見出し画像

地方創生の邪魔となる考え方

私はここ2年で12個の自治体アドバイザーを務めているが、その中でもとても仕事のやりがいがあるのが観光地での商品開発の仕事である。

その場所の特性や周辺の環境を調査し、従来の訪問者の購買動向を調査し、対象となるターゲットの行動特性を見極め、できるだけエビデンスを基に新しい商品開発もしくは既存商品の見直し等を行う。

今回一緒に仕事をしている自治体では非常にしっかりとデータを集めてくれて、とてもいい仕事が進んでいる。


と思ったら、とある出来事があった。

メニューの開発などを進めていたが、その進捗を地元観光協会など市内観光経済界重鎮等が集まる「協議会」に報告をしたところ、『目玉品が無いのではないか』という指摘があったという。


今回開発しているメニューはとある歴史ある街の食文化などを活かした商品が並ぶ。海は近いが漁獲高は多くない(むしろゼロに近い)。果実はふんだんにある。野菜の生産も盛ん(あと、わずかながらの養鶏など)。その中で、考え抜いたものだし、そもそも今回メニューを出すとある施設は

・著名な温泉観光地に挟まれた、歴史ある街(ただし宿泊施設や飲食施設は皆無)。そこで新設する施設でのメニュー。
・さらに、近隣に海鮮でとても著名な漁港・その周辺の飲食店街がある(漁獲高も多く、海鮮目当てのお客様の訪問が多い。)

という条件の場所で、想定しているターゲットも40代から60代の女性客、その温泉地に訪問する人が寄りたくなるスポットとしてメニューを開発している(その施設単体で遠方から客が来るほどのPRを打てるわけでもない)。

そのため、スイーツでのメニュー強化と、ランチにしても健康やその土地の歴史を意識させた野菜中心の内容のものだ。前の晩もしくはその日の晩は著名温泉地で豪華な海鮮料理を食べた・あるいはこれから食べる人が、そもそもおっさんどもが考える「目玉」である肉系や海鮮丼などに引き寄せられるかというとそうではない。海鮮系で勝負をするとなると、前述の漁港周辺のお店のレパートリーの多さに圧倒的に負ける。

地方創生で本当に『邪魔』になるのは、こうした外部の声である。

商品開発を行っていると、そのターゲット選定やペルソナの行動パターンをベースとした「顧客が納得する商品、引き寄せられる商品」の議論をいかに丁寧に行うかがカギであることが身にしみてわかる。地方の一部の人たちが『これを売りたい』『これを目玉にしたい』というのは2次的なものである。観光客が納得する、引き寄せられる商品が必ずしもその地域の特産品であるとは限らない。また、その観光客が1泊2日でどのような行動をとるかということを想像すれば、ディナーならまだしも、2回チャンスがあるランチで2回とも豪勢でボリューミーな食事をするとは考えにくい(しかもこの地域の両側にある観光地はほとんどがリピーターで成り立っている温泉地である)。ではどうするかというと、その想定したターゲットが温泉地に来た際に引き寄せる仕掛けをしっかりと作って、その上で特産品を『その観光客などが興味を持って食べてくれるような形』にリ・デザインして提供する方が良い。そうでないとビジネスが成り立たない。他の観光地でしっかりとお客様に満足度の高い食事やお土産物を提供して人気となっているところは必ずそういったリ・デザイン、もしくは商品開発を経ている。例えばワサビ漬けで有名な田丸屋のワサビ―ズなどがそれだ。

https://www.instagram.com/tamaruya_beads/

協議会の方々は、そういった丁寧なマーケットリサーチやターゲットの特性等を紹介しても、聞いていない。理解しない。なので、周辺地域と似通って全く個性的でない『目玉』を要求する。

あるいは、生産体制も供給体制も貧弱になってしまい、多くの観光客を満足させられないものを『目玉』にしようとしてしまう。この地区でもわずかながらとある魚などがあるが、おそらく1日5食も出せない。そういったものを『目玉』にしても、お客様は定着しない。珍しいもの、ボリュームのあるもの、肉や海鮮丼のように分かりやすいものを『目玉』にする時代は終わった。ビジネスにするなら、ターゲットの行動パターンをしっかりと把握して(あるいは想定して)そのニーズに応えるものを来場者予測数に従って十分な数をそろえ、かつその提供オペレーションを無駄なくし、食品ロスも生まないような体制を構築するのが肝要だ。

観光地で商品開発を行うのであれば
◎その土地で買って食べていただける、という必然性
◎ターゲットがその土地を訪れる理由との整合性
◎周辺競合都市での行動を見据えてご当地でどのようなものが要望されるか
(前の日の晩の食事、他に訪問するであろう観光地、買い物傾向等々)
◎そのターゲットが全く他のエリアに観光に行ったときに目にしているであろう似たような商品との差別化
◎一方で、地域の人も来る施設なので、地域の人にも親しみを持ってもらえる売り場づくりとMD、食堂ならメニュー構成
◎当然、収益が出るような計画(≒ロスを防ぐ、館内オペレーションの簡素化による人件費抑制のための仕組みづくり含む)

このくらいの視点が必要なのである。それをすっ飛ばして『目玉品が欲しい』というのであれば、当該地域に大規模な牧場か漁港新設するかくらいが必要。そんなことは不可能だ。

先に◎を挙げた視点を持つ重鎮が地域にいないといるでは大きく違う。無いのであれば、せめて、邪魔や意味のない意見出しなどはしないでいただきたい。

この記事が参加している募集

マーケティングの仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?