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#全文公開『フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[導入編]』監修者はじめに

アルゼンチン発 科学×本能の融合

おかげさまで発売前から話題となっている『フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[導入編](ヘルマン・カスターニョス著、進藤正幸監修、結城康平訳)が、いよいよ来週
6月6日より順次書店に並びはじめます。
本日は本書の監修者でヴィセラルトレーニングを実践している東京工業大学附属科学技術高校サッカー部の部長・進藤正幸氏による「監修者まえがき」を発売に先駆けて先行公開です!
発売をお楽しみに!!

監修者まえがき

 現代のサッカーはフィジカル面の急激なレベルアップにより、身体的なスピードは極限のレベルまでに到達している。残されているのは判断スピード、プレー実行スピードの開発である。『フットボールヴィセラルトレーニング』では神経科学の知識を用い、「脳のスピード」を上げるために何が必要かが語られている。
 2022年のカタール・ワールドカップはアルゼンチン代表の3度目の優勝で幕を閉じた。決勝戦でのアルゼンチンの2点目はまさしく判断スピード、プレー実行スピードがチームとして結実したものであろう。自陣深めの位置にいたナウエル・モリーナからアレクシス・マクアリステル、マクアリステルからリオネル・メッシ、メッシがワンタッチでフリアン・アルバレス、アルバレスから再びマクアリステル、そして得点を決めたアンヘル・ディ・マリアへという過程はわずか10秒だった。本書にも書かれているように、ストリートサッカー、つまり無意識下でのプレーの大切さが見直されるべきだと教えられる。
 「ペレは4秒、マラドーナは2秒、メッシは1秒」。今後、判断、プレーできる時間がますます削られていく選手たちにとって、脳、神経科学を基としたトレーニングが必要になってきた。私は2022年の末に、元ドイツ代表トレーニングコーチで「Brain Activity 」の創始者エフィ氏、前ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズパフォーマンスコーチのフリオ氏、23年に徳島大学名誉教授でコオーディネーショントレーニング研究の第一人者である荒木秀夫氏の3人とお会いする機会を得たが、3人いずれも異口同音に脳、神経の重要性を説かれていた。
 まだ日本ではこの分野に踏み込んだトレーニングは一般的に行なわれていないのが現状で、世界を追い越すためには避けては通れないことだと感じる。本書は脳、神経の専門的な用語、理論など難解な箇所も多いが、これを機会に知識を深めていただきたい。また、本書の特徴として、現代サッカーのオピニオンリーダー、ペップ・グアルディオラ、ユリアン・ナーゲルスマン、トーマス・トゥヘル、マルセロ・ビエルサをはじめ、他競技の指導者、音楽家、宗教家、心理学者など多岐にわたる分野の人々の言葉が使われており、理解を深める手助けになるのではないかと思う。
 2023年3月に開催されたWBC(ワールドベースボールクラシック)において侍ジャパンは見事に決勝で前回優勝国であるアメリカを破り、3度目の優勝を飾った。本書に書かれていることとリンクする印象に残ったシーンが2つある。
 1つ目は、準々決勝イタリア戦3回の攻撃での大谷翔平選手のプレーだ。スーパースターの大谷選手があえて長打を狙わず、チームのためにプライドを捨て、自己判断でセーフティーバントをし出塁した場面である。極端な守備シフトの裏をかく、状況を咄嗟に判断して実行したプレーであった。
 2つ目は、岡本和真選手のプレーだ。彼とは3年前にオフの自主トレーニングで出会った縁でいろいろな話をさせてもらっているが、その中で「小学生以来、野球を楽しんだことがない」と聞いたことがある。私は少年時代からその才能に周囲から大きな期待がかかり、重荷となっているのかと思っていた。ただ、今回の優勝報告会での記者会見で、「野球ってこんなに楽しかったんだなと思いました」と答えていた姿を見て、少年時代のように純粋に野球のプレーに集中できた状態をつくれた環境が、決勝戦でのホームランにつながったのではないかと思う。
 この2つの事例はまさしく本書に書かれている環境、状況に、脳、神経が適応した結果であろう。サッカーも将来、日本代表の選手たちがワールドカップの優勝報告会で、「楽しみながらプレーできた」「サッカーは楽しい」と話す姿を見てみたい。そのためにも、指導者自らが多くのことを学び、感じ、実践し、選手たちの成長をサポートしなければならない。本書が少しでもその役に立てたら幸いである。
 
進藤正幸

本書 監修者まえがき

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