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暗幕のゲルニカ


原田マハ作品を読んだのはこれで2冊目だった。
最初に読んだのは「楽園のカンヴァス」

どちらも魅力的な作品だったが、この小説を読んで自分が感じたことを文字に起こしたくなり書いてみた。


楽園のカンヴァスは読み終えたとき、しばらくはそのときめきが覚めなかった。暗幕のゲルニカにも出てくるように「とある冒険」があまりにもロマンチックで、素敵な夢から目が覚めたときのような気持ちになった。

一方、暗幕のゲルニカは熱量合戦のような、魂のぶつかり合いを見せつけられたような物語で、楽園のカンヴァスのうっとりするようなロマンチックさとは違ったゾッとする興奮が何度もあった。


パルド・イグナシオは頼もしく、情熱的でありながら紳士で気品がある。文字だけでもその姿に想像が膨らんだ。
ピカソという偉大な画家とその作品に真摯に向き合い信念を貫くパルドの成長の様子には胸を打たれる。


写真家であり、ピカソの愛人であったドラの葛藤は9年にも及んだ。
ピカソの偉大さを目の当たりにして、その才能に恐れすら感じながらも、その怪物からの愛情を一身に感じようと必死だったドラ。
自分以外の女に他する敵意をむき出し、嫉妬心に燃えるときもあったが、それでもピカソの前では手放したくないと思われるよう自分の感情を押し殺す努力をしていた。

妻でもなく、娘もいない。何者でもない自分のポジションへの不安は底を尽きることはなく、ピカソの姿が見えなくなると捨てられたのではないかと落ち着きを失っていた。

ピカソは自分がいなくてもいきていけるが、果たして自分はどうだろうか。

ドラは自分の方が妻や、他の愛人よりも愛されているという証明が欲しかったに違いない。
女としてピカソの愛情を独り占めしているのはこの自分だと思わせて欲しくても、そんなこと要求できる立場にいない自分をドラはどれだけ悔しく思っただろうか。

捨てられたく無い一心で、気丈に振る舞い続けるドラの姿には、読み進めるうちに愛おしさを感じた。


ピカソの作品にも歴史にも女性の登場は多い。
実在したピカソが、本当にこの小説に描かれているような人物なのであれば自分も同じ時代を生きてみたかったと思うほど魅力的だった。

あくまで個人的に、他の小説や映画の中で語られるピカソは、天から授かった「才能」と言われるものを持ち合わせ、自由で気分屋で自信家で、女にだらしない高慢な男という皮肉な印象を感じることが多い気がするが、この小説では違った。

ピカソは才能と言われる特別な力で絵を描いていたのではなく、絵を武器にして捉えた本質を、鋭い刃物を突きつけるようにその絵を見た者の感情を揺さぶるような表現で訴えかけていた。

その描かれる様子はまさに怪物だった。



現代の物語とピカソが生きた時代の物語が交互に描かれていて、ミステリーとしても魅力的な作品だったが個人的にはピカソがメインで進んでいく物語の方が印象が強かった。


自分が知らない時代に、実在した人物の話だからこそ馳せる思いが強く想像を掻き立てられた。

ピカソがより好きになるアートミステリーだった。


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