見出し画像

小説『くちびるリビドー』/1.もしも求めることなく与えられたなら【PDF公開】

2020年12月22日に発売した小説『くちびるリビドー』の縦書き原稿を、本日より【全3回】に渡って公開していこうと思います☺︎/* ステイホームのお供に、ディープでポップな物語の世界を味わってみませんか?


「私がウニみたいなギザギザの丸だとしたら、恒士朗は完璧な丸。すべすべで滑らかで、ゴムボールのように柔らかくて軽いの。どんな地面の上でもポンポン弾んで生きていけるし、水の上ではプカプカ浮くことだってできる。それに比べて私は、ところどころ穴だらけで、形も微妙に歪んでて、ギザギザの棘だって見かけだけで実際は簡単にポキッと折れちゃうし。そのくせ『きれいな水の中でしか生きられな~い!』とか言っちゃって、とことん自分が嫌になる」//この“満たされなさ”はどこから来て、どこへ向かっていくのだろう……。あの頃、私の頭の中は「セックス」と「母乳」でいっぱいだった。


画像2

画像2


 その閃きみたいなものが、脳裏に微かな光を放ったとき。
 好きな人の腕の中で行き場のない情炎を募らせるようになっていた私は、いつものように眠れぬまま、ひんやりと清らかに乾いた暗闇に溶け出していく思考の行方を、ただただぼんやりと眺めていたはずだった。
 冬生まれの恒士朗は寒さに強く、どんなに冷え込む二月の夜であろうとTシャツとパンツだけ身につけて布団に潜り込むのだけれど、その体は驚くほど温かく、しかし私が彼の横で眠りに落ちることなど基本的には無くて(彼が泊まる夜は、毎回ベッドの下に彼用の布団を敷くのだ)、彼の体温でホカホカになった布団にダイヴして猫のようにじゃれついていたとしても、眠るときには必ず自分の寝床へと移動するのが私の常で。そうしないことには熟睡なんてできないし(厳密には誰かが同じ空間にいるだけでもう、本格的に深く眠ることなどできないのだが)、たとえ冷たいシーツの上に引き戻されるとしても「夢の世界へ旅立つときは、それぞれの宇宙船に乗って」というのが私の信条で。
 そんな私だから? だから他人と深く交わることなんて、そもそも無理な話で? だけど、どうして? どうして私は、こんな救いのない考え方ばかりしてしまうのだろう。すべてを自分のせいにして、そのくせ被害者意識をいつまでも手離そうとせず――。
 その夜も、こんなふうに私はきっと、ゴールの見えない自問自答レースを繰り広げていたに違いない。「眠れないのも、そんな私を和ませるのも、ごきげんに眠る彼の健やかな寝息だなんて、まったく矛盾してる……」なんてことを思いながら。



画像3

画像4

画像5

画像6

画像7



下記の有料エリアに【PDFファイル】を添付しています。
「縦書き原稿」をダウンロードしてお読みいただけます。

(やっぱり小説は“縦書き”で、読みたい&読んでほしい派の私です♪)

2』と『3』はこちら↓↓↓




◎「長編小説『くちびるリビドー』を楽しROOM」というマガジン内では、〈創作こぼれ話〉も綴っています。




それでは、小説『くちびるリビドー』

1 もしも求めることなく与えられたなら

はじまり、はじまり~☆



ここから先は

55字 / 1ファイル
note版は【全20話】アップ済み(【第1話】は無料で開放&解放中☺︎)。全部で400字詰め原稿用紙270枚くらいの作品です。ここでしか読めない「創作こぼれ話」なども気ままに更新中☆ そして……やっぱり小説は“縦書き”で読みた~い派の私なので、「縦書き原稿(note版)」と「書籍のPDF原稿」も公開中♪ ※安心安全の守られた空間にしたいので有料で公開しています。一冊の『本』を手に取るように触れてもらえたら嬉しいです♡ →→→2020年12月22日より、“紙の本”でも発売中~☆

「私がウニみたいなギザギザの丸だとしたら、恒士朗は完璧な丸。すべすべで滑らかで、ゴムボールのように柔らかくて軽いの。どんな地面の上でもポン…

この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

“はじめまして”のnoteに綴っていたのは「消えない灯火と初夏の風が、私の持ち味、使える魔法のはずだから」という言葉だった。なんだ……私、ちゃんとわかっていたんじゃないか。ここからは完成した『本』を手に、約束の仲間たちに出会いに行きます♪ この地球で、素敵なこと。そして《循環》☆