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#創作大賞2023

金の籠 1

金の籠 1

あらすじ

突然に見も知らぬ異形の籠に閉じ込められた依子。
安楽で恐ろしい日常に慣れそうになったその時に、小さな男の子と出会う。 守ること、守られること。生きること、自由のないこと。
金の籠に閉じ込められたすべては、依子の知らない世界だった。

夜道 ぼんやりと目を開くと、きらきらと輝く金色が見えた。視界の中心から放射状に金色の紐のようなものが伸びている。太陽みたいできれいだな、と依子はぼんやりし

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屋台に今夜も灯はともる その弐

屋台に今夜も灯はともる その弐

あらすじ!!!
福岡は博多のビジネス街の一角。
深夜のみ営業の屋台のメニューは一風かわっている。
ラーメンとおでん以外は店主の胸一つ。
今夜も終電に見逃され、家に帰る気力もない。
そげな、あんたを、今夜も大将が、待っとるバイ!

二品目 手向けのビール

 人が落ちていた。深夜の細い路地に。大の字で手足はバラバラの方を向いていた。暗い道で事件でも起きたのかと、ぎくりと心臓がはねた。
 幸太郎はラン

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屋台に今夜も灯はともる その壱

屋台に今夜も灯はともる その壱

あらすじ!!!
福岡は博多のビジネス街の一角。
深夜のみ営業の屋台のメニューは一風かわっている。
ラーメンとおでん以外は店主の胸一つ。
今夜も終電に見逃され、家に帰る気力もない。
そげな、あんたを、大将が、待っとるバイ!

一品目 サバのハーブグリル

 履き慣れないハイヒールのせいで爪先が痛み、かかとには靴擦れが出来ている。この世の終わりのような気持ちで、華夜は足を引き摺るように歩いていた。

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みそ汁セロリ

みそ汁セロリ

「美夜子は本当になんでも食べるよな」

 秋良に言われて、具だくさんのコブサラダをもりもり食べている美夜子は苦笑いする。

「あなたが好き嫌いし過ぎなの。食べられるものが数えるほどしかないって、よくそれで大人になれたね」

 二人で一緒に暮らし始めても、食事の支度はそれぞれ別にしていた。理由は秋良の偏食だ。

 肉とじゃがいもしか食べない秋良のためにレシピを考える必要性を美夜子は感じなかったし、秋

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小雨の日に

小雨の日に

「溝口さんって冷たいよね」

掃除の時間、ホウキを手にお喋りしてサボってる二人がヒソヒソ言っていた。

丸聞こえなんですけど。

そう思いながら彼女たちの後ろを通りすぎた私の視線は、間違いなく冷たかっただろう。

私が冷たい? そんなこと、私が一番知っている。

中学受験をして私立の女子校に入った。

公立の中学校に行くと、今と同じメンツと顔を会わせ続けることになる。

女子はまだいい。でも、男子

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目指したのは、シャンチニケタン

目指したのは、シャンチニケタン

 その日本人大学生から初めてのメールが届いたのは三週間前。個人旅行でインドに来るのだという。

 泰三は返信メールで歓迎の意を表し、個人ガイドを雇いたいと思った経緯を質問した。
 しかし初めの一通以来、大学生からのメールはなかった。ひやかしだ、いつものこと。
 泰三は他の仕事に忙殺された。

 忙殺と言っても日本のように身を粉にして働くようなことはしない。
 インド時間で働いている泰三にとっての忙

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