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ボイスドラマシナリオ:「何故」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

今回は今年の夏に出したボイスドラマシリーズ「カナモノ堂 這イ寄リシ者」の第五弾、嬉読屋しおんさん主演の「何故」のシナリオです。

楽しんで頂けると幸いです。

※コチラを聴きながら楽しむことも出来ます。
 是非、合わせてお楽しみください


【何故】

作:カナモノユウキ


〔登場人物〕
・藤堂義徳 ※〇
・藤堂真理愛 ※▲

午後八時、言い知れない緊張感の中でソファーに腰掛けている義徳。そこにおつまみを運ぶ真理愛。何かが滴る。

▲「はい貴方、今日のおつまみ。」
〇「あ…あぁ、ありがとう。」
▲「ねぇ貴方、今日は何故早く帰ってきたの?」
〇「そ、それは…たまたま仕事が早く終わっただけだよ。」
▲「そう、それは良かったわね。」
〇「最近は会社の付き合いが多かったからな…久々に羽を伸ばせるよ。」
▲「いつも、ご苦労様です。」
〇「これも…か、家族のためだよ。」
▲「ねぇ貴方、何故そんなに不思議そうな顔をしているの?」
〇「え?そ、そうかな…そう見えるだけじゃないか?」
▲「そうかしら…。」
〇「俺は、いつもと変わらないよ。」
▲「ならいいけど。」
〇「本当に、真理愛は気にしすぎなんだよ。」
▲「ねぇ貴方、じゃあ何故そんなに汗をかいているの?」
〇「こ、これは…汗をかかない訳ないだろ?今は八月、真夏じゃないか。」
▲「貴方の為に、エアコンはいつも二十一度を保っているのに?」
〇「ま、まだ外から帰ったばっかりで…汗が引かないんだよ。」
▲「あら、そうなのね…。」
〇「何だい、今日はやけに質問してくるじゃないか。」
▲「貴方のことを、気にかけているからよ。」
〇「だから、気にしすぎだと言っているだろう…全く。」
▲「ねぇ貴方、何故そんなにこちらを見ないんです?」
〇「何を言っているんだ、いつも君のことを見つめているだろ?」
▲「貴方、目が泳いでいるわよ。」
〇「そ、そんなこと…ないさ。」
▲「ねぇ貴方、何故そんなに震えているんです?」
〇「これは…少し体調が悪いのかな…。」
▲「なら、今日は早くお休みになった方がいいんじゃないかしら。」
〇「だ、大丈夫さ。一杯ぐらい飲ませてくれよ。」
▲「フフ、無理はしないでね。」
〇「あ、ありがとう。」

〇(おかしいだろ…なんでこんなことが起きているんだよ…。俺は確かに真理愛を…何故こいつはこうして俺の前で平然と喋っているんだ…。何故、笑っているんだ。)

▲「貴方、どうしたの?大丈夫?」
〇「だ、大丈夫だよ。」
▲「フフ、ビールも空のようだし。そろそろ寝ましょうか。」
〇「い、いや…もう一杯だけ。」
▲「体調、悪いんでしょ?」
〇「あぁ、でも…もう一杯飲みたい気分なんだ。いいから、もう一杯…くれ。」
▲「分かりました。」

滴る音は止まず。席を立って缶ビールを取りに行く真理愛。緊張と悪寒を感じながら時計に目をやる。

〇(今、何時だ…。もうこんな時間!?ヤバい…彼女が来てしまう、早く連絡をしないと…。)

▲「はい、これで最後ですよ?」
〇「分かっているよ…。」
▲「あらあら、何故そんな勢いよく飲むの?…何か忘れたいことでも、あるの?」
〇「そ、そんな訳ないだろ…よく冷えていて旨かっただけさ。」
▲「ねぇ貴方。」
〇「何だい、真理愛。」
▲「貴方は何故、私を殺したの?」
〇「……。」
▲「何も言ってくれないのね。…ねぇ、何故私は殺されたの?」
〇「な、何を言っているんだ真理愛。冗談を言うんじゃないよ。」
▲「冗談なもんですか、ほら。」

脱いだ服の中から、無数に出来た刺し傷が露わになる。傷から血を滴らせながら憂いを帯びた笑顔を浮かべる真理愛。

〇「うわぁぁぁーーーーーー!」
▲「貴方が開けたんじゃない。」
〇「じゃ、何故お前は生きて居るんだ!」
▲「フフフ、生きてなんかいませんよ。ただ、貴方のことが心配で。」
〇「し、心配?どういうことだよ!」

恐怖に慄く義徳。そこにインターホンが鳴る、真理愛は憂いを帯びた表情から、嬉しそうな顔に変わった。

▲「ほら、心配の種が来た。」
〇「…こ、これは違うんだ。」
▲「何が違うと言うのです?私が死ななきゃいけない理由が、今来たじゃない。」
〇「…お前、まさか…。」
▲「貴方にこんな悲しい選択をさせた女、貴方を不幸にする女。…私が、殺してあげなきゃね。」
〇「や、やめろ!やめてくれ真理愛!」
▲「私もそう言ったのに…やめなかったじゃない。」

鳴り続けるインターホン。それに応えるため、台所から包丁を手に取り、愉悦な笑みを浮かべて玄関へ向かう真理愛。

〇「真理愛…。」
▲「フフフ、フフフフフ。」
〇「真理愛ー!」

―おしまい―


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

この作品はセルフオマージュをしてみたくなり、以前書いた「食卓とヴァチュラ―」という作品を参考に書いてみました。

上記の作品では女が男を殺す様を書いて、今回の何故ではそれを逆の立場に置き換えて表現してみたくて。女性の情念が裏返った時の恐ろしさとかが出ていたら嬉しいなと思います。

明日の作品もこの【カナモノ堂 這イ寄リシ者】から、「朗読侍 助六さん」主演の作品を公開いたします。

では次も楽しんで頂けることを祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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