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新型コロナ時代こそ漢方(10) 実は存在しているコロナ治療薬はコレ、中国政府が認めた「清肺排毒湯」その3


日本初!「清肺排毒湯」の材料ごとの効能とは


では、「清肺排毒湯」の全原料である、21種類の生薬のひとつひとつについて、説明していきます。

本記事のような生薬別の解説は、この記事を書いている5月1日時点で、おそらく日本語では初めての試みだと思います。

2月上旬に「清肺排毒湯」が発表されていますが、ウェブ上では生薬別の情報まで掘り下げた記事はなく、3月以降に日本感染学会などで発表済みの論文や中国政府が発行するガイダンスの引用にとどまっている印象です。

また東洋医学では、陰陽・実虚・五行、と枚挙にいとまがない独自の概念と専門用語で体質や症状を診断・表現します。そのため、漢方や東洋医学の知識や興味がないと、読みこなせない記述が多い気がします。

なので、ここでは漢方にあまり興味のない方も読み進められるように、東洋医学用語を避け、わかりやすい言葉に端的に記しておきます。

そうすることで、できるだけ多くの方に「清肺排毒湯」やその他の漢方の入手に興味をもってもらって、万一のコロナ発症に備えることができたら、というのが本記事の目的です。

(アメリカや中国式の漢方(厳密には中医薬)の視点を、ずばり専門用語で語ろうとも考えたのですが、それはプロ向け版の別記事にしようかと思っています。)

特に中国で処方された際に、それぞれの生薬を用いた意図、のようなものを意識しながら説明してみたいと思います。

予備知識:新型コロナウイルス症状の4段階


「清肺排毒湯」を理解するにあたり、新型コロナウイルス症状の治療における段階の定義を記しておきます。

多少区分や名称に差はありますが、中国の各種治療ガイダンスを見る限り、大まかには下記の4段階の定義がコンセンサスです:

1)予防期:ウイルスに感染していない、または感染の疑いがあるが発症していない段階
2)流感期:いわゆる風邪の症状、新型コロナ陽性かどうかにかかわらず、政府のガイダンスでは自宅待機が推奨される期間
3)肺炎期:息苦しさ、呼吸困難、高熱など、政府のガイダンスで医療機関での治療が求められる期間
4)回復期:症状のピークが去り、慢性化した咳や弱った体力などの身体機能の正常化に努める時期

(各段階の詳細も、また別記事にしようと思っています)

このうち「清肺排毒湯」は 2)流感期 と 3)肺炎期をカバーするとされています。

つまり、何らかの発症があり、新型コロナウイルス陽性が確定かにより陽性が疑われ、風邪状の症状、その悪化、および肺炎症状の段階です。

これまでなんども言及しましたように、本来漢方の投薬は、それぞれの段階で、漢方の専門治療家が患者の体質と症状を見きわめることによって、処方が何通りにも分かれるところなのです。

しかし、専門家や他の漢方の選択肢がない時でも、医療現場の誰もが投薬できるように、「清肺排毒湯」ひとつで、最も投薬が有意義で、できるだけ幅広い症状を抑えるようにした結果、21種類の生薬になったようです。

ですので、発症前の1)予防期 と 発症後の4) 回復期に服用するには、「清肺排毒湯」は強すぎ、逆効果です。あくまで発症中の漢方であることをご留意ください。

(予防期と回復期の漢方処方については、また別記事で紹介したいと思います)

また服用サイクルは一日3回を3日間で1クールとされており、最長で9日間の投薬だそうです。最初の3日の改善具合で、もう3日間追加するかを決めるとされています。また入院中の投薬では西洋医療の併用が前提になっています。

逆に言うと、その3日間の服用している間に、何らかの症状の改善が想定している処方であり、実際最初の3日で9割以上の患者に何らかの改善がみられたと複数のレポートで報告されています。

その3日間で改善しない場合、特に3)の肺炎期の後期で肺炎症状が悪化し、自己免疫の暴走によって急激な炎症が全身に起きるサイトカイニンストームの段階では、日本では不可能な漢方薬注射や、さらに強い漢方処方の投薬が中国国内向け医療ガイダンスで言及されています。

ただし、サイトカイニンストームは非常に重篤な症状で、一旦始まってしまうと東洋医学と西洋医学の両方の力をもってしても、サイトカイニンストームを食い止めて体調を回復させることは非常に困難と言われています。

よって、3) 肺炎期の早い段階までで、ウイルスの増殖と炎症の進行を食い止め、症状を緩和することで身体機能の改善を図ることが重要です。


「清肺排毒湯」に含まれる21種類の生薬


以下、参考までに各生薬の植物名、主な効能、主要成分を記しておきます。

漢方薬と言うとなんだか中身がナゾな感じがしますが、こうやって書き出すと、割となじみのある植物や食料が使われていることがわかります。

スパイスやアロマにも登場する原料や効能があるので、親しみがわくかもしれません。

また、それぞれの単独作用をざっと読み進めていくとと、新型コロナウイルスの典型的症状に対する効能が繰り返し見受けられ、意図をもって処方されていることも感じていただけると思います。

厳密には、中医学では組み合わせによる相互作用や相乗作用、副次的作用なども鑑みて処方されているのですが、深入りするとそれだけで本が書けてしまいそうなので、ここでは割愛することにしますね。

麻黄 (マオウ、Ephedrae Herba)
9g: 
スギナに似た植物の茎です。主成分エフェドリンによる、中枢神経および交感神経興奮作用があります。主な薬効は鎮咳、去痰、抗炎症、発汗、解熱です。各種COVID-19および肺炎・気管支炎における呼吸困難の治療に、最も有用な生薬と考えられています。

石膏 (セッコウ、Gypsum Fibrosum) 15-30g:
白色の天然鉱物で、含水硫酸カルシウムです。解熱、鎮静、消炎作用がCOVID-19の高熱症状を緩和します。(※体を冷やす作用が強いので、高熱の有無で量を調節すべきとされています)

杏仁 (キョウニン、Armeniacae Semen) 9g:
アンズ(アプリコット)の種子で、アミグダリンという成分に鎮咳や去痰作用があります。

細辛(サイシン、Asiasari Radix) 6g:
アオイに似たウマノスズクサ科の根。強い鎮咳、去痰、解熱、鎮痛作用は主要成分のメチルオイゲノールによるものです。

射干 (ヤカン、Belamcanda Rhizome) 9g:
 アヤメ科ヒオウギの根茎です。抗菌、消炎作用、血圧降下作用があるといわれています。イソフラボン配糖体のイリジン、ベラムカンジン、テクノリジンなどが成分です。特に咽喉痛、扁桃腺炎など喉周辺の疾患に応用されます。

紫菀 (シオン、Aster Tataricus Radix) 9g:
野菊の一種、観賞用の花でもあるアスターの根を使用します。鎮咳・去痰・利尿作用があります。アスターサポニンが主成分でその他シオノン、エピフリーデリノールなど。

款冬花 (カントウカ、Tussilago Farfara Flos) 9g:
キク科のフキタンポポの花蕾部分です。鎮咳・去痰作用があり、喘鳴や痰に血が混じるような肺にダメージがみられる場合に使われます。

半夏(ハンゲ、Pinellia Rhizome Cum Zingibere el Almine) 9g:
サトイモ科カラスビシャクのコルク層を除いた塊茎部分です。主要成分はホモゲンチジン酸。鎮静・鎮吐・鎮咳・去痰作用があります。その他の成分はジヒドロキシベンズアルデヒドジグルコシド、アラビノガラクツロナン、エフェドリンなど。

生姜 (ショウキョウ、Zingiberis Rhizoma) 9g:
ショウガの根茎で、料理でおなじみのあの根っこの食材を乾燥させたものです。 健胃・矯味としての効能があり、成分はジンゲロール、ジンギベレン、ガラノラクトンなどです。

茯苓 (ブクリョウ、Poria Sclerotium)15g:
サルノコシカケ科マツホドの菌核の外皮を除いたもの。利尿・浮腫・健胃・めまい防止・精神安定に作用。成分には多糖類、エブリコ酸、パキマ酸、パヒマン、エルゴステロールなどがあります。水分代謝をあげることにより、COVID-19の症状にみられる、吐き出しにくい肺の内部にたまる痰を間接的に緩和する目的があるとされています。

猪苓 (チョレイ、Polyporus Sclerotium) 9g:
サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核。エルゴステロール、α-Hydroxytetracosanoic acid 、ビオチンなどが成分です。利尿・消炎作用があります。

沢瀉 (タクシャ、Alisma Rhizome) 9g:
水湿地などに生えるオモダカ科サジオモダカの根茎で、成分はアリソール、アリスモール、カリウム塩、アミノ酸、ビタミン、レシチン、デンプンなどです。利尿・止渇・血圧降下、および冠動脈拡張・抗脂肪肝の作用があります。

白術 (ビャクジュツ、Atractylodes Rhizome) 9g:
オケラ又はオオバナオケラの根茎(ワビャクジュツ又はカラビャクジュツ)。 健胃・利尿・整腸・止汗作用があり、主成分はアトラクチロン。アトラクチノリド、ジアセチルアトラクチロジオール、アトラクタンなども含まれます。浮腫や腎臓・胃腸機能の改善に効果があります。

桂枝 (ケイシ、Cinnamonni Ramulus) 9g:
クスノキ科トンキンニッケイ(シナモン)やその他同属植物の小枝。効能には発汗・解熱・鎮痛・消炎・整腸。抹消血管拡張や抗菌の作用もあり、停滞している体の機能を高めるとされます。風邪で有名な葛根湯にも入っています。主要成分はケイヒアルデヒド、ケイヒ酸など。

柴胡 (サイコ、Bupleuri Radix) 16g:
セリ科ミシマサイコの根です。サイコサポニン、スピナステロールなどが主要成分で、中枢抑制により、強い消炎・解熱・解毒・鎮痛の薬効があります。ストレス、慢性肝炎、慢性腎炎、代謝障害、マラリアなどが適応の処方によく使われます。

黄芩 (オウゴン、Scutellariae Radix) 6g: 
乾燥地帯の山の草地に自生するシソ科コガネバナの根の周皮を除いたものです。解熱・緩下・利尿・抗菌・・抗アレルギー・解毒作用があり、肝機能の活性化も促します。主要成分はフラボン誘導体のバイカリンが約10%、その他オウゴニン、バイカレイン、オウゴノシド、オウゴニンなどのフラボノイド類、またステロイドのカンペステロールなどです。

山薬 (サンヤク、Dioscorea Rhizome) 12g:
ヤマノイモ科ヤマイモ又はナガイモの皮を除いた根茎。食卓でおなじみのトロロイモです。ステロイドのジオスゲニンが主要な成分。デンプン、糖蛋白質、アミノ酸、コリン、アラントインのほか、ジアスターゼ、カタラーゼ、ムチンを含みます。滋養強壮・止渇・止瀉・鎮咳作用があります。脾胃虚弱、食欲不振、身体疲労、腸炎、夜尿、盗汗に有効とされています。

枳実 (キジツ、Aurantii Fructus Immaturus) 6g:
ミカン科ダイダイ又はナツミカンの未熟な果実を横切したもの。ナリンギン、リモネン、ヘスペリジン、など芳香性苦味に健胃・去痰・抗アレルギー作用があります。

陳皮 (チンピ、Citrus Unshiu Peel) 6g: 
いわゆる日本のミカン、ミカン科ウンシュウミカンの成熟した果皮。 ヘスペリジン、リモネン、ナリンギン、ノビレチン、シネフリン、クエン酸、ペクチンなどフラボノイド、芳香性成分が含まれています。健胃・駆風・鎮咳作用などに効果 健胃・鎮吐・胃液分泌促進や去痰・鎮咳・鎮静・抗炎症などの作用があります。

藿香 (カッコウ、Pogostemi Herba) 9g: ハーブ精油の原料、シソ科のパチョリの根以外の部分を使用します。解熱・鎮吐・健胃作用によって、食欲不振、消化不良、暑気あたり、下痢、悪寒、頭痛、副鼻腔炎といった夏風邪のような症状に適応します。主要成分は芳香成分が主で、オイゲノール、パチョリアルコール、メチルチャビコールなど。

炙甘草 (カンゾウ、Glycyrhizae Radixを蜂蜜で炒ったもの) 6g: 甘味料として使われるリコリスの一種の根の部分で、グリチルリチンが主成分。去痰、鎮咳、消化性潰瘍、抗炎症、鎮痛、解毒作用があり、COVID-19の症状を包括的に緩和します。

参考:
https://www.ominedo.co.jp/crudedrug/poria_sclerotium/
https://dentomed.toyama-wakan.net/ja/%E7%94%9F%E8%96%AC%E5%AD%A6%E8%A1%93%E6%83%85%E5%A0%B1/
https://takeda-kenko.jp/kenkolife/encyclopedia/illustrated/
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