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タイの日本人。

本日は、私がタイに滞在していた時期に書いていた日記、エッセイ(笑) かっこわらいです。めっちゃ書き溜めていたので、
1日1個くらいのペースで投稿します。
当時撮っていた写真と併せてお送りします。
タイのゆったりとした日常を味わってください。



1月15日。日本は冬の真っ只中であろうが、私のいるタイのチェンマイは乾季も酣、日中は外にいるだけで汗が噴き出してくる。

朝、オニカッコウの鳴き声で目を覚ます。
職場に行く彼女を見送ったあと、近くのカフェへ足を運ぶ。
いつものアイス・アメリカンを頼んで本を読む。

タイに来たばかりの頃は、「海外なんだから英語だろ!」なんて意気込んで洋書を読んでいたが、日が経つにつれどうにも日本語が恋しくなる。

とうとう我慢ができなくなり、リュックのそこから和書を引っ張り出して読むようになった。

日本語を使う機会が一切ない生活において、読書は自分が日本人だというアイデンティティを思い出させてくれる大きな手段だ。

日本語の、ローコンテクストな特徴は、得てして留学生や海外在住経験者から「ハッキリしない」だの「曖昧でわかりづらい」だの否定的な意見を聞くことが多いが、こと文学や詩などの表現創作物においてはこれほど素晴らしい言語はないと思う。(自分の知るほんの数カ国語の中だけの話であるが….)

背後にある意味を拾おうとする読者の試みが、物語に無限の広がりを生む。

カフェを出た後は、特に目的もなく、チェンマイ旧市街の城壁に沿って散歩をする。

しばらく歩くと、一際賑わったエリアにたどり着く。
ターペー門である。

チェンマイは非常に独特な形をしている街であり、それは、13世紀から19世紀のおよそ600年間、王国の首都として栄華を誇ったチェンマイの城壁、その中にある旧市街、外部と内部を結ぶ5つの門を中心に成り立つ。
特に東側に位置するターペー門は、観光スポットとして毎日多くの外国人で賑わう。

面白いのが、この600年の歴史を誇るターペー門では度々、ライブのイベントやムエタイの試合が催される。
ターペー門が築かれた13世紀といえば、日本では鎌倉幕府の時代である。
鎌倉時代の建造物がもし今も残っているのであれば、間違いなく文化遺産に指定されるだろう。

その時代に築かれた歴史的建造物でムエタイの試合とは….笑
日本人の感覚からは理解できない。

さらにそのターペー門から歩いて20秒ほどの場所には、スターバックスやマクドナルドなど、外資系のフードチェーンが軒を連ねている。

うーん。笑

まあ確かに、チェンマイ随一の観光客数であるターペー門のそばに、外資系の飲食店を誘致すれば、利益を最大化できるというのは理にかなっているのであろうが、日本人的な感性だと、自国の誇る歴史遺産から歩いて数秒の場所に飲食店、それも外国のフードチェーンを開く、というのはあまり肯定的になれるものではない。

ここで私は、ふと気がつく。

なんだ、日本語で読書なんかしなくても、散歩をするだけで私の中の日本人性を確かめることができているではないか。

外国語で生活をし、外国の生活様式に染まっていく自分の中に、希薄になりつつあると感じていた自分の日本人としての感性は、私の心にしっかり根っこを下ろして離れない。二十数年のうちそのほとんどを日本で暮らしていたのだから、そう簡単に消えるはずがない。当たり前である。

そういえば、今朝コーヒーを受け取る時も、店員さんに軽く会釈をしたっけ。

外国での生活が長くなるにつれて、自分の日本人としてのアイデンティティが消えてしまうのかもしれない、なんてものの数ヶ月の生活で不安になっていた自分が少しおかしくて笑った。

私は、話す言葉が変わっても、暮らす場所が変わっても、今日も日本人である。

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