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【先行公開】せめて手元に基本的な定石だけでもよいので、網羅されたガイドブックのようなものがあれば……『サッカーフォーメーション図鑑』まえがき

昨年の「激レアさんを連れてきた。」出演でも話題。「胸ぐらを掴まれたことのあるサッカー界の諸葛孔明」と称された龍岡歩氏待望の単著がついに発売!(光文社新書『サッカー店長の戦術入門 「ポジショナル」vs.「ストーミング」の未来』と同時刊行)

サッカー フォーメーション図鑑 配置の噛み合わせが生む位置的優位性を理解する』(龍岡歩著、定価¥1870)がいよいよ2月15日より順次書店へ並びはじめます。(一部地域によって遅れがございます)

本日は刊行前に本書より「まえがき」を先行公開です。ぜひ‼

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サッカー フォーメーション図鑑
配置の噛み合わせが生む位置的優位性を理解する』
著者 龍岡歩
ISBN 9784862556219
ページ数 272
判型 A5判
定価 1870円 税込
出版社 カンゼン
発売日 2022年2月15日

1日平均5試合、年間1500試合を観戦する変態による変態フォーメーション本

サッカーフォーメーション界のイロハのイ[4-4-2]から滅多にお目にかかることのない[3-4-3(ダイヤモンド)]までを完全網羅した、フォーメーション変態のフォーメーション変態によるフォーメーション変態のための一冊。4バックと3バックのフォーメーションに分け、フォーメーションごとの強みと弱み、メカニズム、観戦チェックポイントを紹介し、対全布陣噛み合わせ一覧、過去の名チーム、フォーメーション名勝負数え歌なども収録。

まえがき

 「フォーメーション同士のすべての噛み合わせを網羅した図鑑みたいなものを出したいんですよね」
 無茶ぶりに定評のある『フットボール批評』の石沢編集長にそう言われた時、おそらく私はキョトンとした表情を浮かべていたはずだ。正直、今ひとつピンとこなかったのである。ただでさえ現代のサッカーは可変システムの発達やらポジションレスの進化やらでますます高度化する昨今、フォーメーションは形骸化しつつあるとさえ言われている。ペップ・グアルディオラの有名な一説「フォーメーションの数字など電話番号のようなものだ」は今さら紹介するまでもないだろう。本当に今、フォーメーションをテーマとした書籍が求められているのだろうか。そんな一抹の不安を抱えたまま、最初の打ち合わせに臨んだのを今でもよく憶えている。
 だがある日、そんな私の認識は覆される。あれは確か将棋の藤井聡太竜王が、タイトル戦に挑むということで話題になっていた時だったと思う。私は将棋に関してはまったくの素人なのだが、戦略を競うゲーム性と棋士の思考法などには以前から興味があった。特に藤井聡太竜王に関しては天才的な頭脳の持ち主と方々で賞賛を受けている棋士だったのでなおさらである。そこで興味本位で対局のネット中継を覗いてみた。
 まず解説者の振る舞いがサッカーとはまったく違っていて面白い。一手一手時間をかけて打てる将棋では、解説者が盤面を使って次の一手や、そこから派生するであろう試合展望を事細かく解説してくれるのだ。そして時には「これはすごい一手が出ました!」などという合いの手が繰り出される。さらに昨今のネット中継ではAIを使った形勢判断が数値とグラフを使って表示されるので、どちらが対局を優位に進めているのかまで一目瞭然なのだ。
 しかし、素人の私には盤面を見ても何が「すごい一手」なのか、なぜ優勢なのか、まったく理解できない。解説者の言葉などからおそらく定石から外れた閃きの一手なのだろうということは推察できても、その定石を知らないので本当の価値がわからないのだ。せめて手元に基本的な定石だけでもよいので、網羅されたガイドブックのようなものがあれば……。きっともっと前のめりで対局を観戦できたに違いない。
 そこではたと気付かされたのである。石沢編集長の意図はこういうことだったのではないか、と。サッカーにおけるフォーメーションとはいわば将棋における定石のようなものなのではないか。定石はそれだけで勝負に勝てるものではないし、試合のすべてを把握できるものでもない。あくまで前提として踏まえた上でお互いの戦略が発揮されるものなのだ。だが、その前提を知らなければ高度な戦術も、閃きの一手も、決して理解することはできない。「電話番号に過ぎない」という言葉は、前提を知っているがゆえのものなのだ。突然「偽SB」と言われても、そもそもSB本来のポジショニングや動き方を知らなければ、何が「偽」なのか知る由もないだろう。
 ましてサッカーは将棋と違い、刻一刻とスピーディーに局面が動いていく。事前に定石を頭に入れておかなければたちまち試合展開に置いていかれてしまうだろう。だが裏を返せば、フォーメーションの噛み合わせも定石として押さえておけば、試合で見るべきもの、今まで見えてこなかったものがクリアになるかもしれない。
 実際の試合では本書に書かれているような定石はほとんどの選手、監督は理解した上で、相手を出し抜こうと知恵を巡らせるものだ。定石通りに試合が進むこと、盤面通りの噛み合わせになることのほうが現実には稀である。しかしだからこそ、定石を知ればお互いがいかに相手の弱点を突き、自分たちの弱みをうまく隠しているのかに自然と目が向くはずである。サッカーをより楽しむための定石の一手に本書が成り得たならば、筆者としても幸甚の限りである。

2022年1月 龍岡歩

本書 まえがき より

書誌情報

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