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芸術と精神医学 (4): ルイス・ウェイン〜"崩壊する猫"は崩壊していない?〜

皆様、こんにちは。鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

突然ですが、下の絵は何に見えますか…?


何の絵でしょうか?

フクロウ🦉?ひまわり🌻?宇宙人👽?


答えは...、なんと「猫」なんです(本記事タイトルを見れば、お察しでしょうが…😅)!

「全然、猫に見えない」とか「そう言えば、そんな風に見える」など、ご意見はさまざまと思いますが、何とも不思議な絵ですよね?

これはいわゆる「アウトサイダー・アート: outsider art」と呼ばれる芸術作品です。

アウトサイダー・アートは西洋美術の"正規の教育"を受けていない人によって制作された作品と定義され、主に精神疾患や障害のある方による芸術です(現在では、独学者、子供の作品などもアウトサイダー・アートに含まれるそうです)。

今回はアウトサイダー・アートの代表とも言える、ルイス・ウェインというイギリスの画家・イラストレーターについて紹介したいと思います。



【ルイス・ウェインとは?】

ルイス・ウェイン(Louis Wain: 1860年ー1939年)

イギリスの画家・イラストレーター。

擬人化された猫を数多く描いた。

晩年、統合失調症を患ったことでも知られている。

図1: ルイス・ウェインと猫

【ルイス・ウェインの生涯と病歴】

1860年 (0歳) イギリスのロンドンにて出生。6人兄妹の長子として誕生。父は織物商で刺繍職人のウィリアム・マシュー・ウェイン(1825-1880)、母はフランス人のジュリー・フェリシテ・ボワトゥ(1833-1910)である。

ルイスは生まれつき口唇口蓋裂があったため、医者は両親に「10歳になるまで学校に行かせたり、教えたりしてはいけない」と告げた。
幼少の頃から繰り返し悪夢を見ていたが、10歳になる前に猩紅熱にかかり、以後悪夢から解放される。

1860年(10歳) オーチャード通り基金学校に通うようになる。

1876年(16歳) セントジョセフアカデミーに通っていたが、学校を休みがちになり、ロンドンを放浪する日々を送った。その後、ウェストロンドン美術学校で学び、短期間ではあるが教師も務めた。

1880年 (20歳) 父親が死去。妹たちを養うようになる。

1881年(21歳)ウェインは教職を辞し、フリーのアーティストとなった。そして、フリーランスの画家として大成功を収めた。動物や田舎の風景を得意としていた。同年彼の作品が「Illustratrated Sporting and Dramatic News」に掲載された。

1883年 (23歳) 姉妹の家庭教師だった10歳年上のエミリー・リチャードソンと結婚。しかし、両家はこの結婚に反対したため、結婚式には家族は出席しなかった。
1886年 (26歳)初めて猫を擬人化した絵「A Kitten's Christmas Party」を『Illustrated London News』誌のクリスマス号に掲載した。乳がんで苦しむ妻エミリーが可愛がっていた猫ピーターにインスパイアされ、猫の絵を描くようになる。

1887年 (27歳) エミリーが乳がんのため死去
彼女の死後、ウェインはうつ状態に陥り、やがて取り憑かれるかのように猫の絵を書き続けた

1900年(40歳) 妹のマリーが精神病院に入院

1907年 (47歳)年にニューヨークに渡り、ハースト社傘下の新聞社に『Cats About Town』や『Grimalkin』などのコミックを描いた。

1913年 (53歳)妹のマリーが死去

1914年(54歳)ロンドンでバスに乗っていた時、道路に落ちて頭部を打撲。意識不明に陥り、2週間入院した

1917年 (57歳) 妹のキャロラインがインフルエンザで死去。ルイスはこの頃より、精神的に不安定になり、人が信用できなくなる。周囲の人間が襲いかかってくる妄想にとりつかれるようになる。

1921年(61歳) この頃からルイスの作風が変わる。カーテン、カーペットなどの背景がパターン化され、猫と一体化しはじめる。

1924年 (64歳)、暴力的な行動をとるようになり、ウェインはトゥーティングにあるスプリングフィールド精神病院の貧困者病棟に収容されることになった。この時ウェインは主治医に、「この6年間、昼夜を問わず霊に襲われていた」と語った。

1925年 (65歳) ラムゼイ・マクドナルド首相の介入で、ロイヤルベスレム病院へ移送(スプリングフィールドの環境が悪いため)。同病院では絵を描く環境が与えられた。

1930年 (70歳) ロンドン北部のナプスベリー病院に移された。

1939年 (78歳) イギリス・ハートフォードシャー州セント・オルバンズのナップスベリー精神衛生病院で死去


【精神医学において、最も有名な絵画】

ルイス・ウェインはキャリアの中で、15万点の猫の絵を描いたとも言われております(正確な数字は不明)。

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元国立大学准教授が、精神医学の観点から芸術を語り尽くします。

魂(精神)と至芸の交錯する点に、表現の極みが顕現する。 人はそれを芸術と呼ぶ! 本マガジンは、精神医学の観点から芸術を語り尽くします。 さ…

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