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梅雨に読む物語〜『雨音は、過去からの手紙』(マイナビ出版ファン文庫)販促・1


時節柄にあわせまして、今回は初著書となる『雨音は、過去からの手紙』(マイナビ出版ファン文庫)の販促をいたしたいと思います。
以下より試し読みOK。


別回で書きました『世界の端から、歩き出す』(ポプラ文庫ピュアフル)と同じく、こちらも「小説家になろう」のサイトに掲載していました(出版社からの要請により削除済です)。
この作品を編集者の方が見つけてくださり、「ぜひ書籍化を」とお声がけいただいたのがすべての始まり。


そりゃもう驚きました。
だって、拾い上げによる「なろうの書籍化」と言ったら、「ポイントが万単位」が基本です(読者のブックマーク数や評価点数によりポイントは決まります)。

それがその当時、この作品のポイントはなんとびっくり、「79点」。
ケタ間違ってませんよ。事実です。

ブックマークが1件につき2点で、20件ありましたので40点。
残りは評価点数で、満点は10点。4名の方が評価をしてくれていて、3名が10点、1名が9点、これで計79点。

当時、書籍についた帯には以下の文句が。
「小説家になろう 人気小説!」


……もう本当に何とも身の縮む思いと申しますか、JAROが何か言いたげにこちらを見ているレベルでございます。
読んでくださった方には人気だったということで手打ちにしていただきたく。

ただ弁解いたしますと、自分で書いたものながら、この作品は出来がいい、と言うと語弊があるのか、どう言いますか、流れがきっちりしていると言うか分量の中でのバランスが良いと言うか。
大体12万文字くらいあるのかな、その中で起承転結がぴっちりとかたちよくおさまっている、と自負しています。


この作品、もともとのタイトルは『雨に似たひと』でした。
冒頭も、雨についての語りから始まります。

 彼女に初めて逢った日は、小糠雨(こぬかあめ)の降る六月始めのことだった。
 そのせいか、彼女に対しては水のイメージがある。
 音すらなく、頬にあたることさえ判らない、霧のような細かな雨が一面を満たすように降っている、誰もいないしずかな灰色の世界。
 彼女の家にいると、自然にそんな場面が頭に浮かんだ。


ソーイングのハンドメイド作家である主人公は、とあるきっかけで怪我で入院した老婦人と知り合います。
彼女には若い頃、無二の親友と共に現代アートの新人作家として世間にもてはやされた過去がありました。
ふたりがつくった作品を、主人公は子供の頃に見ていたのです。
そして大人になって、雨の日の洋館でその作品に再開したシーンがこちら。

 それは、台座を含めて高さ七十センチくらいの、上に球体の持ち手のついた大きなドームガラスの中に入ったオブジェだった。
 下から上まで、青みがかった銀の枝がからまるように伸びていて――枝の間に、きらきら光るネジや歯車、透明な水晶、青や黄色に透ける鉱石、幾つもの小さな真鍮色の鐘、そんなものが一杯に、ガラスの内側にいくつもの筋を描いて吹き付けられた砂を透かして、子供の夢のように詰め込まれている。
 近づくごとにそこここがちら、と光を放っては消え――ああ、まるで吸い込まれてしまいそうだ。
 (中略)
 少し頭を傾けて黒い木製の台座を見ると、そこにわずかに緑がかった銅の板がはめ込まれていた。
『 夜を測る鐘 By 音の窓 』
 (中略)
 指を伸ばして、ゆっくり、そうっと、きりきりとぜんまいを巻く。
 こくり、と唾を飲み込んで、指を離した。
 ジー、とかすかな音が奥の方にして――唐突に、カーン、と澄んだ音が幾つも立て続けに鳴りだす。
 わたしは息を止め、目の前の光景を見つめた。
 枝の間に吊るされた、複数の鐘がふるん、と揺れる度にその甲高い音を響かせ――それが落ち着いたと思うと、枝の芯がぼうっと光って、台座の中からオルゴールの音が鳴り出した。
 (中略)
 単純なのに胸に沁み入る、こころの一番奥底を痛い程切なくさせる哀しみと美しさを秘めたその旋律は、まさに、完璧だった――いや、正確に言うと違う、このオブジェとこのメロディ、そのふたつが合わさっての「完璧」だった。
 音のひとつひとつが銀の枝の間にきらめく星のようで、その姿を一度目にしてしまうと、音だけでも、オブジェだけでも、不完全な気がした。お互いがお互いに呼応しあい、美しい宇宙をそこに現出させていた。
 魂を抜かれたように見とれていると、だんだんと音がゆっくりになっていき、やがてかちりと止まった。
 ――しいん、と部屋が静まり返り、一瞬後に耳にさーっと雨の音が戻ってくる。


美しいオブジェを制作していた彼女が何故、輝かしい場所から身を引いたのか。
その過去の謎を深く知ることで、主人公は現在の自分が抱えた問題と向かい合うこととなります。


梅雨空で部屋にこもりがちな休日、いい香りのする紅茶を傍に置いてお読みいただければこの上なく嬉しく思います。
その際にはこんなお紅茶などいかがでしょう。


ちなみにAmazonにてKindle Unlimitedをご利用の方は、なんと無料で読めちゃいます。
時間をもてあましがちな梅雨の慰みにお連れください。


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