短い小説いろいろ

6

【短編】嘔吐

 一、

 その日は、ひどく疲れていた。頭が痛くて、眼球の奥に穴が空いたように目が乾いていた。一晩眠れば戻るというような健康的な疲れじゃない。僕がそのとき抱えていたのは、もうこれ以上何かを体に入れると破裂してしまいそうな暴力的な疲労だった。息を吐くと自分がばらばらになってしまいそうだった。
 誓って言うけど、アルコールなんて一滴も飲んでなかったんだ。
 とにかく家に帰りつかなくてはと、僕はタクシー

もっとみる
。゚(゚´Д`゚)゚。ありがとうございます…!
8

【短編小説】みーこそっくり (1/2)

 圭介はいつも、ラフ画を完成させるまでは、担当する作家のことを知らないままでいることにしていた。編集者の片岡にも、依頼のときに、作家の情報を教えないでほしいと頼んでいる。名前も年齢も性別も、これまでの作品も知りたくない。先入観をもたずに文章に向き合いたい。
 作者のプロフィールや評判を気にしながら絵本を読む子どもは、おそらくほとんどいないだろう。できるだけ読者と同じ気持ちで読みたかった。表紙を見て

もっとみる
。゚(゚´Д`゚)゚。ありがとうございます…!
4

【掌編小説】春の雪

 これほど間近で妹の顔を眺めるのは、蘭にとって初めての経験であった。白い顔の下半分を枕にうずめた凛は、姉の視線を一方的に受けてじっとしていた。眠っているふりをしているだけかもしれない、という考えが蘭の脳裏にひらめいたが、それはあっという間に消えてしまった。心ゆくまで観察させてくれるのなら、凛の思惑など関係ない。正妻の子である蘭は、妾腹の妹を理解したいと思わない。美術品をめでるように、ただ観察をして

もっとみる
嬉しい!
10

【掌編小説】コリンの理論

 ハカセというのはコリンにつけられたあだ名だった。いつも何かを観察して、難しい本を読んでいるコリンにぴったりのあだ名だったので、すぐに学校中に広まった。今では、コリンのことを本当の名前で呼ぶのは、リートただひとりだった。
 リートは特にコリンと仲が良かったわけではない。ただ、ハカセと呼ぶとコリンが決まり悪そうな顔をするので、呼ぶのをやめたのだ。クラスメイトたちは、逆だった。普段どんなにからかっても

もっとみる
いいことありますように!
13

【掌編小説】都会ウサギと四葉のクローバー

 ウサギが都会で生きるコツは、第一に食べ物の好き嫌いをしないこと。しなびた大根の葉っぱだろうが、歯ごたえのない味つきキャベツだろうが、フライドポテトだろうが、雑草だろうが、ぜいたくを言わずに何でも食べなくてはいけない。
オレは野良歴四年、大ベテランの都会ウサギだ。捨てられる前はペットとして飼われていたのか、食用だったのか、幼かったオレには分からない。物心ついたときから都会で一匹で生きてきた。小さい

もっとみる
わたしも好き!
5

【掌編小説】サンタクロース会議

 今年のサンタクロース会議は、波乱に満ちた幕開けとなった。開催のあいさつが終わるやいなや、ひとりの若いサンタクロースが立ち上がり、議長が止めるのも振り切って、とうとうと演説し始めたからだ。
「僕はどうしてもこの場を借りて言いたいことがあります。みなさんがご存じのように、最近、僕たちは人間の子供から感謝の声を聞くことが少なくなった。その原因は明らかです。親たちが、手柄を横取りしているせいなのです。我

もっとみる
わたしも好き!
5