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堕天使の独り言

 オレが人間界に堕ちて、もう何千年、いやもう何億年経ったんだろう。
 今じゃ人間界の『監査官』の様な役割をさせられている。
 ふざけた話だ。
 天界(人間共は『天国』という)では、オレは『堕天使』扱い。下界(これも人間共は『地獄』と言っている)では、全くの『除け者』扱い。
 つまり、オレは何処へ行っても『嫌われ者』って事な訳だ。

 ったく、オレが『監査官』やっているから、人間共が天界や下界へと導いてやっているというのに、神や悪魔共はオレには感謝の欠片も何もない。
 どっち付かずの嫌われ者か………。
 まぁ、長い事この仕事をしていれば、イヤでも慣れてしまうというのが、それこそ『人間染みて』反吐が出そうになるが。

 人間界ってのは、本当に今も昔も変わらない。

 誰かが上に立ち、エゴイストの様に人を見下し、腹の中では何を考えているかなんて分からない。
 それはどんな人間でも一緒だ。

 ほら、今オレの目の前を通り過ぎた優男。コイツの心はドス黒い。
 平気な顔をしているが、何人も人を殺害している。まぁ、あと数年で死刑台行きだがな。
 んで、向こうのベンチで座って本を読んでいる地味そうな女。
 アイツは夜になるとキャバ嬢になって、ナンバー1を獲ってその座から降りない為に、必死になってアフターっていうのか? 分刻みのスケジュールで男共を虜にしている。
 ま、そんなこんなしているうちに、肝臓やられてキャバ嬢引退も目に見えているがな。

 こうやってオレは、毎日毎日、イヤって言うほど人間共の『監視』『観察』を行っているという訳だ。
 これをもう、何億年もやっている。

 はぁ~、つまらん。
 自分が何で人間界にいるのか、とうの昔に忘れちまった。
 天界で何かやって、下界でも何かやって今に至る、ってところだろう。
 しかしこうも毎日同じ作業ばかりでつまらん。
 あくまでも『オレ自身』だけの話だがな。

 天界と下界は、少々そうも言ってられない状況の様だ。
 現在、人間界は『グローバル』っていうのか?
 いや、もっとその先にいっているのか。
 そういう社会構図になってきている。
 まさか神も悪魔も、下等な人間共がそんな未来を作るとは、思ってもいなかっただろう。
 何が言いたいかと言うと、

『信仰心が薄れている』

 って事みたいだ。

 歴史は繰り返す、って言葉が人間界である様に、オレは歴史が幾度となく変わっていくのを、この目で見てきた。
 しかし流石に『信仰心』だけは、薄れる事はなかった。
 それはどの時代に置いてもだ。

 だが、今はどうだ?
 繰り返された歴史は、まるで『無かった』かのように、人間界の発展は目まぐるしいものがある。
 人間共の一部では『自分が神になった』気分でいるヤツらも少なくはない。
 ま、そういうヤツらはロクな死に方はしないが。

 確か昔、何人か下界に堕ちたヤツらがいたっけか。
 オレは基本的に、今のところ『平和』を謳っている日本にいるが、石井某に東条某だろう?
 もっとむかしだとアイツ、何て名前だっけか?
 確か『蘇我入鹿』とかヘンテコな名前のヤツもいたなぁ。
 首塚の前で、

「入鹿いるかぁ!」

 って言って遊んだけどな、あまりにも暇すぎて。
 ………これを人間共の言うところ、

『スベッてる』

 ってやつなのかなぁ………まぁ、いい。

 世界に目を向けたらキリがない。
 ムッソリーニ、ヒトラー、毛沢東にポル・ポト。
 あ、あとアイツ、スターリンか。
 もっと昔だとアイツらだ。ジルドレ、ヴラド3世にチンギスハーンとかその辺か。
 どんなに繰り返されて思う事だが、

「人間ってのは成長しない」

 って事だけはハッキリしている。
 人間共の言葉で『死ななきゃ分からない』って言うが、そんなのはハッキリ言って皆無だ。

 何故かというとオレによって、全て『選別』されるからだ。
 その為にオレが人間界にいる。
 死んだところで、理解もクソもないって意味だ。
 あるのは再生でも何でもない。
 あるのは『無』だ。
 善人であろうが悪人であろうが。
『無』のまま、天界、下界へと『選別』される。人間共に待っているのは、ただの『無』でしかない。
 だから神も悪魔も、今まで好き勝手にやってきたのだ。

 ところが今は、現在は、それが逆転しつつある。
 天界と下界が『人間共の信仰心』によって、存在価値が薄れつつある。
 どの時代であっても、薄れることがなかった信仰心。哀れな話だ。
 ま、オレには関係ないがな。
 どっち付かずの『嫌われ者』であるオレがやる事は、あくまでも『監視』『観察』そして『選別』だ。
 それに人間界のこの先の未来っていうのにも、オレには興味がある。
 人間共が何処まで『神の頂』に近付けるのか、そんなところまで見てみたいものだ。
 結局は『歴史は繰り返す』と分かっちゃいるのだが。

 一応、天界と下界に媚でも売っておくか。

 ロシアの気が振れた大統領。
 それとあの黒電話を頭に乗っけているような総書記。
 アイツらの報告書でも送っておくか。

 そうすりゃあ、天界も下界も手ぐすね引いて、待っているだろう。
 コイツは見物だな。
 だが。
 人間共に待っているのは、再生でも何でもない。

 ただの『無』だけだ。

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