宇田方詩賦
2つの国があった。 ア国。 奇跡や神を信仰し、抑止力として『魔法』を研究し、作り出した国でもある。 ア国が信仰する神は絶対であり、法皇の発言、予言というのは国民をも動かした。 イ国。 現実主義であり、様々な科学、医療、工業等が発展していった。中でも最も飛躍したのは『神経兵器』という、人の思考によって兵器が自由自在に動かせる、神をも恐れぬ兵器を生み出した。 この2つの国は、決して相容れる事が出来ない‘異なった道,を歩んできた。 俺が聞いた話では、ア
部屋の中に男が2人いた。 仮に2人を「A」と「B」にしておこう。 AとBはスーツ姿ではあるが、共に柄は違う。 Aは白いスーツ、対してBは黒のスーツ姿だった。 対面しているその中央にはテーブル。 テーブルの上には、リボルバー銃が置いてある。 Bが無言でリボルバー銃に手を伸ばす。 「1994年4月5日………」 リボルバー銃を握ったBが呟く。 「お前、何の日だか知っているか?」 リボルバー銃のシリンダーを取り出して、入っていた銃弾を全て地面に捨
「セイッホッ、ホッ! セイッホッホッホッ!」 風呂場で私は、まだ幼稚園に入園したての息子の前で腰を振る。 自分の陰部、つまり『アレ』が右往左往して、内腿に叩きつかれる。その叩きつかれた音が風呂場に鳴り響く。 息子は笑いながら喜んでいる。 これが、いつもの私と息子の『風呂場での風景』である。 私は父親だ。父親という事は色々な意味でも、“威厳”は保たなければならない。 そう。 どんなに『くだらない』事でもだ。 私は子供の目線に立ち、楽しむ時は楽しみ
そもそも武家の出でもない、近衛はあいも変わらず畑を耕しては、土の状態を観察しては肥料を使って土を己なりに肥やしていった。 それが近衛の日常であり、陽が暮れれば直ぐ近くの庵に帰る、という生活を送っていた。 ※※※ 『おかえりなさい』 静が出迎えて、湯の入った桶を用意してくれる。 近衛は何も言わずに、手拭いを湯に浸けて、そのまま泥だらけの足を拭っていった。 『あなた、お客さんが来てますよ』 もう陽が暮れ始めているというのに。 近衛は急ぐことも
人は死ぬ。 最も簡単に。 傍聴席から見えるあの男が、僕の父さんと母さんを殺した。 ニュースにもなった。 僕は親戚に預けられたけど、親戚の家にまでマスコミが押し寄せてきた。 正直怖かった。 『今どんなお気持ちですか?』 『お父さんとお母さんの命を奪った犯人に対して一言!』 そんな言葉が飛び交っていた気がする。 でも。 現実は残酷だ。 目の前にいる男はあくまでも、 『過失致死』 要は誤って殺した、という意味だ。 何故なら夜の高速道路で、散々煽っ
オレが人間界に堕ちて、もう何千年、いやもう何億年経ったんだろう。 今じゃ人間界の『監査官』の様な役割をさせられている。 ふざけた話だ。 天界(人間共は『天国』という)では、オレは『堕天使』扱い。下界(これも人間共は『地獄』と言っている)では、全くの『除け者』扱い。 つまり、オレは何処へ行っても『嫌われ者』って事な訳だ。 ったく、オレが『監査官』やっているから、人間共が天界や下界へと導いてやっているというのに、神や悪魔共はオレには感謝の欠片も何もない。 どっち付
とある大学の寮での、深夜の出来事である。 大学に通う3人組が、1室に酒を持ち込んで、男同士の飲み会を開いていた。 仮にその学生たちを「A」「B」「C」という名前にしておく。 Aが突然、 「アンパンマンってさ…」 と急に、国民的アニメの話題に振っていった。 「生物学的に可笑しな設定じゃないか?」 グラスに注いだ日本酒を、ちびりと飲むと真顔でそう2人に尋ねた。 BとCからすれば、 「何を言っているんだ、こいつは」 と思ったのだが、何だかそんなくだらない話題でも
幾度となく、必ず目が覚めるとテーブルには、赤いスマホが置いてある。 もちろんの事だが、それは私のスマホではない。いつも枕元に目覚まし代わりに置いてある、紺色のスマホが私のである。 ということは、テーブルに置いてある、この赤いスマホは一体何だ? という意味になる。 最初のうちは、近くの交番に届けていた。 しかし翌日になるとまた、テーブルの上に赤いスマホが置いてある。 これの繰り返しだ。正直に気色悪い。 私は部屋をくまなく探した。空き巣に入られていたら困るからだ
「命、捨てがまるは今ぞ!」 豊久様の声が響き渡る。茂みに隠れた兵子らの士気も上がる。 私はその茂みに隠れる1人に過ぎない。 上様が薩摩に辿り着けば、我々の勝利。 それでも上様はこう仰られた。 「退くのじゃ! 食い止めなぞいらん! 退いて皆で国へ帰るのじゃ!」 しかしそれに異を唱え、しんがりを務めたのは豊久様、そして御家老である長寿院盛淳様だった。 「叔父上! お退きあれ! ここはお豊にお任せあれ!」 「殿が1人、薩摩へと戻られたら、おいも兵子も死んだとしても、こ
『愚か者』というのは、多分僕のことをいうのだろう。 自分の事で手一杯の人間なんてざらにいる。 いや、殆どの人間が自分の事しか考えていないだろう。 自分の事。 つまり『自分自身や自分に関わる人間』で手一杯になる。それは『家族』だったり『友人』であったり『恋人』だったり。 それが、人間の本質ってやつだろう。 しかし僕はどうだ? 自分の事はおざなりになり、他人に『干渉』し過ぎてしまう。 よく言えば『善人』 悪く言えば『お人好し』 どんな形にせよ、僕は自分自身を
512番。 それが今のオレの名前。 あの忌まわしき出来事から、早くも1年経つのか………。 だが、それも致し方無いことだったんだ、とオレは自分に言い聞かせる。何よりも「守る人」がいるだけで、ここまで変えてくれたのは、彼女だ。 いや。 「彼女だった」 というべきか。 もうオレには関係のないところで、幸せに暮らしていると、そう願うばかりだ。 「早く忘れるべき」 それが唯一のオレの願い。 何1つとして、あの娘は悪くない。 オレと、腐れ縁の悪友が、あの娘を不幸に
1『自分は変わりたい』 高校卒業後にそう言い残して、健人(たけと)と希(の)空(あ)の前から去っていった史(ふみ)哉(や)。 その史哉から2人に、10年ぶりに連絡が入った。 『ご無沙汰しています。史哉です。高校を卒業してから、今年で10年目になります。この10年、色々とあったと思います。もし良かったら今年のクリスマス、3人で10年ぶりの再会をしませんか?』 そのメールを受け取った2人は、地元に帰郷してくるのだった。 健人は高校卒業後、土木関係の会社に就職し営業課
クリエイターの卵に告ぐ。 僕の言う卵とは、漫画家、イラストレーター、ゲームクリエイター、小説家、脚本家等を指す。 その先に必ず待っているのは『地獄』だという事。 形のないものを生み出す労力は、途轍もなく半端ではない事。 生半可な気持ちでいたら、自分の心が壊れてしまう。 いや、クリエイターといわれる人たちも、心身ともに壊してしまうほど。 プレッシャーとの戦いで、業界から去っていく者。 心が壊れてしまっても、なお気が付かずに脳神経が麻痺して続けている
バンチ症候群。 現在では名前が変わって「特発性門脈圧亢進症」と呼ばれている。 『門脈圧亢進症』 門脈(腸から肝臓に向かう太い静脈)と、その分枝の血圧が異常に高くなる病気。 僕の場合は脱腸の手術を受けてから、症状として「貧血」「血が止まりにくい」「脾臓肥大」という、意味の分からない事が起き始めた。 これが6歳の時に起きた。 親から聞いた話では「医療ミス」だという。 そう簡単になる病気ではない。しかも当時(昭和後期)は、これといった治療法が見つかっていな
ドラムが唸る。 俺の握るスティックがしなりながら、フロアタムやスネアを、千手観音の様に叩きまくる。 音楽室に俺の叩くドラミングが響き渡る。 ドラムを叩いている時だけが、俺の自由な解放されたひと時だ。 3点セットといわれるハイハット、スネア、タム、フロアタム、クラッシュシンバル2つにライドシンバルのシンプルな構成。 1つだけ違うのは、バスドラムのペダルが2つある事ぐらいだ。 このドラムセットは、俺の家から音楽室に持ってきたもの。 時々後輩が叩いたりしているが、俺
「地獄行きだな」 閻魔大王と呼ばれる椅子に腰掛け、書類に目を通す今時の出来るキャリアウーマン風の女性が、僕に見向きもせずにそう言った。 彼女のセミロングに若干だが、角の様な突起物が2本生えている。 本物だ。 理由は何となく分かる。 僕は死んだらしい。 気が付くと大きな川を、矢切の渡しの様に渡り名前を呼ばれて、ここまで連れて来られた。 それで目の前にいる、この女性が「閻魔大王」だと聞かされる。 そして今に至る訳だった。 「地獄?」 「そう、地獄行き。坂本一郎、あなた