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爪木埼灯台にて迎えた夜明け〜Mr.Children「Sign」のジャケット写真ロケ地を訪ねて

いつからか世界に対して何事にも興味を持てなくなっていく自分になってしまっていた。もっと言えば生きることにすら大した意味を感じられないつまらない大人になってしまっていた。そんな自分を変えたいと思った時、何故かぼんやりとこの Mr .Childrenの楽曲「Sign」のジャケットに写った爪木埼灯台が浮かんできた。いつもならば、ほぼ伊豆半島の先端に位置するこの場所まで訪ねようとは思わない。だけど今回はどうしても今行かなければいけないと思えたのだ。

中学生の頃に病を患い長い入院生活をした時に音楽に支えられたことがきっかけとなって、いつか自分も音楽で誰かを勇気づけたい、苦しさから抜け出すためにその背中をそっと押してくれるようなそんな音楽を歌を創って奏でたい、そんな夢を抱くようになった。夢を見つけて病院を出た時の世界は眩しかった。何もかもが新鮮で輝いて見えた。病気と付き合っていく難しさもあったけれど、それよりも音楽を通じて出会う人や出来事が楽しくて嬉しくて生き甲斐だった。

そうした生活の中、たしか高校生の頃に聴いていたFMラジオの番組でMr.Chidrenの音楽と出会った。曲は「君がいた夏」だったと思う。それからというものMr.Childrenの音楽はいつも僕の人生の岐路に立った時にそばで寄り添ってくれる大きな存在となった。何十年も経った現在も変わらずに。

やがて4年制の大学を卒業してフリーターをしながら音楽活動を続けて夢の実現を目指す日々。現実はそうは甘くない。華々しいエンターテイメントの世界は狭き門。音楽を始めた頃の輝きはどこかへ消えて、自分の奏でたい音楽・歌がわからなくなった。ユニットを組んでいた相方もソロ活動に専念すると去っていった。先の見えない状況が続き、やがて体調も悪化。しばらくの準備期間を経て20代の半ばを過ぎて介護・福祉の職に就くこととなった。

夜明け前の爪木埼灯台へ向かう道

それからは介護・福祉の仕事と資格取得のための勉強に明け暮れた。その世界で出会った上司やスタッフそしてご利用者さんにも支えられて、気がつけば17年間以上もの間身を置かせて頂くこととなった。音楽は大切な宝物ではあったが、志半ばで諦めた大きな傷でもあった。そのせいか、夢中になってはいけないと心のブレーキをかけながら、距離を保っての関係性となっていった。

介護・福祉の仕事は大変なことも多くあるが、やりがいのある仕事だと感じていた。だからこそ、少しでも成長してより良い仕事ができるようにと、介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員などの資格を得て、職種を変えながら継続してきた。なのに何故か、給料も最初の頃より随分上がって、自分の思うような仕事ができるようになってきたはずの今になって、新しい目標が何も見えなくなってしまった。

夜明けを待って

人生の折り返し地点はおそらく過ぎた今、かつて中学生だった自分が一番嫌いだったつまらない大人に自分がなってしまったようで、とてつもなく哀しかった。2022年を迎えてしばらくして気持ちが決まった。周りの目を気にすることなく自分が変わろう。もう一度自分がどう生きたいのか考えてみよう。限りある時間を悔い無く過ごすために。きっとそんなことを考えていたから「Sign」のジャケットの爪木埼灯台が脳裏に浮かんできたのかもしれない。

残された時間が僕らにはあるから
大切にしなきゃと 小さく笑った

「Sign」作詞:桜井和寿


すべてを捨てる覚悟を持ってもう一度生きてみよう。他人から笑われても理解されなくても、自分の人生をしっかりと歩いていこう。そんな風に考えることでずっと靄がかかっていた視界が開けてきた。正面から向き合うことが難しくなっていた
大好きなMr.Childrenの音楽もまた身体中を駆け巡り始めた。

朝陽を浴びる爪木埼灯台


知らず知らずのうちに守りに入っていたのか、慣れたことだけを繰り返してなるべく波風を立てず、疲れないように生きていく毎日を選んでいた。でも今年に入って迷ったら実行することを選んでみる。生まれて初めての体験を積極的に行ってみる。ワクワクすることを計画する。わからないことを学んでみる。遅すぎると思わずに今だからできると考える。これらのことを実行していくうちに徐々に日常の中で眩ゆい光を感じられるようになってきた。


2022年9月16日。ずっと行ってみたかった場所、爪木埼灯台へついに降り立つ。夜中の1時半頃自宅を出発して車で約3時間ちょっと。片道120kmの長距離ドライブ。こんな学生時代のようなワクワク感をまた味わうことができたのも嬉しい。ついさっきまで真っ暗だった夜空が段々と色を帯びていく。まだ暗い公園の林を抜け坂を登っていくと遠く染まり始めた空と灯台が姿を現す。言葉にできない感動が湧き上がる。大袈裟だけど生きていて良かったと思った。


爪木埼灯台を背に新しい終わりなき旅の始まり


諦めてしまったら辿り着けない景色がある。それは生きることも同じ。環境や年齢や誰かのせいにせず、新しい発見を追い求めていきたい。この美しく雄大で唯一無二な爪木埼の風景が、そしてMr.Chidrenの音楽が、今も僕の背をずっと見守り風となってそっと未来へと押してくれている。そんなことを考えている。


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