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コロシヤの戯れ

 部屋の中に男が2人いた。

 仮に2人を「A」と「B」にしておこう。

 AとBはスーツ姿ではあるが、共に柄は違う。

 Aは白いスーツ、対してBは黒のスーツ姿だった。

 対面しているその中央にはテーブル。

 テーブルの上には、リボルバー銃が置いてある。

 Bが無言でリボルバー銃に手を伸ばす。


「1994年4月5日………」


 リボルバー銃を握ったBが呟く。


「お前、何の日だか知っているか?」


 リボルバー銃のシリンダーを取り出して、入っていた銃弾を全て地面に捨てた。

 そのうちの1つの弾を拾って、シリンダーの中に入れて、回転させながら元に戻す。


「何も答えない…か………」


 Bはニヤリと口角を上げる。

 対してAは無表情で、Bの動きを見つめている。


「ニルヴァーナのカート・コバーンが自殺した日だ」


 そう言って自分のこめかみに銃口を向けて、撃鉄を引っ張り、引き金を引く。

 乾いた金属音が部屋に鳴り響く。


「オレはカートの歌声が好きでな。あの物悲しげな声が。お前にはそういうのはないのか?」


 リボルバー銃をテーブルの上に置くと、そのままAに向かって滑らせて渡した。

 Aは黙ってリボルバー銃を受け止めると、すぐさま銃口をこめかみに当てて、撃鉄を引き、引き金を引く。カチリという乾いた金属音。

 無言のまま、Bにリボルバー銃を放り投げて渡した。


「つまらねぇ男だな。もっとゆっくりと楽しもうじゃないか」


 だがAの表情は微動だにしない。

 Bは地面に唾を吐く。


「だったら映画はどうだ? お前だって映画ぐらいは観るだろう。何の映画が好きだ? オレはやっぱりクライムサスペンス、といったところか」


「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」


 初めてAが答えた。

 Bは鼻で笑った。


「あんなクソ映画が好きなのか? 随分と変わったヤツだな」

「許されざる者」


 Bは急に顔色を変える。


「偏った趣味だな。西部劇じゃねぇか。クリント・イーストウッドか」


 Bはゆっくりと撃鉄を引く。


「だが、その趣味。オレは嫌いじゃないぜ」


 そのままこめかみに当てて、引き金を引いいたが弾は出ない。


「オレらも、似たようなものか。『許されざる者』ってか」


 Bはおどけてみせる。

 Aは一切表情を崩さない。


「さて、そろそろじゃねぇか? この戯れも」


 BはAにリボルバー銃を放り投げた。

 Aは受け取ると直ぐに、撃鉄を引き、引き金を引く。乾いた金属音だけが響いただけだった。


「どこまでも悪運が強い様だな」


 Aはリボルバー銃をBに放り投げる。

 Bは受け取ると、


「これで命運が決まるって事か………」


 受け取ったリボルバー銃を見つめ、深呼吸をするB。


「これで弾が出なかったら、お前が死ぬって事だ。つまりオレの勝ちだ」


 Aは黙ったまま、Bの吐き捨てるような台詞を、無表情で聞き流した。

 Bの表情が強張り始める。受け取ったリボルバー銃を、震える手でこめかみに近付ける。


「言っとくがな」


 Bが口にする。


「これは死ぬのが怖くて震えているんじゃねぇ。このスリルに酔いしれているだけだ。お前だってそうだろう? なぁ?」


 Aの表情はこれっぽちも変わらない。

 その姿からまるで、早く引き金を引け、と催促している様にBには見えた。

 Bは舌打ちをしながら、撃鉄を引く。


「最後の最後に逆転、っていうのもあるかもな?」


 その言葉と共に引き金を引いた。


 カチリ。


 弾は出なかった。

 Bの呼吸が、歓喜の呼吸に変わっていった。


「オレの勝ちだな。このリボルバー銃は6発入り。そのうち1発はもうお前だっていう事は確定だな………!」


 Bは歓喜のあまりに嘲笑った。

 そして、そのままリボルバー銃をテーブルの上に置いて、Aに向けて滑らせた。

 AはBを見つめたまま、リボルバー銃を手に取って、素早く撃鉄を引き、こめかみに銃口を当てて引き金を引いた。


 カチリ。


 Bの顔色が青ざめていく。

 乾いた金属音。


「バカな………」


 Aはリボルバー銃をテーブルの上に置いて、Bのほうに滑らせた。

 慌ててBはリボルバー銃を手に取って、シリンダーを取り出して、銃弾が入っているかを確認した。


 6発入り。うち1発。確かに入っている。

 意味が分からなかった。

 その時乾いた炸裂音がした。

 Bの眉間に小さな穴が空き、身体が崩れ落ちていく。

 Aは懐からオートマチック銃を取り出して、Bを撃ち殺した。

 動かなくなったBに近付いて、握られているリボルバー銃を拾い上げた。

 このリボルバー銃を準備したのは、Aだった。予め、銃弾には細工を仕掛けてあり、弾そのものを抜いてあった。

 そうとは知らずに、この駆け引きに乗ったのはBであった。

 Aはスマホを取り出して、どこかに電話を掛けた。


「こちらナンバー6、仕事は完了した。対象の処理はそちらに任せる。オーバー」

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