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短編小説:「ある収集家達の夜」中編

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回も前回の作品の続きです。
割と長くなってしまい、「前・中・後」の三部に分けました。
あと前回のあとがきで「タイトルも内容も朧気で。」と言っていましたが訂正します、「タイトルなんてもう全く覚えてません。」
話の大まかな流れとかは大体表現できたはずです。
ちょっとでも楽しんでくれると幸いです。


【ある収集家達の夜】中編

作:カナモノユウキ


「では、次の部屋へ参りましょうか。」
海洋生物のはく製コーナーの端、同じ様な廊下の入り口が見える。
中はさっきの廊下より暗くなっていて、そして次の部屋までの距離が長い……。
私は更に屋敷の奥に向かっているという事か、なら最終目的地はこの屋敷の一番奥と言うことだな。
「次は爬虫類・絶滅生物の展示コーナーです。」
「……絶滅生物 ? 絶滅しているなら、それはもうはく製ではなくレプリカなのでは ? 」
「それが違うのですよ、まぁこちらも見てからのお楽しみという事で。…きっと驚かれますよ。」
そうして次の部屋に入った私は、世雲外の言う通り驚くことになった。
「……こんな光景、ハリウッド映画じゃないか。」
アマゾンの熱帯雨林の様な観葉植物が森の様に生い茂り、広い草原なども見受けられる大きなエリア。
ドーム球場や大きな草原を有した公園程の広さだろうか、間違いなく室内という範囲を逸脱した光景。
そこに並べられているのは、〈コモドオオトカゲ〉に巨大な〈アナコンダ〉、〈アメリカアリゲーター〉がずらり。
その他小型の爬虫類のはく製が森に散らばって飾られているようだ。
だがそんなのは分かり易いおまけだ、間違いなくメインのはく製は……あの恐竜だ。
〈ブラキオサウルス〉に〈トリケラトプス〉、恐竜には詳しくないが他にも巨大な恐竜が多数。
そして某映画で腐るほど見て憧れた、あの〈ティラノサウルス〉がド迫力で飾られている。
「お気に召されましたか ? 」
「お気に召したどころではないですよ、……コレは一体どういうことですか ? 」
「こればかりは澤枝様とて秘密にしたい内容ですが、……まぁ軽くならご説明しましょう。」
「ハイ、是非お願いします !」
「でもこちらは簡単な話ですよ、南極の奥深くの地表から氷漬けの恐竜を見つけて解凍したまででして。発見した個体に対して細胞再生処置を施したうえで、哺乳類のはく製同様に独自開発の液体を投与し作りましてな。」
「簡単に仰りますが、南極の地層からそんなものを見つければいくら何でも大ニュースになるでしょうし。色々と説明が追い付かないことだらけで……、本当に本物なんですか ? やっぱりレプリカなんじゃ……。」
「おやおや、ここまで来てまだ私を疑いますかな ? 」
「そう言う訳ではないのですが……。」
「では少し早いですが、さらに奥の部屋へ参りましょうか。」
いくら何でもそこまで信じられるほど私は馬鹿ではない、確かにすごい技術力を有しているのは理解した。
だが流石に〝南極から恐竜を引っ張り出してはく製にした〟は冗談が過ぎる、にわかに信じがたい。
それに、展示量も南極から引っ張り上げたにしては多種にわたる気がする……さらに謎が深まるな。
部屋と呼ぶのも些か抵抗がある空間を横切る際、〈ブラキオサウルス〉や〈ステゴサウルス〉の間近を通る。
「これは、生きているようだ。」……当たり前だが、今を生きる人間は本物の恐竜と言うものを知らない。
だがそんな私でも、近くで見ればその精巧なはく製に驚かされる。
正に停止した生物そのもの、過去にこの地球を歩き回っていたことをまざまざと感じさせる生命力を感じる。
世雲外が嘘を言っているとは感じないが、……このはく製はいったいどうやってできているのだろうか。
この先に、その秘密があると言うのか ?
歩いて約二十分、ようやく別の部屋へ続く廊下へ辿り着いた。
廊下はまた一段と暗さが目立ち、足元がかろうじて見えるほどだ。
「さぁ、奥に貴方が知りたがっていた秘密がありますよ。」
暗い廊下の先に光が見えて、そこへ導かれるよう足を進める。
何だか研究所のような部屋、広さはバスケットコート程だろうか。一見してもよく分からない機械が並んでいる。
四方が無機質な白い壁で覆われていて、先ほどの展示コーナーの部屋とは違い近未来的に感じるが……。
この部屋といいさっきのエリアといい、本当にSF映画の中の様だな。
「ここははく製を作る為のラボ、先ほどから申し上げている技術はここで開発したんです。」
「よく分からない機械だらけですが、あちらの軽く大型動物が入れそうな透明な筒は ? 」
「あちらははく製の鮮度を保つための、乾燥・加工装置です。あの装置を使用すれば、半永久的に毛皮などの外皮の鮮度を保つことが可能です。」
「確かに…ここまでの間に観たはく製は全て、定年劣化などはまるで感じなかったですし。通常なら環境での毛皮のへたりや、それを防ぐ為の防腐剤で独特の毛並みになるはずなのに……。〝半永久的〟なんてにわかに信じがたいですが……そんなことが本当に可能なんですか ? 」
「中々難しかったですがね、装置に取り付けられた薬品がそれを可能にしました。」
「その薬品とは、一体何なんですか ? 」
「生命停止剤と私は呼んでいます、皮膚からその薬品を摂取すると細胞から仮死状態となり。仮死状態に入れば、その細胞はどんな状況かでも停止した状態からほとんど変化は致しません。強いて言うのであれば、宇宙空間や太陽なんかに放り投げればダメージを受けるレベルでしょうかね。」
「……その技術も、ここで世雲外さんが ? 」
「ええ、私が開発しました。では、試しに装置を使ってみましょうか。」
そう言うと、研究室の脇に置かれている動物を入れるキャリーケースの中から〈ウサギ〉を取り出した。
両耳を鷲掴みにして先ほどの大きな筒の扉を開けて入れ、すぐ横の機会を操作し始めた。
ゴウンゴウンと大きな音がし始めて、扉が閉まっている筒の中に煙が充満し始める……。
放り込まれパニックを起こして飛び回っていた〈ウサギ〉が、どんどん動かなくなる。
煙で充満して、中が見えなくなってから数分後。
〈ウサギ〉は飛び跳ねようとした直前の姿勢で固まり……動かなくなっていた。
「完成ですね。」と言って取り出した〈ウサギ〉をテーブルに乗せ。
「どうぞ、触ってみてください。」と促され触ったソレは、躍動感や生命力をそのまま固定した〝死体〟そのものだった。
今更だが、少し恐ろしくなってきた。はく製の為にこんなものを作ってしまうのか…… ? 
ここに飾られているはく製は恐らくほぼ全て、この技術で作られているのだろう。
正直に言うと私は生まれてこの方こんな見事なはく製のコレクションを見たことが無い。
毛並みや匂いもそうだが、ガラスの目や天然樹脂特有の膨らみと言う外見だけ取り繕われたはく製じゃない。
正に全て〝本物を固めたはく製〟だ、こんなこと考えたとしても実現させることは無いだろう。
この〝世雲外一睡〟を除いては……。
先ほどまで興味が勝っていたが、ここに来て冷静になってしまった。
この技術を使えば、どんな生き物でもはく製にできてしまう。
例えばそう……〈人間〉とか。
もしかして、〝世界にひとつのはく製〟って…〈人間〉か ?
「どうかなさいましたか?お顔の色がすぐれませんが。」
「あぁ、いや…世雲外さんの技術力に圧倒されてしまって。本当にすごいですね……。でも、だからと言って恐竜が本物だと言う証拠は見当たりませんが、ここに何かあるんですか ? 」
「では、あちらの壁をご覧ください。」
そう言ってポケットから何かのリモコンを取り出し、壁に向けてボタンを押した。
白い壁がどんどん透明になり、その中には……巨大な倉庫が広がっていて。
視界に広がるのは倉庫ギリギリまで押し込まれた、恐竜が氷漬けになっている氷の…塊 !?
「これが先ほどお話した氷です、信じて頂けましたかな?」
「……な、何故そこまでして ? 」
「先ほども言いましたが、私だけのコレクションを作る為…ですよ。」
この建物がなぜここまでバカでかいか、なぜ人が寄り付かない山奥なのか。
なぜあんな不気味で巨大な壁に覆われているのか、……そしてなぜこの世雲外一睡を誰も知らないのか。
私は確かに思っていた、〝ヤバそうなら途中で帰ればいい〟と。
それは……恐らく今だろう。…この男はヤバい。
私もはく製に人生を捧げているつもりだ、だがこの男とは考え方や志の〝規模〟が違う。
間違いなくこの世雲外は異常だ、確かにやっていることは凄いが……常軌を逸している。
「では私の保有するはく製エリアは残り三つありますが、特に特別な場所が御座います、是非ご覧になりませんか ?それとも、目的の世界でひとつのはく製を見に行きましょうか ? 」
「……そう、ですね。」
どうする、ここで辞退を申し出てもいいのか。それとも……。
「は、はぁ !? そんな訳ないでしょう ! た、ただこのコレクションの迫力や貴方の熱意に驚いただけですから。
 わ、私はしっかりと ! 貴方の大事なはく製を受け取らせていただきますよ ! 」
……やってしまった、いつもの癖で強がってしまった。
私のプライドの高さたるや、こんな時にまで発揮しなくても良かっただろうに……。
まぁいいだろう、この施設やコレクションに驚きたじろいでしまったが。
たまたま謎の多い富豪に声を掛けられ、とても幸運なことにその方から珍しいはく製を譲ってもらうだけの話だ。
……そう、それだけの話なんだ。
「それは良かった、では私のとびっきりがある特別なはく製エリアへ向かいましょうか。」

……続く。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

タイトルが全く思い出せず、内容も朧気なこの短編映画。
……今更ですが全然違うものが出来上がりましたね。
まぁ若干自分の好きなテイストを練りこんだので。
大体「元ネタ4:僕6」と言った割合の出来です。
あとはく製を調べていたんですが、〝日本剥製協会〟なる方々が居るのですね……気になる、気になりすぎる。
正確な会員の人数は分かりませんでしたが、かなり希少な協会なのは確かなようで。
何か機会があったら、是非お話聞いてみたくなりますよね。
そういう専門的な協会の方なら特に。

と言う訳で次で最後です。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


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