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自分はきっと、書くひとになる〜余談・「天職」について


あらかじめ申しておきますと、この記事、昨日の続きにはしてますが、「書くこと」については全然書いてない、別の仕事の話です。
なのでそれを求めてこられた方は、この先を読まれるとちょっと損した気持ちになっちゃうかも。ご了承の上、以下に進まれるかどうかご判断ください(トップ画像にはおのこうじ氏の写真を使わせていただいております。多謝)。


さて上の記事に書いたように、自分は昔からずっと、「いつになるかは判らないけど、自分は必ずものを書くひとになる」と思ってました。
それを仕事にする、と。


最初の就職は何度か書いた通りホテルでした。
この記事で書いたホテルです。


でもこんな思想を持ってた人間なので、全然深く考えないで決めた就職でした。
受けた理由はもう本当に申し訳なくなる程しょうもなくって、「ホテルのメイドさんっていいよなあ」くらいの、まさに幼稚園児的レベルな気持ち。後は、「家から近いぞ」程度。

そしたらあっさり通ったので「じゃいいか」と他を全然当たらず即決。
就職してから、「ホテルの清掃は外部の業者さんがやるもので、ホテルの社員はやらない」と知って衝撃を受けたくらいです(笑)。


ちょっと話は脱線しますが、ホテル、それも宿泊を希望してくる新卒って、殆どが「フロント希望」で、次がベルなんだそうで。
後になって、自分の面接にもいた直属上司に「10年近くこの仕事やってて『客室希望』で来たヤツを初めて見た」と聞かされました。

当時そのホテルの客室係は男性のみだったのですが(結構な体力仕事なので)、たまたま「今年から女性も入れよう」と上の方針が変わったのだそうです。
この為、自分が「客室希望です」と言った瞬間に「ハイこのヒト採用」と決定したのだとか。
我ながら強運です。


閑話休題。


根底にあんな発想を持ってる人間なので、仕事は実のところ何でも良かったのです。
衣食住をまかなえるだけの稼ぎがあって、自分の心身的能力でこなせる内容なら何でも。
そんな適当な気持ちで始めた仕事でしたが、始めてすぐに、気がついた。


わたしこの仕事、好きだ。


そうか、これが「天職」というものか、と目が開かれる思いがしました。


「天職」というのは、「天から授けられた仕事」です。
自分の意思や自分の選択、自分の努力を超えたもの。
まだ何も始めていない時点で、人が自身に思い込んでいる「向き不向き」を超えた、上の方からぽんと降ってくる、それがあつらえたように自分の魂に合う、そんな仕事。


もう実に何とも、ホテルの、それも客室という仕事は自分に合っていました。
その気持ちは、2作目『世界の端から、歩き出す』にて、主人公の初就職をホテルにさせた、その際の心情にも少し書いています。

何が良かったって、客室係は一日の大半をピンで動くところ。
大変気楽で、自分の性分に良く合っていました。
出勤して担当フロアに上がったら、その日の仕事を仕切るのは自分ひとりです。
勿論、修理レベルの破損とか窃盗レベルの備品お持ち帰りのような非常事態があれば上に連絡取りますが、ちょっとしたイレギュラーは自己裁量で捌きます。
これはもう能力の上下ではない純然たる向き不向きで、合わないタイプの人だと大変辛いと思うのですが、自分には実に向いていました。

そして、ホテルという職場の持つ特徴も、すべて自分向きでした。
遊んでいる人のサポートをして働くことも、流れる水のように日々新しいゲストが現れては消えていくことも、自分達が100に仕上げた仕事がゲストにとってはゼロでしかないことも、みんなみんな、自分にとってはひどく楽しくて嬉しかった。


部屋に小さな冷蔵庫があってですね。
冷蔵庫のモーター音を嫌がるお客さんの為に、正面にスイッチがついてるんです。
だから時々、清掃後の客室をチェックしてまわる際に、これが切れていることがある。

このスイッチを入れるのが、ひそかな喜びでした。
基本大抵のことは楽しかったけど、これが楽しさと言うか、嬉しさとしては一番だったかも。

ゲストにとっては、チェックインした部屋の冷蔵庫が冷えている、なんてことはごくごく当たり前の話であって。
それがまた、何とも良かった。
気づかれないのがいいんです。
こっそりとそこに底上げしていくのが至上の喜び。
黒子の喜びですね。


なので念の為に言っておくと、ゲストはこんなこと何にも意識しなくていいんですね。
「そうなんだ有り難いな、感謝しなくちゃ」なんてぜーんぜん思わなくていい。
だって100にしておくことが自分達の仕事だから。そしてゲストは、それをゼロとして、そこからプラスにもマイナスにも、好きに採点するのが当然だから。

クリスマスや年末年始なんか最高だったな。
部屋はすべて埋まっていて、ゲストの顔は皆いきいきぴかぴか、嬉しそうで楽しそうで、見ているだけでこっちまで嬉しくなったもんです。


ああ、天職だ、としみじみ思いました。
こういうことを「天職」と呼ぶのだな、と。



……まあとは言え、基本ハードワークであることに間違いはなく、この後、別のホテルで働いていた際に働き過ぎで体壊して、それでホテル仕事は辞めました。
高熱出してぶっ倒れて、病院行ったら「過労と栄養失調」で即入院。

まさか現代日本で普通に職持ちの人間が、「栄養失調」言われるとは思いもしませんでした。
もう本当に激務で、昼を食べに食堂に降りる時間もなく。時間が空いた頃には食堂の方が閉まってる。
連日残業で遅くに帰った後は、へとへとで食欲もなくリンゴかじったくらいで寝てしまい、朝はしんどいのでぎりぎりまで寝ていたい為、朝食抜き。そりゃ栄養も失調したくもなろうというものです。

ちなみに万歩計つけてた同僚男性によると、毎日仕事だけでほぼ2万歩は歩いてたとか。歩幅が違いますから、多分自分はもっと歩いていたと思います。過労になるのもさもありなん。
やっている仕事の内容そのものは楽しいけれど、職場環境としては全然楽しくありませんでした。
もう少し人数増やしてくれるだけで、全然違ったと思うのですけども。


時々は、実は今でも、「またホテルの客室やりたいな」と思うことがあるのですが、もう体力的に到底ついていける気がしない。諦めてます。
今は連れ合いが月ー金仕事なので、ホテル仕事始めちゃったら休みも合わなくなってしまうし。

ホテルの後にいくつか働いたところも、思えば基本、「人のサポートをする仕事」だったなと思います。
サービス業が根っから合っている、自分の「天職」なんだなと。


「もの書き」が自分の人生で選び取った、自分から自分への最高のギフトであるけれど、「天職」はホテルなんだろうと今でも思っています。
来世ではそっちをギフトにしてみたいな。

 

   

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