ファンレターはラブレター

ファンレターを書いた事ありますか？
私はあります、5年位前に。

大好きな作家の先生に自分の想いと感謝と、
作品を読む事で元気や勇気をもらったり、深く考える機会が出来た事がうれしくてうれしくて、伝えたくて堪らなくて、その想いを淡いブルーの便箋に万年筆で書いた。

メールを送る事にしようかとも思った、でもそれだと宛先はどこになるのだろう？出版社宛にメールでファンレター？それは違う気がする、いや送れるかも知れないけど何かヤダ、先生はSNSとかやってないからアカウントをフォローする事も出来ない、そう考えると、やっぱりここはレトロに手紙を書くのが王道だろう、その方が読んでもらえて、多少なりとも印象に残る物になるんじゃないだろうか？
まだ書いてもないくせに妄想ばっかり、ちょっと気持ち悪いよ私。

スマホやPCを使っていると、紙に文章を書く事に慣れていないと気付く、普段は予定変換ばかりだから字を書くと間違えるし、綺麗に中央揃えなんてしてくれない。

気がつけば買った便箋の束の半分以上使っても、まだ手紙は完成していなかった。
だって、綺麗な手紙を送りたいから、書き間違えたり、ちょっとでも変だと思ったら、次の紙へ、また次の紙への繰り返し。

やっとのおもいで書き終えて、封筒に入れ切手も貼った、後はポストに入れるだけ。
書き終わった安堵感からか、しばらくすると猛烈に恥ずかしくなってきた。
何枚も何枚も書き直すって重くない？
一方的にファンです大好きです、ってどうなの？乱暴じゃない？想いがダダ漏れじゃん。うーわー、恥ずかしい。
そもそも作家の先生に文章を送るって、おこがましいし、大胆すぎる。

考え出すと止まらなくなり、好きバレは避けなければならない！いや、ファンレター出した時点でバレてしまう。どうしよう、どうしよう。そして否定的な考えを強引に展開して、変な決意のもと投函するのはやめた。

そんなだけれど、出しておけば良かったと今は思う。
それは、私が昔ラブレターを渡した事を思い出したからだ。小学校1年生、大好きだったクラスメイトのランドセルの中にこっそり入れた。

小さな便箋に「たつやくん すき」
たったそれだけを書いた手紙、ちゃんと封筒にも入れた。相手の名前とすきの二文字だけ、しかも全部ひらがな、超シンプル、めちゃめちゃストレート。

ランドセルに手紙を入れた次の日、
たつや君はこう言った。

「武田さー、ランドセルの中に変な手紙入れてきただろ」

「うん、入れたかっただけ」

返事をするより先に耳が熱くなった、何で話しかけてくるの？逃げ出したい。
まともに会話出来なくて、適当な事を言ってその場を離れた。

けれどその後何が起こった訳じゃなかった、両想いだったかどうかさえ定かではない。
幼いなりに手紙を渡した事で満足していたし、たつや君の事は卒業するまでずっと好きだった。

今考えると、なかなかオマセだと思う、けれどホントそれっきりだった。
キラキラしたスクールライフでもなく、サバサバさっぱりした性格と言われ続け、小中高と部活少女できゃっきゃ、うふふするような恋愛パートなんて私にはなかった。

ファンレターはラブレターみたいな物だ、シンプルで取り繕わなくていい、
好きバレ上等！やらない後悔より、やる後悔、
書いたけど投函してないから、不完全燃焼なんだ私、そうか、そうだよ、これはファンレターを書くしかない、一酸化炭素中毒になってしまう前に。