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議論は「論破」のためじゃない。「優しい人」になるためにある。

今週の上久保ゼミの1対全員の討論「クリティカル・アナリティクス(CA)」では、「死刑廃止論」がテーマとなった。

立論者(1人)が「死刑存続論」に立ったが、「死刑廃止論」の討論者(全員)に押されて、答えに窮する場面が続いた。その時、「廃止論」の側から、何度も「がんばれ!」という声が立論者に飛んだ。

私は、議論が終わった後の講評で、その場面を「とてもいいことだ」とほめた。

そして、この姿勢はゼミの中だけではない。社会に出ても続けてほしいと言った。

CAは、1対全員がお互いに絶対に同意しないことをルールとしているが、もう1つ重要なルールがある。それは、

「自分の元々の考えと逆の立場で立論すること」

である。そして、討論者側(全員)も、

「自分の元々の考えと違っていても、立論者に反論をし続けなければならない」

というルールだ。

このルールを前提に議論しているから、立論者が答えに窮する場面では、討論者は攻め立てていても、「立論者は元々の考えと違うことを言っているのだから、大変だな」と心の中で思う。

また、全員が順番に立論者になり、同じ苦労をする。だから、お互いの気持ちがわかる。

私は、議論においては、このような自分の「思い入れ」や「感情」から一歩距離を置いて望むことが非常に大事だと思っている。

議論とは、ロジックを競うものであって、相手の人格や人間性そのものを攻撃するものではないからだ。

この姿勢で議論に臨めば、世論を分断するような難しい課題でも、ロジックだけでクールに議論ができるようになる。

例えば、noteで以前で取り上げたが、憲法改正にかかわる問題を議論したことがある。

この時は、立論者のゼミ長・マエさんが「平和主義」の立場になり、その主張を代弁した。そして、その他全員がそれをありとあらゆる角度から、論理的に批判する側になった。

いわゆるリベラルの「平和主義」があらゆる角度からロジカルに、批判的に検証されたことは、あまり聞いたことがないと思う。

日本の憲法・安全保障が議論されるときは、ほぼ保守派が批判される側になり、リベラル側が追及する側になってきたのではないか。

リベラルの「平和主義」は、保守派の粗っぽい感情的な批判を除けば、論理的な議論の対象にはなってこなかった。いわば、アンタッチャブルなものになってきた。

それをロジカルな議論とできたのは、

1.立論者は元々「平和主義者」じゃない
2.討論者は、立論者に反論し続ける

というルールがあるからだ。立論者と討論者、お互いの本来の人格から一歩距離を置いたところで議論をする。

例えば、最初の立論者の論点説明のところで、マエさんはほとんど「共産主義者」を演じていた。それをみて、ゼミ生はクスクス笑いながら聴いていた。

立論者も討論者も、ある種の「パロディ」なのだ。だからこそ、難しい問題を一歩引いて議論ができたということ。

私は、CAで身に着くものを、noteで以下の通り説明している。

『3.多文化共生社会を生きる人になるために

 そして、最も大事なことですが、このトレーニング法を続ければ「優しい人間」になれることです。メンバーは誰でも一度は「討論者」になり、全員からの批判に耐えないといけません。本当に大変なことを、みんなが経験することで、相手の立場を思いやることができるようになります。また、社会問題には、本当にいろんな立場、いろんな考え方、意見、主張が存在することを身をもって知ることになります。それは、社会にはさまざまな人がいることを知ることにつながります。さまざまな人がいることを知れば、ヘイトな発言など絶対にしてはいけないということを知ることになります。

 つまり、クリティカル・アナリティクス(CA)は、単なるディベート・トレーニングにとどまらず、多文化共生社会によりよく生きる人間を育成するトレーニング法でもあるのです。』

今の世界の風潮は、敵・味方に「分断」し、感情的になって相手を叩き潰すまで闘い続けることである。

例えば、韓国の戒厳令だ。韓国は、保守派が慶尚道、リベラル派が全羅道と地域で別れて激しく対立し、「分断」する特徴がある。

そんな韓国で、少数与党となり議会を野党に占拠され、政権運営がままならなくなった尹錫悦大統領は、

「内戦が起こっている」

と、ある種の錯覚を起こしてしまった感じがする。残念なことだ。

議論とは、相手を「論破」し、叩きのめすためにあるものじゃない。いろんな考え、いろんな人生を歩んできた人がいることを知る、そして、よりよき社会をともにつくっていく、「優しい人」になるためにある。

そんな考えが、日本に、世界に広まってほしいと思う。上久保ゼミのCAは、そのささやかな一歩だと思っている。


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