Netflix『ベッカム』を視聴して
フットボール界で最もファンが多いプレイヤーの一人デビッド・ベッカム。そんな彼のこれまでの半生を辿るドキュメンタリー『ベッカム』がNetflixより配信された。
ベッカムといえばその甘いマスクから男性ファンだけではなく、多くの女性ファンも虜にする選手だ。実際日本でも、2002年日韓W杯で彼が来日すれば空前の「ベッカムブーム」が巻き起こなど、その影響はスポーツの枠にとどまらない。
彼の代名詞といえば独特なフォームから弧を描いて繰り出されるFK(フリーキック)であり、イングランドプレミアリーグにおけるFKによる最多得点記録18点は現在も彼のものだ。
また、昨今はアメリカのインテルマイアミでオーナー業を務めており、このクラブはリオネル・メッシを獲得したことでも大きな話題を呼んだ。
彼は選手、ビジネスマン、有名人、そして男として。誰もが羨むような存在だ。しかしそんな一面からだろうか。彼のフットボーラーとしての姿を誤解している人も少なくない。
彼がフットボーラーとしてこれまでに歩んだキャリアは決して「順風満帆」なものではなく、多くの挫折と壁が伴うものだった。デビッド・ベッカムが掴んだ成功者の証は、ただ胡坐をかいて待っていただけではなく、彼が死に物狂いで掴み取ったものであるということがこのドキュメントーには描かれている。
本ドキュメンタリーのおもしろさ
フットボーラー及びスポーツ選手の抱えるジレンマは「スポーツだけ」では生きていけないことだ。どんな選手も、毎回100パーセントの力で試合に集中して、良いパフォーマンスを発揮することができることが理想なのかもしれない。しかしどんな選手も家族、お金、恋愛、人間関係、感情など、様々な要素が混ざり合っているなかで形成されており、それらを意識せざるを得ない。そしてそれら多くの事柄に振り回されるベッカムの姿がなんとも人間らしいのだ。
そして僕が本ドキュメンタリーを視聴して、特に印象深かったのが元スパイスガールズであり、現在の妻ビクトリア・ベッカムとの関係性だ。
大物カップルとして注目され続けてきた二人だが、そこには良くも悪くも「フットボールに興味がない」ビクトリアの姿があった。
ベッカムにとって大事な試合の前日に、赤子を身ごもったということを報告したり、彼のキャリア以上に家族の生活を大事にしたいと願う姿は、人生が「スポーツだけ」ではないことの象徴的な存在であり、フットボールファンの僕にはない、純粋なフットボールとの関わり方を彼女は教えてくれた。
実際、作品内でも彼女だけがフットボールの世界における唯一の「部外者」として存在しており、そんな彼女の言動がその他多くのフットボール関係者にメスを入れる。
彼女の存在はフットボールファンとそうではない人を繋ぐものだ。おそらく、視聴者がフットボールファンであるか否かでビクトリアに対する印象は変化するはずであり、彼女の発言がこの作品をフットボールファン以外の共感を呼び、おもしろいものとしている。
「人生はフットボールがすべてではない」。そのリアルのなかで、人生をフットボールとは切っても切り離せないベッカムの半生が濃密に語られる。
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