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ショートショート:「文化星人の日」



【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

先月、〝文化の日〟ってお題を頂いて…文化の日でシナリオって…ムズい思いながら悪戦苦闘しました。

少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。


【文化星人の日】

作:カナモノユウキ


《登場人物》
・町田貴士(35)写真家、冒険家。
 二十代に執筆した本がヒットしてからは冒険家に転職。
・山本勇仁(??)冒険家助手。
 貴士が助手を募集したところに現れた謎の男性。

「明日、文化の日だね。」
「…うん。で?」
「いや…実はさ、貴士に言っとかないといけないこと…あるんだよ。」
「何だよ、そんな神妙な面持ちで。」
「実はさ、僕…〝文化星人〟なんだ。」

…あぁ、自分の助手兼親友が実はやべえ奴だった。うわぁ…気づかなかったぁ…。
急にそんなメンインブラックみたいな設定言い出して、しかも喫茶店でお茶してる時に言うって…こりゃ本物だわ。

「…やべえ奴だなって思たのも分かるし、メンインブラックみたいな流れかもしれない。でも本当なんだ。」
「俺の心を読むんじゃねーよ。しかも事細かく。」
「今、心に思ったことを僕が読み取ったって…理解できた?」

あぁ~、何だテレパシー的な設定出てきたな…。本物過ぎて戸惑うぜ。

「〝テレパシー的な設定出てきたな…。本物過ぎて戸惑うぜ〟って、思ったでしょ。」
「……はい?」
「思ったでしょって。」

ん?そんな言ってたような顔してたか?すげえなコイツ。

「〝そんな言ってたような顔してたか?すげえなコイツ〟って、思ったね。」
「……思ったけど。…え?」
「まだ信用してないね、よし何か適当に絶対今の状況と関係ない言葉を三つ思い浮かべて。」
「え…んなこと言われてもな…。」

関係ないねぇ…え~蟹雑炊、アダルトビデオ、ドロップキックマーフィーズ。

「〝蟹雑炊、アダルトビデオ、ドロップキックマーフィーズ〟…関係ないけどさ、関係無さ過ぎでしょ。」
「え?え?!?えぇ!?!?!?!?!?」
「信じた?」
「…信じる。え?マジ?」
「え、どっち?」
「いや、混乱だよ。混乱中。」

蟹雑炊とアダルトビデオは言い当てられるのも分かるけど、ドロップキックマーフィーズは偶然じゃありえないしな。

「蟹雑炊もアダルトビデオも言い当てられないでしょ普通。」
「いやそうかもしれんけどさ!…おい、今心の声と会話成立しなかったか?」
「したよ、だからそう言ってるでしょ。」
「えぇ!?」


――っていう話を、突然打ち明けられたんだ。あの大人しいのに行動力だけはいっちょ前の親友、山本勇仁に。
その一年前に出会って、記憶がちょっと曖昧だけど、相棒に選んだ相手が…まさか宇宙人だったなんてな。
その時の俺は驚きまくったよ、いやこんなことあるんだなぁ~ってな。まぁ、今となっては必然だったけどな!
それでその後はもう質問攻めだよ。



――「そもそも、何で言わないんだよ。そのこと。」
「行っても信じないと思って。」
「最初から今の下りやっとけばよかったじゃん。」
「そんなことより、この星の文化に触れることに忙しくて…正直どうでもよかった。」
「だからって、今言う事かよ。ビックリするわぁ~。」
「ごめん…。」
「別にいいけどさ…え?そしたらずっと俺の考えたこと分かってたってこと?」
「…うん。」
「えぇー!?先に言えよバカ!」
「何でだよ!」
「俺絶対恥ずかしい事考えたりしてたじゃん!」
「…大変だったよ、聞かないようにするの。あの子エロいなとか、あ、大便漏れそうとか。」
「言うな言うな言うな!恥ずかしい!誰でも思う事だろうが!」
「こっちだって大変だったんだよ!貴士の心の声、うるさいから。一人で部屋にいる時とか特に…。」
「え?…あー!あぁー!もういい!もういいから!この話終わり!」
「…そっちが聞いたんだろ。」
「そんなことよりさ。何で今打ち明けたんだよ、文化の日が近いから思い出したとか?」
「実はさ…。」
「何だよ、また神妙な面持ちで。アレか?〝自分の星に帰らないといけない〟的なヤツ?」
「うわぁ…ちょっと正解だよ。」
「え!?え!?!?マジで!?」
「マジだよ、じゃないと今言わないだろ。でも、ちょっと違うからね。」
「え?どういうこと?」
「文化星人はね、必ず文化の日に他の星に旅立つんだよ。」
「…なぁ、ちょっと質問なんだけど。そもそも文化の日って、日本だけの祝日じゃないの?」
「あぁ、文化の日は宇宙規模にある祝日なんだよ。日本は偶然定めたみたいだけど。意味合いも大体一緒で、〝自由と平和を愛する日〟みたいな意味で銀河全体に制定された祝日だよ。」
「話がめっちゃデカいなオイ…え?日本はたまたま同じタイミングで祝日にしてるってこと?」
「日にちの数え方とか色々誤差はあるけどね。」
「へぇ~、すげぇな日本。」
「ね、ビックリだよね。」
「なぁ~ってそうじゃねーよ!え!?他の星に旅立つ!?」
「うん。」
「文化の日って、明日だぞ?」
「うん。」
「〝うん〟じゃねーよ!早く言えよそう言うのは!」
「ごめん…本当に忘れていたんだよ。」
「忘れてたで済むかよ!え!?お前との生活明日で終わり!?」
「…本当にごめん。…貴士との生活、楽しくてさ。つい、忘れてしまったんだよ。」
「そんなこと言われたら…責めるに責められねーだろうが…。」
「勝手に居なくなったりは…したくないからさ。」
「それは当たり前だ!勝手に居なくなったら探しまくるわ!…それで、明日の何時に出発すんだよ。」
「文化の日が終わる瞬間、他の星にワープする。」
「あ~ってことは…あと34時間しかねーのか。…よし。」
「どうしたの、急に真剣な顔して。」
「34時間、冒険しまくるぞ勇仁。」
「えぇ!?」


――もうさ、そんなこと言われたら冒険するに決まってんじゃん。親友だぜ?
その時に聞いたけどさ。何か催眠掛けて俺に取り入ったらしいんだけどさ。
途中からどうでもよくなるくらい俺との生活楽しかったらしいんだよ、そりゃそうだよな!
だって俺だぜ?この世紀の冒険家!町田貴士様だぜ!色々連れまわしたしさ、色々やったし。
インドにエジプト、アメリカ横断に万里の長城歩いたり。
確かに俺と一緒に居れば、地球の文化には触れ放題だよな。
でもさ、日本の文化にあんまり触れてないことに俺はその瞬間気が付いたんだよ!


――「それで、何する気?」
「これから先ず京都に行く!」
「京都!?」
「寺とか色々見た後には、そのまま大阪でお好み焼き食うぞ!」
「京都に大阪…冒険好きな貴士には大人しい気が。」
「それだけじゃねーよ、腹が満たされたらそのまま最終の飛行機で函館に飛ぶ。」
「函館!?北海道の!?」
「そこ以外何処あんだよ!んで海産物食ってから、最後は富士山に登るぞ。」
「…今からそれ全部やる気?」
「当たり前だろ!」
「………。」
「どうした?」
「うわぁ。」
「頭ン中呼読んでも無駄だぞ?一年一緒に居てそんなことも分かんねーのか?」
「いや、そうだけど…まぁ最後だしね。」
「ほら!さっさと立てよ!時間は待っちゃくれないぞ!」


――それからは近所にお茶しに行った格好で新幹線飛び乗って、清水寺とか金閣寺とか見に行って。
日本の建物の凄さぶちかましてか~ら~の!大阪で日本の粉もの料理の美味さを伝えてやったわ!
もうさ、一年一緒に居て何度も楽しい時間や感動する瞬間はあったけど。
初めてだったな、あんなに楽しそうな勇仁は。
思い返したら、冒険家助手を探してた時にアイツが現れて。催眠で自分を選ばせたって言っていたけど。
実はさ、最初から俺は催眠なんて掛けられなくても勇仁を選んでいたと思うんだよ。
だって、あんなに異文化を受け入れて学ぶ奴なんだぜ?そんなヤツ、勇仁以外に見たことないからさ。
そのまま休む暇なく函館に飛んで、お互いアドレナリン出まくっていたのか睡眠なんてとらないで。
朝五時には函館の朝市行って海鮮丼食って日本の海産物お見舞いして、そのまま富士山に向かったよ。



――「まさか、本当にここまでやるとはね。」
「どうだ、日本の文化は凄いだろ!」
「日本の文化も凄いけど、更に言えば貴士の行動力も凄いよ。」
「冒険家舐めんなよ?俺は有言実行すんだよ。」
「色々星を渡り歩いているけど、こんな生き物に出会ったの初めてだよ。」
「そうだろうとも!俺は宇宙規模で唯一無二だからな!」
「そうだね。はぁ…離れたくないな。」
「なぁ、そのワープだっけ?回避できないのか?」
「出来ないね。…以前も何とかしようと思ったけどダメだった。文化星人はこの銀河の文化を知って、より良い文化を残す使命がある…抗えないんだ。どうやっても。」
「…そうか、お前嘘つかないしな。なら!心残りの無いように!残りの時間楽しんで異文化交流していかないとな!」
「…貴士は、本当に唯一無二だね。」
「だろ?」


――その日の富士山は生きて来た中で一番きれいな光景だったよ。
高校卒業してから一人旅してさ、写真撮っては売って。いつしか写真家になって。
写真集とか色々成功し始めて、でもさ…成功し始めると怖くなるんだよな。なんせそれが成功だって思ってないから。
偶然世間に認められただけで、俺の力じゃなくてその景色の力でしかないからさ。
手に入れた印税とかも結構な額になってから、旅をしてまた色々世界に発信して。
いつからかな、冒険に逃げてた気がするんだけど。…勇仁に出会ってからは楽しかったんだよな。
あ、友達って良いなって。ずっと一人で藻掻いていた気がしたからさ。
たった一年、されど一年!…アイツは、助手であり、生涯の親友なんだ。



――「凄いな…エベレストにも行ったはずなのに、こんなに疲れるなんて…。」
「寝ていないし…正直このコンディションは登っちゃいけないけど…そんなこと言ってらんないからな。」
「…にしても、日本の自然は改めてすごいね。…この富士の眺め、一か所一か所の力強さ。感動だよ。」
「そうだな…日本最高だな!」
「なんか…変な意味に聞こえるけど…、まぁいいか。」
「休憩挟みながら、一気に頂上目指すぞ。」
「…あぁ。」


――勿論さ、頂上行ったとこでもう時間が無いのは分かっていたよ。
だけどさ、最後の最後も冒険しながらアイツと別れたかったんだよな。…まぁ、俺のわがままなんだけどさ。



――「貴士、見てよ。」
「すげえな、こりゃ絶景だ。」
「夕日って、あんなに赤くて綺麗だったっけ。」
「あぁ、そうだって…あ、カメラ!」
「…いらないでしょ、もう十分目に焼き付いているし。」
「…そうだな。」
「そろそろ、頂上かい?」
「あぁ、一気に行くぞ。」


――言葉がさ、不思議と途絶えても伝わっているって分かっているから。
言葉を発さなくても笑っている勇仁が居るだけで安心させてくれるんだよな。
日は暮れたけど、何とか頂上には到着して。最後の最後、そこで鼻水垂らしながら長話したよ。
あーだこーだと、アレは…生きて来た中で一番いい時間だったな。



――「そろそろ、時間だね。」
「勇仁、お前次何処の星行くか分かってんのか?」
「いや、分かんない。」
「また今更何だけどさ、姿はどうなるんだよ?人間の姿なのか?」
「いや、これも仮の姿でね。その移動先の星の生態に準じて変化する。」
「へぇ、すげえな文化星人。」
「だろ?」
「…また、冒険しような。」
「それは…。」
「次はさ、俺が宇宙に行くよ。宇宙の冒険家になって、勇仁に会いに行く。」
「貴士…。」
「……嘘、言いてないだろ?」
「あぁ、本気なんだね。」
「当たり前だろ。俺は、有言実行なんだよ。」
「分かったよ、その時は…今日以上の大冒険にしよう。」
「あぁもちろん!約束だ!必ず大冒険しよう!そんときは…。」

…あぁ、〝元気でな〟ぐらい…言わせてくれよな…勇仁。


――つー訳で!俺はこれから宇宙に旅立つって訳だ!結構時間かかったけどな。
俺は、必ず勇仁と宇宙を股に掛けた大冒険を果たす!
その為に、先ずはアイツを見つけに行かないとな…必ず見つけてやる。
だから!新しい助手君!この大冒険家!町田貴士の旅の記録は君に任したぞ!
この宇宙の親友に再会できるその日までな!


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

そもそも文化って何なんやろうと考えて。
調べたら音楽とか衣類とか、言語とか色々もう他方を束ねた総称みたいな言葉なのかなと思って。その中で交流が一番の文化なんじゃないかと思い付き、貴士と勇仁の最後の交流というプロットが出来上がりました。

文化的な作品か?と聞かれたら、当然ノーですけど。

これが僕なりの文化の日をテーマにしたお話になります。

出会えるといいな、貴士。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

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