かしわ丸

文系学生。文学・古典の記事です。スキ・フォローありがとうございます(^^)

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最近の記事

佐竹本三十六歌仙絵巻をめぐるドラマ

「佐竹本三十六歌仙絵巻」をご存じでしょうか。 三十六歌仙+住吉大明神の風景の、全37図が載る絵巻で、鎌倉時代に製作されたものです。 久保田藩(秋田)の大名家であった佐竹家に伝わっていたことから、「佐竹本」と呼ばれます。 もともとは1つの絵巻でしたが、現在は絵ごとに分断されて、「歌仙絵」としてバラバラになり、各所有者の元で保管されています。 なぜ立派な絵巻物がバラバラにされてしまったのでしょうか。 このnoteでは、歌仙絵の流行と、「佐竹本三十六歌仙絵巻」をめぐる事件につい

    • 紫式部の日記と歌集

      2024年度の大河ドラマは「光る君へ」。 珍しく舞台が平安時代、しかも主人公が紫式部というビッグネーム。 紫式部といえば、第一に挙がるのは『源氏物語』だと思いますが、この他にも、『紫式部日記』と『紫式部集』が残されています。 『―日記』と『―集』は、フィクションの『源氏―』と違って、紫式部自身の記録ですから、ドラマでも素材として使われそうです。 注釈書の間で解釈が揺れている部分が、どうなるのかも気になります。 さて、『―日記』と『―集』は、全く別の作品ですが、『―集』の

      • ChatGPTに文学の論文は書けるか

        この時期、図書館で卒業論文などに取り組んでいる学生が多いですね。閉館時間ギリギリまで粘って頑張っている人も見かけます。 レポート課題の場合、「◯◯について書きなさい」と決まっていることが多いのですが、論文は一から自分で考えないといけないので、これが結構大変です。 ところで、こんなツイートがバズっているのを見かけました。 chatGPT(https://chat.openai.com/)で、論文のアイデアや構成を練る。 えっ、そんなこと出来るの? 出来るなら、ちょっとは作

        • 白居易のきつね:『任氏伝』

          白居易の名作と言えば、「長恨歌」。 漢の王と楊家の娘(玄宗と楊貴妃)の、悲劇的な愛のストーリーが描かれる歌行です。 白居易がこの漢詩を制作したのは35歳の時と言われていますが、これよりも前に、きつねで有名な歌行を詠んでいたのはご存知でしょうか。『任氏行』という歌行(「⚪︎⚪︎行」という題の漢詩)です。 『任氏行』は『白氏文集』に収録されず、『千載佳句』と『錦繍万花谷』に句がまばらに引かれて残るのみ。 しかし、その元ネタとなった、沈既済の『任氏伝』は伝存しています。今回は

        佐竹本三十六歌仙絵巻をめぐるドラマ

          【大学生向け】和歌の発表資料の作り方

          大学の授業で初めて「和歌を調べる」ということをやりました。 これが高校の宿題なら、図書館で現代語訳が載っている本を探して、ただ現代語訳を写せば良かったかもしれませんが、大学レベルとなるとそうはいきません。 今回は筆者が感じた高校と大学の「調べる」の違いと、授業で学んだ和歌の発表資料の作り方(何を調べればいいのか)をご紹介します。 高校と大学の「調べる」の違い調べてこいという課題が、高校と大学とでどう違うのか。 一つは、そもそも「まだ現代語訳がされていない、活字化されてい

          【大学生向け】和歌の発表資料の作り方

          古本の表紙の名称

          古典籍の表紙の色・模様(文様)は、茶道で使われる布(裂)の柄の用語で表します。 高級な本や出自が良い本は、本の表紙が布製の場合が多く、その時は「金襴表紙」や「緞子表紙」と織り方の種類も書くことがあります。 このnoteではよく見る色・文様の名称をまとめました。 よくある色表紙の色は先頭に「○○色地」と記す 読本の流行以降(江戸後期)の刊本は、縹色(が褪せた)表紙が多い 丹表紙は室町~江戸前期の本に見られるが改装も多いので注意 萌黄色は明るい黄緑だが、退色した状態で

          古本の表紙の名称

          『古今和歌集』の主な古注釈

          『古今和歌集』の古注釈を一覧するには、新日本古典文学大系『古今和歌集』付録の「古今和歌集注釈書目録」が便利です。 しかし、江戸時代までに出ているだけでも196作品あって気絶しそうだったので、中でも有名どころのものをピックアップしました。 活字・翻刻を探す時の地図程度には役立つと思います。 目次が一覧となっています。 系統の略号:【六】六条家、【御】御子左家、【二】二条家、【反】反御子左派、【顕】為顕流、【隆】家隆流、【冷】冷泉為相流、【常】常光院流 藤原仲実『綺語抄』

          『古今和歌集』の主な古注釈

          『論語』注釈の歴史@中国

          『論語』は、儒教の基本経典で、中国・春秋時代(500 B.C.頃)の学者・思想家だった孔子と、その弟子たちの言葉や問答をまとめた本です。 国語の教科書でもおなじみですね。 儒教について詳しく知りたいときは、こちらのサイトが分かりやすいです。 【儒教とは】その教え・朱子学との関係・日本での影響を解説リベラルアーツガイド 日本人は昔から『論語』に馴染み深いですが、平安・鎌倉時代の人々が読んだ『論語』テキストはどのような本文だったのでしょうか? 今回は、中国における『論語』注

          『論語』注釈の歴史@中国

          【万葉集】仙覚校訂本の主要伝本

          『万葉集』の本文は全て漢字(万葉仮名)で書かれていますね。実は平安時代には、もうこの文字はほとんどの人が読めなくなっていました。 オリジナルの漢字だけでは歌が楽しめない。そこで、『万葉集』の写本には、必ず読み仮名(訓と呼ぶ)が書かれるようになりました。 『万葉集』の伝本系譜には、この訓が大きく関わっています。 漢字に訓を付す作業は、梨壺の五人の時代から行われていましたが、すべての字に訓が付けられたのは、仙覚の時です。 仙覚は鎌倉時代の天台僧で、万葉集の研究者。数種類存在

          【万葉集】仙覚校訂本の主要伝本

          御伽草子と奈良絵本

          子供のころに、「浦島太郎」や「一寸法師」などの昔話と出会った人は多いでしょう。この2つの原作は、「御伽草子」に遡ります。 「御伽草子」は、室町時代~江戸時代初期に成立した短編の物語作品のジャンルの総称。 子供でも楽しめるような平易な文章と、単純な筋書きが特徴で、400以上の作品が存在したと言われています。 続いて「奈良絵本」は、御伽草子の伝本によく見られる、彩色絵入りの写本のこと。 こうした写本が「奈良絵本」と呼ばれるようになるのは明治時代からで、奈良時代の絵本というわけ

          御伽草子と奈良絵本

          平安時代の信仰について分かりやすく

          平安時代の人々の宗教的習慣というと、「病気は物の怪のせい」「方違えで仕事を休む」「老後は出家」「豊穣を神に祈る」という慣習的なものから、「最澄が天台宗、空海が真言宗を開いた」「伊勢神宮に斎宮を奉仕させた」という歴史的なことまで色々と思い浮かびます。 しかしこれらは、単一の信仰から来るものではありません。 物の怪の調伏や方違えは陰陽道、出家するのは仏教、新嘗祭や斎宮制度は神祇信仰(神道)の影響ですから、色んなものがごっちゃになっています。 今回はその中でも「仏教」について見

          平安時代の信仰について分かりやすく

          『白氏文集』の成立と問題:どの本を読めばいい?

          『枕草子』の「雪のいと高う降りたるを…」の話は、白居易の詩の一節 「香炉峰の雪は簾を撥げて看る」を元ネタにしていることで有名です。 『源氏物語』にも、白居易の「長恨歌」の詩を元ネタとする文がいくつも見られます。 こういうのは、発信する側も受け取る側もこの詩の知識があるからこそ面白いわけで… 今でも、漫画やアニメの名言を日常会話の中でネタとして言うことってありますよね。 「諦めたらそこで試合終了」とか、「計画通り」とか。こういうのは互いにネタ元を知っているからウケる。 平

          『白氏文集』の成立と問題:どの本を読めばいい?

          本刷る家康:華やかな古活字版

          『どうする家康』が絶賛放送中ですね(でした)。 天下統一で名高い徳川家康ですが、本好きの読書家、さらに古典を集め、出版にも関わったのはご存知でしょうか。 今回は、前回のnoteの続きで、日本の活字印刷が盛行した江戸初期あたりの出版事情を見ていきます。 前編はこちら。 活字が来た!2方向から江戸時代に入る直前、ヨーロッパと朝鮮の2方向から「活字印刷」の技術がもたらされました。 「活字印刷」は、いわゆる「活版印刷」のことで、1文字ずつ文字が彫られた小さな「活字」を並べて組

          本刷る家康:華やかな古活字版

          日本出版の萌芽:印刷はお寺におまかせを

          2000年から20年で、本屋の数は半減※。子どもの頃よく足を運んだ身としてはちょっと寂しい気持ちです。 そもそも「本屋」はいつからあるのでしょうか? 商業的な本屋が登場するのは、江戸時代からです。(古本を売り歩く人がいたという記録は中世からありますが。) それまでの本は、今で言うところの受注生産。 僧の勉学のために寺院が作ったり、偉い人の注文で作られる限定品で、現代のように本屋が販売しているのを買うスタイルではありませんでした。 ここでいう”本”には、写本と刊本(印刷

          日本出版の萌芽:印刷はお寺におまかせを

          「春はあけぼの」がない?:『枕草子』の伝本

          我々が今日目にする『枕草子』の本文は、「三巻本〈一類本〉」のテキストがほとんどです。 しかしこの一類本、「春はあけぼの~」を含む初段〜75段が欠けているんです!ご存知でしたか? じゃあどうして今でも「春はあけぼの」の段が読めるのかというと、その部分は他の伝本で補っているから。 古典作品は、伝本によって本文に欠脱があったり、異同があったりします。 古典全集や注釈書では、底本にひとつ伝本を定めながら、他の本から補完することも多いのです。 さてこのnoteでは、『枕草子』伝本

          「春はあけぼの」がない?:『枕草子』の伝本

          どうして今日でも古典が読めるのか?:「伝本」と「本文系統」

          学校の教科書ではじめて出会うであろう古文。 その本文が平安時代に書かれたのはいいとして、オリジナルの原本が現代にひとつも残っていないのはご存知でしょうか? 現代の我々が古典作品を読めるのは、原本の”写し”、すなわち「伝本」が伝わっているから。 教科書や全集に載っている本文は、現代に残っている伝本のうちの一つを活字化したものなのです。 筆者はこの事実を、大学の授業で初めて知りました。しかもちゃんとその意味と重要性を理解したのは4年生の時でした。(もっと早く分かっておけば良か

          どうして今日でも古典が読めるのか?:「伝本」と「本文系統」