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名無しの島

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フリーのルポライター、水落圭介はある出版社から、 ある島に取材に行ったきり、 行方不明になった記者を見つけてほしいという依頼を受ける。その記者は古い友人でもあった圭介は、 その依…
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#都市伝説

名無しの島 第8章 上陸

名無しの島 第8章 上陸

「さっきまで、いい天気だったのに~」

斐伊川紗枝のぼやく声が聞こえた。

 まだ、ピクニック気分なのか。水落圭介は苦笑した。

こっちは天候を理由に、港に引き返すと所沢宗一が言いかねないと思い、

内心ひやひやしているというのに。

次第に島の全体が見えてきた。幅500メートルほどの

こじんまりした海岸が見える。さして奥行きはないが、

きめ細かい粒の砂浜だ。漁師からも怖れられている、

『名

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名無しの島 第9章 蠢くもの

名無しの島 第9章 蠢くもの

 まだ、夕刻には早いというのに、辺りは薄暗く感じる。

陽光に照らされ、船上にいた時には濃かった姿を

作っていた自分たちの影はかすんで、

岩棚に映ったそれは、ほとんどその輪郭が判別できない。

それに、いままで気づかなかったが、

5人の誰もがかすかに生臭い風を、嗅覚と肌に感じた。

 井沢悠斗は周囲を見渡した。一見、どこも断崖にしか見えない。

素人目には、とても登れるような所は見当たらなか

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名無しの島 第10章 異形の影

名無しの島 第10章 異形の影

 水落圭介は腕時計を見る頻度が、増えていた。

まるで、地下鉄のホームにいる時みたいだ・・・

次の電車は何時だ?とでもいうように。

水落圭介は、そんな自分を苦笑いをする。

 井沢悠斗を先頭に森を進む一行は、

いつ終わるともわからない歩みを続けていた。

水落圭介自身も、疲労がつのっていた。

日頃からジョギングやジムで体を鍛えるように心掛けてはいるが、

舗装路と起伏の激しい場所とでは、疲

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名無しの島 第11章 襲撃

名無しの島 第11章 襲撃

 明朝6時、全員は起床した。井沢悠斗が、

まだくすぶっている火種に小枝を追加して、炎を再び起こす。

5人は彼が沸かした湯で、粉末のコーンスープをシェラカップで溶かし、

パンと一緒に食べた。

朝食を済ませると、小手川浩が疲れたような口調で言った。

「すみませんが、僕はここで少し休みたいんですが・・・

 両足が張っちゃって、歩けそうも無いんです」

そんな小手川のセリフを聞いた有田真由美は

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名無しの島 第12章 逃走

名無しの島 第12章 逃走

 水落圭介はもつれそうになる両足に、必死に力を込めて走った。

右手には斐伊川紗枝の腕をつかんでいる。

彼女がパニックを起こしているのは、明らかだった。

断続的に悲鳴・・・いや奇声を上げている。

圭介はその口を塞ぎたくてたまらなかったが、

恐怖の方が、その衝動に勝っていた。

 今は逃げるのが先だ―――。

井沢も言っていたではないか、不測の事態が起これば、

ベースキャンプに戻れと・・・

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名無しの島 第13章 見つけた洞窟

名無しの島 第13章 見つけた洞窟

 ベースキャンプから離れてしばらくすると、雨が降り出した。

それも豪雨だ。

水落圭介を先頭に小手川浩、斐伊川紗枝、そして有田真由美の順だ。

4人は、ポンチョを被り、雨をしのぎながら

東側の森をゆっくりと進んでいた。なるべく音を立てずに、慎重に。

とはいっても、ポンチョに叩きつけられる雨が、

やたらと大きい音に聞こえる。

その音だけで、不安感をあおられるようだ。

それに時々、濡れた地

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名無しの島 第14章 70年前の報告書

名無しの島 第14章 70年前の報告書

 洞窟―――というよりも坑道というべきか。

マグライトの光に照らされたそれは、

幅3メートル、高さ4メートルほどもあった。

30メートルほど進むと、入り口近くにあった、

コケ類や藻は次第に姿を消していき、

コンクリートの地肌がむき出しになっている。

 有田真由美も、頭部に付けるヘッドランプを点す。

その両手には即席の槍を身構えた。

水落圭介のマグライトと、彼女のヘッドランプの光が、

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名無しの島 第15章 地下研究所

名無しの島 第15章 地下研究所

「774部隊は『人体の強化』・・・

 いわば強化人間を製造することを目的にしていたみたいです・・・」

 小手川浩はそう言いながら、なおも書類やファイルを漁っていく。

彼の口からは、『人体の分離・合体』

『食料の摂取による対価の最小限化』など、

意味不明な言葉がつぶやかれていた。

 人体の強化?強化人間?そんなことを言われても、

にわかには信じられない。

まるでSF映画かアニメの世界

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名無しの島 第16章 襲い来る狂気

名無しの島 第16章 襲い来る狂気

 確かに、このままこの場に留まっているのは危険だ。

出入り口は、この部屋まで歩いてきた通路ひとつだけだ。

もし、あの化け物たちが入ってきたら、

逃げ場は無い。水落圭介たちは、室内の奥にある扉に向かった。

その扉は鉄製だった。しかも、鍵がかかってない・・・

というか半開きになっていた。

圭介は鉄扉の下を見た。床には扇状に擦れた跡がある。

それも新しいものだ。扉が動いた痕跡に間違いない。

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名無しの島 第17章 這うもの

名無しの島 第17章 這うもの

 水落圭介はゆっくりと立ち上がった。

避難した狭い部屋を、彼はマグライトの明かりを当てて、再確認していた。

すると、最初は気づかなかったが、2メートルほどの高さに、

縦横40センチほどの通気ダクトがある。

あの狭さでは化け物も通れないだろう。それ以外には窓も無い。

地下だから、当たり前なのだが。

 しばらくして、小手川浩がさきほどの部屋から持ち出した、

建築構造図の描かれた紙を広げて

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名無しの島 第18章 手に入れた武器

名無しの島 第18章 手に入れた武器

 地下2階へと続く廊下に出るための鉄扉はにも、錆付いた、

差し込み式の鉄板は取り付けられてはいたが、

それをスライドし、鍵を掛けられた形跡は無かった。

 水落圭介は、所々錆に侵食された、L字型のノブを掴む。

ゆっくりと慎重に、できるだけ音を立てないよう心掛けながら、

慎重にその扉を押し開いた。

そして右手に持ったマグライトで廊下を照らす。

左手にはスエーデン製のモーラーナイフを握り締

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名無しの島 第19章 強襲

名無しの島 第19章 強襲

 地下宿舎のベッドは左側の頭を向けて、整然と並べられている。

通路にあたる部分はその空いた部分、幅2メートルほどしかない。

二人並べば、いっぱいになるくらいだ。

三八式小銃を構えた水落圭介と小手川浩は横に並んだ。

有田真由美と斐伊川紗枝はその後ろに付く。

 小銃のフォアグリップを持つ手に、マグライトを挟み、

前方を照らす水落圭介。

その頼りない証明に照らし出されたものは、

怪物・・

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名無しの島 第20章 黒い血

名無しの島 第20章 黒い血

 水落圭介をはじめ、有田真由美。小手川浩は前に進もうと歩き始めた。

その誰もが、、衣服やリュック、

腕や顔に化け物のどす黒い返り血を浴びている。

そしてどの顔にも、極度の緊張と疲労、恐怖の色が浮かんでいいた。

あれだけの銃弾を浴びせながらも、一向に怯まず、

獰猛に襲い掛かってきたあんな化け物が、

少なくともまだ数十体もいるのか・・・。

たった4人でとても太刀打ちできるものではない。

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名無しの島 第21章 感染

名無しの島 第21章 感染

 扉を開くと、そこは居住区に入る前と同じような、

狭い部屋だった。

対角線上に鉄扉があるのも同じだ。床もクリーム色のリノリウム。

後戻りしたのかと錯覚するほど、同じだった。

ただ少し違うのは、部屋の隅に長さ1メートル強、

直径3センチほどの鉄パイプが、数本立てかけられていることだった。

厚みは2ミリくらいある。丈夫そうだ。

水落圭介はその中の、比較的錆のすくないものを選んで、

杖代

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