。するとその美しい曲を聴き、町中の人々は踊りだしました(死刑執行人ですら絞首刑台を降りて踊り始めたそうです)。皆が踊り狂っている間、ヴェイトは逃げ出すことに成功します。町の人々は踊りを止めることができず、丸一年くるくると踊り続けます。そこにやってきた聖ウィリブロルドはヴェイトがかけた呪いを解き、町を救ったのでした…。」

「エヒタナハの踊りの行進」
https://luxembourgbeginner.blog/2022/06/05/エヒタナハの踊りの行進/

そしてこの奇跡にちなみ、現代でもエヒテルナッハの町では、「エヒテルナッハの踊りの行進(Iechternacher Sprangprëssessioun)」が毎年行われ、2010年には世界文化遺産に登録されております(以下、YouTubeリンク)。


【ダンシングマニアの記録】

前述の"最古のダンシングマニア"以外で、記録に残る5件のダンシングマニアについて簡単にまとめました。

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