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短編小説

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#眠れない夜に

小説:天体観測

小説:天体観測

 実家の最寄り駅から300メートル離れたフミキリを電車が通るたび帰ってきたなと実感するのだ。それと同時にキミも変えてくることはあるのだろうかと毎年考えずにはいられない。電車を降りると、青い空には大きな入道雲が我が物顔で居座っていた。

 家に着くと、奥の部屋から父の声が聞こえる。

「大学のほうはどうだ?」

 一緒に大勢の笑い声も聞こえてきた。おそらく父はテレビを見ている。

「まぁ、ぼちぼちか

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小説:シンデレラボーイ

小説:シンデレラボーイ

 「かわいそう」の指標はエンゲル係数の高さで定めるべきである。それ以外の評価軸を持つ者はすべて偽善者であり、裁かれなければならない存在である。それなのに、人々はその事実から目を背け、猫だの犬だのの、ダニを運び、生態系を破壊する畜生をかわいそうだのなんだのと保護をする。それは正義ではなく、ただのマスターベーションなのである。考える余裕と配るお金があるのに、思考を放棄し欲望のまま自己顕示欲を得る悪行な

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小説:眠れない夜、君を思ふ

小説:眠れない夜、君を思ふ

 草木も眠る丑三つ時。常夜灯もつけていないのに、部屋の内装がよくわかる。それは窓から差し込む月明かりのせいか、それともこの暗闇で一時間思想にふけってしまったからだろうか。とにもかくにも眠れないのである

 それにしてもこの4畳半の部屋は悲惨だ。机の上に目を移すと、夕食の汁がへばりついた皿が重なり、狭いこたつ机を我が物顔で占領している。そして、余ったスペースにちょこんと申し訳なさそうに転がっているの

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