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(もしもAIが村上春樹風に超短編小説を書いたら)ゴドーを探したら【八〇〇文字の短編小説 #25】
僕が十九歳になったばかりの夏の話だ。夜の十一時か十二時か、とにかく暗闇のなか、僕はイタリアンレストランでのアルバイトを終えて家賃六万円のアパートに帰る途中だった。
向かいから歩いてきた女性が突然、「黒いチワワを見かけませんでしたか?」と訊いてきた。僕が「見てませんね」と答えると、その女性は「一緒に探してもらえませんか?」と言ってきた。僕はそうすべきだとすぐに思った。今振り返ると不思議だけれど。
二時間か三時間か、僕らは夜の住宅街を回った。チワワは見当たらず、その女性は途中で愛犬はゴドーという名前だと言った。
結局、ゴドーは見つからず、彼女は「一緒に探してくれてありがとう。お礼をするわ」と言った。それなりに高そうなマンションに招かれ、ワインを飲んで、僕たちはそういう関係を持った。僕はそうすべきだと平然と思った。今振り返ると当然ではないのだけれど。
その後、僕たちは何度か寝た。昼間のときも明け方のときもあった。けれども、恋人同士にはならず、お互いのことはほとんど話さなかった。彼女は終わったあと一度だけ「わたしは風俗嬢だから」とつぶやいた。僕にとってはどうでもいい話だった。僕は彼女の右手から煙草を奪い、思い切り煙を吸い込んだ。
彼女の部屋にはペパーミントのような緑のソファが置いてあった。「スウェーデン製よ」と彼女は言った。座り心地は悪くなかった。真夏の夜、ソファの上で汗をかいたあと、彼女は「ゴドーはどこへ行ったのかしら」と漏らした。
そしてある日、突然彼女は去ってしまった。イタリアンレストランでのアルバイトに行く途中、彼女の部屋を訪れると、鍵は開いたままだった。ドアを開け、いつものように足を踏み入れた僕が目にしたのはペパーミントグリーンのソファーだけだった。
ずいぶんと昔の話だし、彼女のことはほとんど覚えていない。僕はときどき、彼女の左の肩甲骨に子犬の目のように二つ並んでいたほくろを思い出す。
もしもAIが若いころの村上春樹風に超短編小説を書いたら、という意識で仕上げた作品です。
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