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海・一億年

海岸を歩く。
岩に波がぶつかり、辺りに反響する。
僕は歩く。
君もまた歩く。
空は灰色の雲に覆われて、なお果てしない。
岸の突端に立って叫んでみる。
声は海中に遍く染み込む。
大海原は尽きることなく。
まるで時間のように、宇宙よりも古く。
それは限りなく古く。
人の国や文明なんか比べ物にならないくらい、
ずっと昔から、ずっとずっと昔から、
波の音は変わらず木霊している。
昔、まだ大陸が今のような形でなかった時も、
何万年も、何億年も、それはもう遥か遠い時代から、
人の一生の百年や、人の国の何百年や、何千年よりも、
ずっとゆったりとした、寛大さすら感じさせる間隔で。
まだ地球が、岩とマグマと二酸化炭素の塊だった時、
地のおもてを覆う水蒸気が冷やされ、雨が降り、
千年間洪水が続き、やがてそれはできた。
海の子らは海で育ち、海で栄え、何度か滅びを繰り返した後、
彼らはようやくその胎内から出て。

一億年

この長い十年を、十回繰り返せば百年。
十年が十回分の百年をまた十回繰り返せば千年。
十年が十回分の百年の十回分の千年をまた十回繰り返せば一万年。
一万年を十回繰り返せば十万年、十万年を十回繰り返せば百万年。
百万年を十回繰り返せば一千万年、一千万年の十回分が一億年。
十年の十回分の百年の十回分の千年の十回分の一万年の十回分の十万年の
十回分の百万年の十回分の一千万年の十回分の一億年を四十六回繰り返すほどの昔、一兆六千七百九十億日前、宇宙を飛び交う天体がぶつかり合って、岩とマグマと二酸化炭素の小さな球体が出来上がった。
十年の十回分の百年の十回分の千年の十回分の一万年の十回分の十万年の
十回分の百万年の十回分の一千万年の十回分の一億年を百三十八回繰り返すほどの昔、五兆四百三億四千六百五十万日前、小さな一点が急激に膨張し、熱を放出し、真空エネルギーが熱エネルギーを発し、摂氏千兆度の火の玉が出来上がった。
八那由多七百七十七阿僧祇三百十恒河沙五千六百十極八千ニ載三千正プランク時間前。

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