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ア国イ国

 2つの国があった。

 ア国。

 奇跡や神を信仰し、抑止力として『魔法』を研究し、作り出した国でもある。

 ア国が信仰する神は絶対であり、法皇の発言、予言というのは国民をも動かした。

 イ国。

 現実主義であり、様々な科学、医療、工業等が発展していった。中でも最も飛躍したのは『神経兵器』という、人の思考によって兵器が自由自在に動かせる、神をも恐れぬ兵器を生み出した。


 この2つの国は、決して相容れる事が出来ない‘異なった道,を歩んできた。


 俺が聞いた話では、ア国とイ国が国交を結んでいない、それこそ侵略などをした場合には、戦争が始まると聞いている。


『安定したメシも食えるし、給料も貰える』


 それだけの理由で軍人になった。

 イ国民として、後悔なんかしていないし、逆に胸を張れると思った。


 はずだった。


 上官からの命令で、俺は新兵器のサンプルとして選ばれた。


『イ国の誉れになるぞ』


 上官はそう言った。

 戦争も何も起きていないのに、何が誉れだというのだろう。サンプルという事は、俺は‘モルモット,になる、そういう事だろう。

 だが、上官の言う事は絶対であり、逆らえば非国民となってしまう。

 それだけは避けなければならなかった。


 新兵器『ヨスガ』


 ホバータイプの『戦車』といった方が分かりやすい。しかしホバリングが正確で、戦車とは違い自由に駆け抜ける。さらに折り畳み式の翼を持っており、空を飛び『空中戦』にも特化している最新兵器。


『ヨスガ』には勿論であるが、‘神経兵器,も搭載されている。

 だから俺は改造手術を受けて、この最新兵器に搭乗しなければならない。

 頸椎から脳に掛けて、伝達信号を自在に操れる手術。勿論だが麻酔はない。

 この手術によって何人もの兵士が亡くなっている。

 だが俺は生き残らなければならなかった。

 この手術が成功すれば、国から俺の家族の『一生』が保障される。

 だから、どうしても俺は受けなければならない、そして成功して生き残らなければならない。


※※※


「コードネーム『イ503』、ホバリングカラ、ソノママ滑空実験ヘト移行スル。オーバー」


「コチラ『イ503』テストヲ実行スル。ホバリングニ問題ハナイ。全テ順調ダ。オーバー」


 俺は『ヨスガ』に搭乗して、ホバリングテストをしていた。

 このまま、滑空テストへと移行する無線指令を受け、酸素マスクを装着した。

 全てテストは順調に進んでいる。ヘルメット代わりの『ヘッドアイ』という、神経兵器改造手術を受けた者しか扱えないヘッドギアを装着している。

 俺は自身の思考を集中させる。


「飛べ。ヨスガ、飛ぶんだ。飛べ、飛べ!」


 俺は心の中で念じる。

 すると『ヨスガ』に搭載されている翼が、しっかりと形を成してそのままスピードを上げていく。

 Gも凄まじい。

 そして俺の念は具現化する。『ヨスガ』は急上昇して、雲を突き抜けて青空を駆け抜けていく。

 テストは成功した。


「コチラ『イ503』コノママ上空ヲ飛ビ続ケルカ。オーバー」


 俺は司令部に無線を放つ。

 その時だった。レーダー音が突然鳴り出した。レーダー探知機に何かが引っ掛かった。

 この上空に、何が飛んでいるというのだ?

 俺はレーダーを覗き込む。遥か先を示している。

 肉眼で視認出来るだろうか。改造手術を受けている為、視力も上がっている。俺は視認を始めた。

 直ぐ前方に、何かが飛んでいる。


「コチラ『イ503』上空前方ニ、未確認飛行物体アリ。命令ヲ待ツ。オーバー」


 一体あれは何だ。

 ここは『イ国』の上空圏内だぞ。

『ヨスガ』のスピードを上げて、対象に近付いていく。

 今、『ヨスガ』には武器を積んでいる。戦おうと思えば戦える。まだ空中戦テストはリアルでは行っていない。

 あくまでシュミレートとして、VRテストはしているが。

 ここで対象と『空中戦』に持ち込めば、貴重なデータを残せる。

 俺はいつでも準備は出来ている。

 対象もこちらに気が付いた様だった。更に高度を上げていった。俺は操縦桿を握って、高度を上げる。


「コチラ司令部。未確認飛行物体ヲ追ウ事ハ禁ズル。繰リ返ス。追ウ事ハ禁ズル」


 司令部からのまさかの命令であった。

 イ国上空圏内に未確認飛行物体。もしかしたらア国の最新鋭兵器かもしれないというのに。

 続けて、


「近イ内ニ、イ国ハ軍事作戦ヲ行ウ。ソレマデハ泳ガセテオケ。勝手ナ行動は禁ズル」


 近いうちに『軍事作戦』を行うだと?

 という事は『ア国』と『イ国』が、戦争を行うという事か。

 まさか。

 その為の最新兵器『ヨスガ』なのか?


 俺は暫く青い空を眺めていた。

 どこまでも続く青い空。

『軍事作戦』という言葉を聞いて、俺の思考は複雑になった。

 長きに渡って『冷戦状態』であった2つの国が、いよいよ戦争になる事実。

 俺はその単なる『駒』に過ぎないのだ。

 家族の『生活が保障される』と思っていたが、蓋を開ければそういう事だった。


 だが。


 それも仕方がない。

『戦争』になってしまえば、約束は『反故』される。

 だから。

 俺は戦場に赴くであろう。

 この『ヨスガ』を駆って、戦果を上げるだろう。

 全ては、『イ国』繫栄の為に。

 正しいとかそんな事は関係ない。

 その『道』しかないのだから。

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