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登場人物に「死にがい」を用意する 前編:「理由」

 登場人物は死ぬ。それが創作であったとしても、物語の中であったとしても、死とは誰にとっても理不尽なものだ。それそのものが理不尽であり、許容できず、悲しく、できれば回避したいものである。
 しかし登場人物の死は、多くの場合避けられない。なぜならそれが創作である以上、その中の登場人物はその創作のために死ななければならないことがあるからだ。

 だからこそ、せめてその登場人物には「死にがい」が必要である。死にがい。納得のいく死。その登場人物がそこまで生きてきた意味。それは即ち、

・死ぬべき外的な理由
・死ぬべき内的な理由
・死んだ外的な意味
・死んだ内的な意味

 これら4つがあるだろう。

 死ぬべき「理由」とは、その人物が死んだことの納得のできるしかけのことであり、即ち外的なものだ。そしてその人物が死ななければならない道義的な理由としての内的なものもある。
 外的なものは、そのトリック、死因、殺そうとする他の登場人物の感情、動機、死亡時のシチュエーションなど、死んだ登場人物以外の物事すべての内、死ぬことに関わったものを指す。例えば、

ある登場人物が滑って転んだというのなら、例えばその時期は冬であり、前日に雨が降っていて道が凍り、恨みを持つ別の登場人物が気付かれないように背中を押した。

 ……というのが最低限の外的理由となるだろう。
 また内的なものは、死んだ登場人物の感情であったり心理であったり、性格やその物語内でのポジションなど、それ自身の物事全ての内、死ぬことに関わったものを指す。前述の例で言えば、

死んだ登場人物はオシャレ好きで、その日も冬用のブーツではなくお気に入りの革靴を履いてでかけた。前日の飲み会で少し飲みすぎており、二日酔いを覚ますために、近くの薬局へ薬を買いに行くところだった。
また、その飲み会は10年ぶりに仲間たちの集まる同窓会で、死んだ登場人物は当時、とある人物をイジめる主犯格だった。会でもそのことをネタにして盛り上がっていたため、一部の出席者は引いていたが、その中で恨みの眼差しを向ける人物が1人いた。

 このようなところになる。
 死ぬべき理由には外的なものと内的なものが設定されるが、それは必ずしも、ある登場人物の死の瞬間に際して、絶対に全て揃うものではない。少なくともその死の瞬間において、納得感を充分に担保するだけあれば良い。ただし、例えば物語が進むにつれて(犯人が絞られるとか、詳しい子の状況がわかってくるなど)、必要な「理由」は更新されることがある
 死ぬべき理由はその都度、納得感を補強するために開示されなければならない。

 それは死という理不尽で、許容できず、悲しく、できれば回避したいものを可能な限り飲み込みやすくするための、創作上必要な、「死にがい」の1つであると言える。

※このテーマに関する、ご意見・ご感想はなんなりとどうぞ

※後編:「意味」 は後日更新

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