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『anone』レビュー集

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『anone』の全話レビューをまとめました。
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誰かを想う嘘、その数々で迎える大団円。切ない、悲しい、愛おしいの嵐に涙が止まりませんでした(「anone」最終話レビュー)

誰かを想う嘘、その数々で迎える大団円。切ない、悲しい、愛おしいの嵐に涙が止まりませんでした(「anone」最終話レビュー)

どんなに話が複雑でも、どんなに変わった展開で進めても、最後は人と人との心の通じ合いが全てのテーマだった。亜乃音(田中裕子)とハリカ(広瀬すず)、ハリカと彦星(清水隼也)、るい子(小林聡美)と持本(阿部サダヲ)、亜乃音と玲(江口のりこ)、そして中世古(瑛太)と陽人(守永伊吹)。偽札の表出によってバラバラになってしまった登場人物たち、がそれぞれのやり方で再び心を通わせていく。それと共に物語の中心である

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様々な感情が強く強く湧き上がる名シーンの数々に、ただただ胸を締め付けられる (「anone」第9話レビュー)

様々な感情が強く強く湧き上がる名シーンの数々に、ただただ胸を締め付けられる (「anone」第9話レビュー)

胸が締め付けられるように苦しくなる第9話。切なさ、悲しさ、様々な感情が強く強く湧き上がる名シーンと呼ぶべき数々の合間に、最終話への重要な布石が差し込まれる。最後の伏線の回収と結末に導く道筋が一瞬見え隠れするが、すっかり心を感情に支配されながら見てしまうこちらは、その布石に理性的に対応できない。

前回、第8話では映像には映し出されないながらも香澄(藤井武美)の心が潰れる音を聞いた。第9話、まず冒頭

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今期120%外さないドラマ「anone」が第1話で貫いたトーンの不整合性にみぞみぞしまくっている

今期120%外さないドラマ「anone」が第1話で貫いたトーンの不整合性にみぞみぞしまくっている

今期120%外さないドラマ、「anone」。それは既に名作となることだけは前提、と断言するテレビドラマファンは私のみではないはずだが、第1話、その予想を裏切らなかった安心感よりもとんでもないものを見せられたという混乱が頭を渦巻いている。

親のいない少女、拾う中年女性。「mother」「Woman」の制作陣。これだけである程度の前評判が得られるという判断ももちろん分かるのだが、予告は虚ろな目をした

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ドラマ的記憶が疼く「anone」第2話。主軸がぼんやりと見えてきた一方で脇役はさらにトリッキーに

ドラマ的記憶が疼く「anone」第2話。主軸がぼんやりと見えてきた一方で脇役はさらにトリッキーに

第一話で心に残ったシーン。

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持元さん、前から思ってたんですけどフリスク、ちょうど一個出せないんですか。
この世に生まれてきて、フリスクちょうど1個出すことさえできてません。
もう一回やってみてください。ちょうど1個出たら、私死ぬのやめてみます。

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結局、出てくるフリスクは2個でした。
明日の天気、今日の占い、パンツは赤、

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見る者が裏切られ続けるストイックすぎる展開に私たちはついていけるのか選手権(「anone」第4話レビュー)

見る者が裏切られ続けるストイックすぎる展開に私たちはついていけるのか選手権(「anone」第4話レビュー)

何とテロップまで入ったダイジェスト映像から始まった第4話。オトナの事情にて差し込まれたと考えるべきか、そうだったとしてもしなかったとしても、これまでの異様な展開からいって「今度はそうきたか」と思ってしまった私だが、果たしてこの作品に洗脳されすぎているのだろうか。

第3話での西海の衝撃的な自殺を打ち消すように、今回はるい子(小林聡美)、亜乃音(田中裕子)のそれぞれの物悲しさが至極丁寧に描かれている

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テレビドラマ見て初めて泣き笑いさせられた(「anone」第3話、単体での芸術性について)

テレビドラマ見て初めて泣き笑いさせられた(「anone」第3話、単体での芸術性について)

「anone」第3話はもう、これ単体で芸術作品としてまとめても良いような気がする。

テレビドラマというものは第1話から始まって最終話で終わる。その全てで一つの作品となるわけで、もちろんこの「anone」もそのルールに則っているのだが、何かもう、そういうのはいいからこの第3話は単体で芸術だった。本当に一つの作品としてえげつなかった。

まず私は、今までテレビドラマを見ながら一度もしたことがない変な

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坂元裕二の真骨頂、何気ない会話の味わいを深く深くかみしめる(「anone」第5話レビュー)

坂元裕二の真骨頂、何気ない会話の味わいを深く深くかみしめる(「anone」第5話レビュー)

第4話は登場人物それぞれの報われない現実が淡々と語られる悲しい回だった。第5話はそれを取り戻すような明るさを持つ。家族との関係を断ち切られた亜乃音(田中裕子)、るい子(小林聡美)、ハリカ(広瀬すず)、そして誰も気づかぬ間にるい子に思いを寄せていた持本(阿部サダヲ)による疑似家族が生まれた。人を泣かせるより笑わせる方が難しい、とはよく言われるが、さりげないところに吹き出してしまうような仕掛けを散りば

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多量の新展開と伏線、そして本話内での鮮やかな回収、という完成度の高さ(「anone」第6話レビュー)

多量の新展開と伏線、そして本話内での鮮やかな回収、という完成度の高さ(「anone」第6話レビュー)

じわじわと、ぞわっとするような新展開、第6話。

物語の折り返し地点として、テレビドラマの第6話辺りからは新たな展開とクライマックスに向けた準備が進められる。第5話にて温かな疑似家族をたっぷり描いた「anone」に関しても、第6話で偽札をめぐる新展開が待っているのは予想できていた、はずだった。

が、見事に第1話を見ている時と同じような混乱がこちらを襲う。第5話までほぼ伏線さえもなかった話が次々と

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心が壊れるか壊れないか、が何よりもスリリングと感じさせる心情描写の精緻さ(「anone」第7話レビュー)

心が壊れるか壊れないか、が何よりもスリリングと感じさせる心情描写の精緻さ(「anone」第7話レビュー)

次々と繰り出される新展開と、重たい過去を視聴者に振りかけた第6話と打って変わって、淡々とした静かな緊張感が全体に張り詰めた第7話。

第5話で描かれた疑似家族のあたたかさに暗い影が忍び寄るティザーが第6話だったとすれば、第7話はその影に侵されながら何が守られて何が捨てられるのか、じっと息を殺して彼らを見守るような気持ちで過ごした。(このドラマに関して、各話の初見ではいつも「観る」ではなく「過ごす」

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「好き」を言わない告白の瑞々しさと、高笑いのリアリティ (「anone」第8話レビュー)

「好き」を言わない告白の瑞々しさと、高笑いのリアリティ (「anone」第8話レビュー)

様々な「二人の関係性」に焦点を当てた第8話。中心には「ハリカと彦星」「持本とるり子」「亜乃音と玲」、その外側に「彦星と香澄」「亜乃音と花房」。特に前半三組にはかなりの尺を使っていたのが印象的。それぞれの関係性に大小様々な動きがあり、それらがいよいよストーリーの最後の歯車を回転させ加速させていく、最終章に向けた序曲のような回だった。

何よりもまず、ハリカと彦星の電話シーンについて語らずにはいられな

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