見出し画像

つまらないから面白い。

もともと本は好きなのに、どうしてか大人になると読書にかける時間が削られていってしまう。

でも、やっぱり本は好きなので、少しずつでも、ゆっくりでもいいから、本を読むという習慣をなくさないように心掛けている。

とはいえ、書店に足を運び、じっくり時間をかけてポップを見たり、気になる本を1冊1冊手に取りながら選んだりする余裕までは上手に確保できない私は、いろんな賞や書評を参考にすることが増えた

過去の経験からも、そうじゃないところに「なぜこれが検索しても話題になっていないんだ…!?」と思いたくなうような面白い本があるのも事実なんだけど、「まあ、読書は続けるからさ、ラクさせてくれよ」と自分に言い訳をしている。

そんで、やっぱり話題になっている本はだいたい面白い

近年読んだ本でいえば、『同志少女よ、敵を撃て』『52ヘルツのくじらたち』の2冊が特に面白かった。
厳密にいえば、心が激しく揺さぶられた、かな。

ゲラゲラでも、ワクワクでもなくて、どちらも筋書きだけをなぞれば重たく暗い、陰鬱な雰囲気すらあるんだけど、ページをめくる手が止められなかった。

私にとっての”面白い本”の基準のひとつに、《情景だけじゃなく、香りや音まで感じられるもの》というのがあるのだけど、まさにこれが当てはまったのだ。

他にもここ数年で大きく話題になった本は20冊以上読んだけど、だいたい面白かった。
なかには好みじゃないものや、読みごたえを感じられないものもあったけど、でも人気や話題になっているのはざっくり理解できた。

.

先日、キャンプに本を1冊持って行った。
数か月前に出されたばかりの新刊で、さっそく大きな話題になっていた作品だ。

話自体はとても読みやすく、ページ数もさほど多いわけではないので、2時間程度で読み切れてしまったけれど、その読後感は、ここ数年ほぼ感じていないものだった。

(え、これで終わり?え?結局なんだったの?なにもつかめないまま終わった…?なんだこの話…んん…???)

うっかり間違ってどこか読み飛ばしてはいないかと再確認したほど、私の感覚に触れるものがなにもなかったのだ。

それから本を閉じて、しばらくアウトドア用の椅子に座って、遠くで虫取り網を振り回している子どもを眺めながら、読み終わったばかりの物語のことをゆっくり考えていた。

そして、じわりじわりとこみあげてきたのは、「ぅぉおおお……つまらなかったぁ……」という実感。
とてもシンプルな感想(笑)

そして私は、なんだか楽しいような嬉しいような気持ちになっていた。

全身にめぐっていた「?」が時間とともに徐々にはじけていって、無くなるころには「ああ!めちゃくちゃつまんなかった!!」と言いながら笑っている。

.

最初にも書いたけど、年齢を重ねるにつれ、読書や映画、漫画やアニメでさえ楽しむ時間が減っていって、だからこそなるべく効率よく、無駄なく面白いものを楽しみたいという欲が出てきた

この頃は若い世代を中心に、映像を効率よく楽しむために倍速再生や早送りで観る人も少なくないらしいけど、その気持ちはわからなくもない。ってゆうか正直よくわかる。

私だって、倍速再生は滅多にしないものの、映画を観るにしてもサブスクを利用するし、そうするとレビューはめちゃくちゃ参考にするし、観始めても微妙だったら途中で止めることもある。サブスクの強みだよね。

とにかくハズしたくないのだ。せっかく同じ時間で観るなら、”当たり”が観たい

サブスクが普及する前は、見たい映像は購入するかレンタルするかで、私はしょっちゅうTSUTAYAやゲオに通っては、棚のポップやDVDの裏側にあるあらすじ的な文言からわずかな情報を得て、観たいものを選んでいた。
時にはパッケージの雰囲気だけで選ぶこともあった。

だから、いわゆる”ハズレ”と思える作品もたくさんあった
それでも学生のなけなしのお金でせっかく借りたのだからと、借りたものはとりあえず最後までは観たものだった。
だってなんかもったいないじゃんね。

すると、最初はつまらなそうに思えても、次第にテンポがよくなり、最後に痛快な大どんでん返しが待っていてすっかり飲み込まれてしまう映画に出会うこともある。

途中で観るのを止めていたら気付けない面白さだ。

「最初から最後まで面白いのが最高の映画だ」という人もいるだろうけど、あえて最初は単調でつまらないくらいにコントラストを付けるのも1つの手法だろう。

ってゆうかとやかく言わなくても、最後に「面白かった!」と思えたらそれが答えでいい気がする。

でも、最近ではそういう”思いがけない出会い”は確実に減った。

.

つまらない作品というのは果たしてハズレなのだろうか

「面白い」にいろんな基準があるように、「つまらない」だって個人差がある。

実際、自分が死ぬほど好きな作品を酷評する人もいるし、友人が絶賛していた作品の良さがいまいちわからないことも数えきれないほどある。

でも、たぶんどの作品も素晴らしさがあるはず。
あとはそれを鑑賞した人の感性が、どう反応して、どんな印象を抱くかが作品の感想になるのだ。

だから、「つまらない」「面白さがわからない」「好きじゃない」と思うこともまた1つの感性の認識で、面白い作品を楽しんだ後の満足感は得られないかもしれないけど、たぶんマイナスではないのだろう。

というか、個人的にはとても大事にしたい感覚だ

よく”無駄な努力は無い”とかいうけど、正直できれば無駄とわかっていることは避けたい。
でも、無駄を経ることでしか得られないことがあるのは紛れもなく事実だと思う。

貴重な人生をなるべく好きなものに囲まれて生きたいのはものすごく自然な欲求だ。
それができたなら、ものすごく幸せだろうとも思う。

でも、なかなかそうはいかず、時々面白くないと思うことに出会ってしまう。退屈だ。ストレスだ。

ただ、それを無にしてしまうのか、もしくは自分の感性の幅を広げる材料にしてしまうのかは自分次第

だからたまにタイトルや装丁だけで本を選ぶ。
基本的に出版までこぎつけているのだから何かしら面白さというものはある。

ただそうじゃなかったとしても。

「いっやぁーーー!!!!つっまんなかったーーーーー!!!」とカラっと笑い、その時間すらも楽しかったものに変えられるマインドでいたい。

「プラスになる」とか「ためになる」とかは置いておいて、まずは”出会い”そのものを楽しめるおおらかさが私にはまだまだ必要だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?