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最近の記事

『鎌倉物語 第十一話:父は癌になる運命だったのだろうか』

あらかじめすべての物事はそうなると決まっている、という話。 再現性がなく非科学的。 でも運命は存在しないと断ずるのもまた非科学的。 どんな事象も起こり得ないことでない限りは起こり得る。 結局のところ運命とは、起きてしまったことをどう呼ぶか、という話に過ぎない。  鎌倉の海を眺めながら、僕は運命というものについてぼんやりと考えていた。最近は夕方になると店を閉めて、この海が見えるカフェに来るのが日課になっていた。昼食とも夕食ともつかない食事をとりながら、冬になってすっかり人気の

    • 『鎌倉物語 第十話:人は2つの人生を生きることはできない』

      最後の運動会  高校2年生になってしばらくして、激しかった怒りの渦が少しずつおさまっていった。来年高校3年生として迎える最後の運動会に、クラスの意識が向いていったことがきっかけだった。  Kでは高2から高校入学組も混じったクラス編成になり、中高の6年間で高2と高3の2年間だけクラス替えがない。つまり5月に運動会を終えた高2は、1年間という長い時間をかけて、次の運動会の準備に入っていく。運動会愛の強かった僕は、クラスが一体感を高めていくこの過程で、自分もクラスの一員として貢献し

      • 『鎌倉物語 第九話:日本一の学校で待ち受けていた挫折』

        憧れて入ったK中学、僕は居場所を失い泣いた  1991年の4月は風の強い日が続いた。そんな春一番が強烈に吹く頃、待ちに待った入学式当日をむかえ、僕は兄と一緒に胸を躍らせて念願のK中学へ登校した。クラスは1年1組。新しい生活の場、新しい友達。一日中浮足立って、その日は終わった。  Kの新入生は入学した次の日から、K校最大のイベントである「運動会」を経験する。「K校の1年は運動会のためにある」という人もいるほど、伝統ある崇高な行事で、中1が「伝統ある男子校」の洗礼を浴びるイベント

        • 『鎌倉物語 第八話:中学受験戦線異常あり』

          物語のはじめに 教育熱心な両親のもとに生まれた僕は、中学受験の結果、日本有数の進学校であるK中学に入学。エスカレーターの同高校を経て、一橋大学に入学、2002年に卒業した。みんなは僕のことをHIROと呼ぶ。英雄(HERO)のように生きなさい、という母の教育とどこかリンクしているのが、今では少しくすぐったい真実だ。 僕の父と母 両親はともに関西出身。橋本徹などを輩出したことで知られる進学高の同級生だ。父には兄がいて、兄弟そろって東京大学卒だが、父の家は経済的に余裕がある方では

        『鎌倉物語 第十一話:父は癌になる運命だったのだろうか』

          『鎌倉物語 第七話:目に映る現実は人の数だけ存在する』

           二子玉で合流したHIROと僕はバイクを走らせ、利根川の方へと向かった。  茨城との県境にある、ギリギリ千葉県という場所がHIROの育った街だった。大手ディベロッパーが開発した綺麗な家が並ぶその街並に僕はなんともいえない違和感を感じた。そこが横浜の青葉台と言われれば特に何も思わなかったと思う。ただ、のどかな田園風景が広がる土地の一角に、突如出現した人工的な街は、M・ナイト・シャマラン監督の『ウェイワード・パインズ 出口のない街』を思わせた。  もちろん、荒廃した世界の中に取り

          『鎌倉物語 第七話:目に映る現実は人の数だけ存在する』

          『鎌倉物語 第六話:相反する者同士の不思議な縁』

           秋と冬が交差しはじめた11月初旬。僕は先日手に入れたばかりの赤の「ZEPHYR400」に乗って、友人HIROとの待ち合わせ場所に向かっていた。鎌倉から都内の待ち合わせ場所まで約1時間。天気も良く、はじめてバイクで走る第三京浜の風が心地良い。  HIROとは大学のころからの付き合いでもう20年以上になる。大学生の就職を支援するコミュニティがあって、そこで出会ったのが最初。はじめて見た時の印象は「なんか目立つ奴」って感じだった。  コミュニティの中で積極的に発言し、行動すること

          『鎌倉物語 第六話:相反する者同士の不思議な縁』

          『鎌倉物語 第1章:見るべき程の事をば見つ後の人生』

          序章 古本屋をはじめて3日が経った。客はまだ1人も現れない。来る気配すらない。だから今日も日がな一日、父が遺した本を読んで過ごすことになるのだろう。雑多に並べた本の中から『乞食王子』が目にとまる。「バカヤロー解散」で有名な吉田茂の息子にして作家の吉田健一が、乞食王子という独特の視点から、日本の街、社会、文化について語った随筆集だ。 「今日はこれかな」  本を手に取ると店の一角のお気に入りの場所に腰を下ろす。  窓から入ってくる春の陽があたたかく包み込むその場所は、ゆったりと流

          『鎌倉物語 第1章:見るべき程の事をば見つ後の人生』

          『鎌倉物語 第五話:終わりと始まりのクロスロード』

          父の教え  父はもともと大学の教授をしていてユニークな人だった。僕が人生に迷い困ったときに相談しても「おまえの人生なんだから、おまえの好きにしろ」とだけ言われた。「じゃあ、好きにするよ」と伝えると「母さんには迷惑をかけるなよ」とだけ笑いながら言っていたのが印象深い。そんな風に人が重たいものを抱えて相談した割にライトに答えたと思ったら、あるときふと思い出したようにこんな話をされた。 「人間っていうのは生まれながらに、心の中に自分が快適に暮らせる村を持っている。そこにいれば食べ

          『鎌倉物語 第五話:終わりと始まりのクロスロード』

          『鎌倉物語 第四話:努力の上に花が咲く』

          絶望の次に訪れるメジャー雑誌の編集長という大役  銀座での出来事からしばらくして、出版界のとあるレジェンドから連絡が入る。売上を大きく落としている雑誌があるから、編集長として力をかしてくれないか?ということだった。聞けば冗談半分で学生のころ「あの雑誌の編集長やりたい」なんて言った覚えのある、自分も読者だった誰もが知っているような雑誌だった。今までニッチなマーケットの雑誌しか作ってこなかった僕に、いきなりメジャー雑誌の編集長のオファーが届いたのである。前の雑誌で売上を上げていた

          『鎌倉物語 第四話:努力の上に花が咲く』

          『鎌倉物語 第三話:人生の分かれ道とは?』

          ダメ編集長の苦難の船出  雑誌を作っていく中で、どうせなら自分で企画を決められるようになりたいなと思い、いつの間にか編集長をめざし出版社にうつった。業界ヒエラルキーでは最底辺の出版社だったが、自社ビルは綺麗でオシャレだった。有名なファンドも出資していて、会社の1階にはカフェも併設されていた。ただ、採用面接はゆるくて聞かれたのは3つ。 「二輪の免許持ってるみたいだけどバイクある?」 「バイクで出社することは可能?」 「いつから来れる?」  2つのイエスの後には入社が決まっていた

          『鎌倉物語 第三話:人生の分かれ道とは?』

          『鎌倉物語 第二話:遠く故郷から離れた場所で』

          大学デビューと就職留年  大学に入学して1年間は大人しく勉強していた。早稲田の一文は1年生の成績で、どの専攻に入るかが決まる。下手にサボると自分がまったく興味のない学科に入って、卒業できないと言われていた。そのため大学入学後もしっかり勉強する必要があった。周囲は明らかに自分よりも頭が良かったが、持ち前の器用さでうまく単位をとり、文学部内でも人気の演劇映像専修に入ることができた。  2年生からはイベントサークルの仲間と毎週末のようにクラブに行き、女子大をナンパしてまわり、派手に

          『鎌倉物語 第二話:遠く故郷から離れた場所で』

          『鎌倉物語 第一話:物語の始まりに向かって』

          序章 古本屋をはじめて3日が経った。客はまだ1人も現れない。来る気配すらない。だから今日も日がな一日、父が遺した本を読んで過ごすことになるのだろう。雑多に並べた本の中から『乞食王子』が目にとまる。「バカヤロー解散」で有名な吉田茂の息子にして作家の吉田健一が、乞食王子という独特の視点から、日本の街、社会、文化について語った随筆集だ。 「今日はこれかな」  本を手に取ると店の一角のお気に入りの場所に腰を下ろす。  窓から入ってくる春の陽があたたかく包み込むその場所は、ゆったりと流

          『鎌倉物語 第一話:物語の始まりに向かって』